しくじり症例から学ぶ総合診療
地域医療・福祉の現場での多職種連携
2025年問題が間近にせまっている昨今,多疾患,フレイル,認知症,老老介護など,医師が自分の専門の病気をみて治すだけでは患者が地域で生活できない時代になってきている。地域で生活する患者を支えるためには医療と福祉の統合が欠かせない。患者に関わる専門職が多くなったため,多職種連携が大事であることは言うまでもない。連携がうまくいかないとどのような問題が起きるのか。また,それを防ぐためにはどのように連携をとっていけばよいのだろうか。
本項では入院医療ではなく,多職種が多職場で働いている地域医療・福祉の現場での問題を取り上げ,診療所のかかりつけ医,在宅医の立場で多職種連携を考えたいと思う。
症例1 患者:89歳,女性
アルツハイマー型認知症,老衰,寝たきり状態の患者。しだいに拘縮が進んできている。誤嚥性肺炎を繰り返し,2年前に胃瘻を造設して訪問診療が始まった。要介護5。意思の疎通はほとんどできない。夜中に騒ぐことがあり,訪問看護師の勧めで精神科にも通院している。
65歳の息子,63歳の嫁と3人暮らし。主介護者は嫁。
- A診療所:月2回の訪問診療
- B訪問看護ステーション:週2回の訪問看護
- C訪問介護ステーション:週2回の入浴サービス
- D精神科クリニック:2カ月ごとに通院し薬を処方
●経過
半年前にC訪問介護ステーションからの情報で臀部の褥瘡が発覚した。A診療所の指示のもと訪問看護にて湿潤療法を続けていたが,一進一退を繰り返し,嫁も困ってB訪問看護ステーションの訪問看護師に相談した。B訪問看護ステーションがよく知る皮膚科医を受診することになった。その後は皮膚科医の指示のもと褥瘡の処置が行われ,頻回に皮膚科を受診することになった。このため,A診療所の訪問診療では褥瘡のケアに関しては介入しづらくなった。
ある日の午後,訪問入浴の際に発熱があったため,ヘルパーが「肺炎かもしれないので往診してもらったほうがよい」と患者家族に伝え,家族からの電話連絡によりA診療所が臨時往診したところ,褥瘡からの感染が認められた。A診療所の在宅医は,皮膚科に連絡するように伝え往診を終えた。しかし,皮膚科は休診であったため家族は救急車を呼び,救急病院に入院となった。A診療所の在宅医は,救急病院からの連絡で診療情報提供を求められたが,皮膚科の治療経過がわからず,診療情報提供書の作成に困ってしまった。
読者のみなさんは,このケースのどこに違和感を持っただろうか。次のような問題がありそうである。
- 訪問診療が行われているのに精神科と皮膚科の外来受診をしている
- 皮膚科との情報共有がない
- 褥瘡悪化時,在宅医に相談なく皮膚科を受診している
- 拘縮が起きているのにリハビリを行っていない?
- 訪問看護ステーションは在宅医を信頼していない印象がある
- 発熱時に皮膚科と連絡をとらずに帰ってしまった在宅医
- 電話相談の順番に取り決めがない
- すべてにおいて情報の共有ができていない
以上のように,在宅医に相談がなかったり,知らない間に他科を受診していて情報が共有されていないことがよく起こる。在宅医としては,すべての医療機関,福祉サービス機関を把握して情報を共有しておくことが必要である。すべての健康問題に関して,まずは在宅医に相談してもらい,在宅医から他科へ紹介することが望ましい。そのためには,在宅医はケアに関わるすべてのメンバーが何でも相談できる信頼関係を築く必要がある。
このケースの問題点は,大部分がコミュニケーション不足によるもので,そのために役割が共有できていないこと,信頼関係が構築できていないことに原因がありそうだ。
このような問題を引き起こさないように,多職種連携のために知るべきこと,やるべきことについて述べる。
多職種を知る
まず,多職種の種類と役割を述べる。「これはこの職種にお願いすればよい,こんなことがあったから〇〇さんに連絡しておこう」などと普段から認識しておくとよい。地域のリソースに目を向け,そこで働く多職種の人々と顔の見える関係になることを心がけたい。在宅医療・介護に関わる施設と主なメンバーを図1に示す。
ヘルパーなど介護職員も医療に関する行為(体温,血圧,酸素飽和度の測定,ガーゼ交換,外用薬使用など)ができる。詳しくは厚生労働省の「医師法第17条,歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」1)を参照してほしい。
多職種協働のカンファレンス
❶サービス担当者会議/多職種カンファレンス
ケースの問題点やケアプラン,多職種の役割を共有する場となるだけではなく,ケアメンバーにとっては顔の見える関係,信頼関係を築く場となる。看護師に任せたりせず,できる限り出席してほしい。症例1のように,何かあったときに相談してもらえない医師にはなってほしくない。
患者家族や施設のスタッフからの情報は大変重要である。患者と月に数十分ほどしか会わない医師には,全く気づくことができない情報が多い。家族や施設のスタッフなどは,生活する患者をよくみているため,少しの変化にも気づいていることがある。たとえば誤嚥性肺炎を起こした患者がいた場合,ヘルパーは以前から「食事介助時にむせていることに気づいていた」ことも少なくない。そこで,どんな情報を医師に伝えればよいのかを,医師以外のチームメンバーが知っていることが大事である。
医療と福祉(介護)の統合ケアを効果的にするためには,伝達する情報の質を上げる必要がある。サービス担当者会議では小さなことでも何でも情報を交換したい。そのため,医師が一方的に病状説明をするようなことは避けたい。まずは何でも言える場,どんな発言をしても安全な場とする。サービス担当者会議での顔の見える関係づくりができると,普段からちょっとした変化を福祉職員や家族が医療職に伝えやすくなる。
また,医師は「今後起こりうること」をケアメンバーに伝え,そのとき,誰から誰に連絡し,その後どのように対応するかを話し合う。症例1のように,家族が誰に相談すればよいのかわからず迷うということのないようにしておきたい。たとえば,「急変の際には訪問看護師に連絡をする,訪問看護師は患者宅に赴いて主治医に連絡し,場合によっては往診を依頼する」などの取り決めをしておくとよい。DNAR(do not attempt resuscitation)の確認をとっておいたとしても,家族が救急車を呼んでしまうことをよく経験する。何でも「まずは訪問看護師に電話!」と決めておくのがよいかもしれない。
表1に医師が知っておくべきサービス担当者会議の要点をまとめた。
❷退院時カンファレンス
症例2 患者:68歳,女性
卵巣がんの末期,肺転移,胸水がある。夫(70歳,無職)と2人暮らし。娘家族と息子家族は電車で50分くらいのところに住んでいる。
●経過
がん専門病院で抗がん剤の入院治療を行っていたが,退院して自宅療養をすることになり,A診療所に訪問診療依頼の連絡があった。その週の金曜日に診療情報提供書が届き,その内容は,「がん専門病院にはこれからも通院する予定である。食欲がないことや呼吸苦など,普段の訴えに対して点滴やHOTの酸素量調節などをしてほしい。最期は緩和ケア病棟に入院可能である」とのことであった。
退院日は,診療情報提供書の届いた当日(金曜日)の夕方。家族とも会っていない。オピオイドも使用しているようだが主治医が調整するのだろう。訪問看護が入っているのかも不明。A診療所の看護師は家族と電話連絡をとり,まずは翌週の月曜日に初回訪問診療に行くことを約束した。月曜日,A診療所から自宅訪問前に電話すると,「土曜日夜に呼吸が苦しそうなので,救急車を呼んで近くの病院に入院しています」とのことであった。
このような症例は,都会の分断された専門医療の現場ではありがちである。以下に,共有しておくべきことだが診療情報提供書だけではわからない点を挙げる。
- 本人への病状説明(告知含む)は済んでいるか?
- 予後と今後の予測,その対処法は?
- DNARの確認はとっているか?
- 主介護者とキーパーソン,他のケア担当者は誰か?
こういったケースでは,少なくとも退院時カンファレンスを開くべきである。平成27年度の厚生労働省の調査2)によると,退院時カンファレンスに病院の医師が参加する割合は56.4%,在宅支援側の医師が参加する割合は11.0%と低い。また,平成28年度の同調査3)においては,退院時カンファレンスに対してケアマネジャーが問題だと感じている点は表2のようになっている。退院時カンファレンスが行われていない(28.0%)ことや,ケアマネジャーを呼ばない(20.3%)という項目の割合が高いのは深刻な事態であり,コミュニケーションの問題,生活支援の視点がないという問題が浮かび上がっている。
病診/診診連携
❶他科との連携
かかりつけ機能を持つ医師と他科の連携ができておらず,患者のケアが不十分になることをしばしば経験する。訪問看護師やヘルパーなども患者の日々の変化を誰に相談すればよいのかがわからず,対応が後手後手になってしまう。
理想は全体を知っているかかりつけ医が1人いて,他科と連携して治療計画を共有し,訪問看護指示書も作成することである。各科主治医が何人もいる場合は総合診療医や家庭医が各科主治医に相談し,薬剤の管理や多職種連携のリーダーシップをとることが望ましい。各科専門受診の目的は薬剤の処方が主で,検査などはあまり行われていないことも多い。
筆者は主治医に,「情報提供願いの手紙」を書くことがよくある。疾患の情報,受診日,検査日を知らせてほしいということや,自分でできる処置などがあれば教えてほしいこと,当方で薬剤処方が可能であること,その他の指示などを情報提供してもらえるようお願いをしている。このようなやりとりを柔軟にするためにも,普段から顔の見える関係性をつくっておくことが役立つのは言うまでもない。
特殊な疾患や末期がんなど,病院に主治医がいて地域に在宅医もいる場合の連携でも,上記のような工夫で在宅医が主たるかかりつけ機能を果たすとよいだろう。
❷2人主治医制
「かかりつけ医として患者を最期までみたい,そのために訪問診療をやりたいが1人ではできない」と考える開業医は多い。連携型機能強化型在宅医療支援診療所はグループで臨時往診をカバーできるので良いシステムであるが,知らない患者の臨時往診はかなりハードルが高いと感じる人も多いだろう。
そこで,ゆるく診診連携グループ診療に関わる方法が少しずつ広がってきている4)。緊急時のファーストコールは主治医が対応をして,あらかじめ挙手していた(複数の場合もある)副主治医が主治医と連絡をとり,往診では主治医の診療方針で治療を行うというものである。このような,いわば「2人主治医制」で24時間365日の医療のハードルが下がる。
他にもがん患者など,将来緩和ケア科や在宅医療に移行する可能性が高い疾患を,がん専門医→緩和ケア医→在宅医が協働して切れ目なく診療を継続していくタイプの,「2人主治医制」が推奨されている5)。がん患者は緩和ケア科や在宅医療に紹介されると,「見放された」と強く感じるものである。複数の医師がゆるやかに関係性を築いていくことで,診療内容の継続性も医師患者関係も良好になる。
多職種に対するリスペクトが重要
多職種連携のしくじりの多くは,(特に医師との)コミュニケーション不足から起こる。カンファレンスに出ること,普段から顔の見える関係づくりをするなど,診察室の外に出てまめに人と会うことが大事である。
また,多職種を知ることと,多職種に対するリスペクトが重要だと考える。忙しさを理由に機嫌を悪くしたり,緊急性はないが重要な事柄の優先度を下げたりしていると,結局は自分が苦労し患者の不利益にもなる。自身の働き方を見直し,本当に大事なことのための時間をつくってほしい。
文献
- 厚生労働省: 医師法第17条, 歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31 条の解釈について(平成17年7月26日付医政発第0726005号厚生労働省医政局長通知).
- 厚生労働省: 平成27年度居宅介護支援事業所および介護支援専門員の業務等の実態に関する調査研究事業報告書. 2016, p32.
- 厚生労働省: 平成28年度居宅介護支援事業所および介護支援専門員の業務等の実態に関する調査研究事業結果概要. 2017, p6.
- 石島秀紀: 診診連携や訪問看護との連携. 在宅医療バイブル. 第2版. 川越正平, 編. 日本医事新報社, 2018, p154-9.
- 川越正平, 他: 医学界新聞. 2017;3240:1-2.
しくじり症例から学ぶ総合診療
「しくじり症例から学ぶ総合診療」
編者: 雨森正記(弓削メディカルクリニック院長)
監修: 西村真紀(川崎セツルメント診療所所長)
提供/発行所: 日本医事新報社