アフィニトール
結節性硬化症(TSC)
International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Groupからの結節性硬化症の診断および検査・治療に関する提唱
概要
世界TSC会議(2018 World TSC Conference)が2018年7月に米国ダラスで開催され、国際的な診断基準および検査・治療に関するレコメンデーション1)が発表されました。
この会議の目的は、2012年のコンセンサス・レコメンデーション2,3)を、結節性硬化症の検査・治療に関する最新の科学的エビデンスや臨床実績に基づいて改訂することで、14ヵ国、80名以上の専門家より成る国際結節性硬化症コンセンサスグループで検討されました。以下にPediatric Neurology誌に発表された論文をもとに、このレコメンデーションを概説します。
改訂された国際結節性硬化症の診断基準および検査・治療におけるレコメンデーション
【Northrup H, et al. Pediatr Neurol 2021; 123: 50-66.】
診断基準のおもな改訂点
- 遺伝子診断基準*では、一部の結節性硬化症患者にTSC1またはTSC2遺伝子変異のモザイクがみられるという最新の知見を取り入れました。
*遺伝子検査のメリット、デメリットをしっかり把握することが必要です。日本では通常、出生前診断は行うことはできません。また、遺伝子検査は一部の研究機関のみで実施しており、保険適応外です。 - 臨床的診断基準の大基準の“皮質異形成”を“多発性皮質結節および/または放射状大脳白質細胞神経移動線”と変更しました。
- 小基準に“硬化性骨病変”が追加され、6項目から7項目になりました。
Northrup H, et al. Pediatr Neurol 2021; 123: 50-66.
表1 改訂された結節性硬化症診断基準
A. 遺伝子診断基準
- 正常組織から抽出したDNAにおいてTSC1またはTSC2の「病的バリアント」が特定できれば、結節性硬化症の確定診断に十分である。
- 病的バリアントはタンパク質合成を明確に阻害し、かつ/またはTSC1またはTSC2タンパク質機能を不活性化するバリアント(フレームシフトバリアントあるいはナンセンスバリアント、大きい欠失)か、またはタンパク質機能への影響が機能評価で確実なミスセンスバリアントである(Hoogeveen-Westerveld M, et al. 2011, 2012 and 2013, Dufner Almeida LG, et al. 2020)。遺伝子検査*の普及に伴い、TSC1またはTSC2における新規病的バリアントは継続的に同定されていることに留意しなくてはならない。
- TSC1またはTSC2遺伝子の塩基置換によるタンパク質合成やタンパク質の機能への影響が不確実な場合、「病的バリアント」と断定することはできず、病原性に関するACMG(America College of Medical Genetics)の追加基準(Richards S, et al. 2015)による裏付けがない限り結節性硬化症の確定診断とはならない。
- 結節性硬化症患者の10~15%は従来の遺伝子検査では変異を特定できないため、遺伝子検査でTSC1またはTSC2の病的バリアントが同定されずとも結節性硬化症を除外し得ず、結節性硬化症の臨床的診断基準の使用に何ら影響しないことに留意すべきである。
- 次世代シーケンサー(NGS)を用いたHigh-read-depth法では、標準的なNGSまたはNGS以前の検査で正常とされた結節性硬化症症状を有する患者の一部が低頻度モザイクの病的バリアントを持つこと、結節性硬化症の潜在的な原因としてイントロンのスプライス部位変異もまた同定すべきであることが示されている(Tyburczy ME, et al. 2015)。モザイクバリアントでは結節性硬化症の所見は少ないが、あらゆる結節性硬化症症状を発症する恐れがあり、その子孫にモザイクでない結節性硬化症リスクもあるため(Giannikou K, et al. 2019)、注意深い検査と遺伝カウンセリングが必要である(Peron A, et al. 2018)。
*遺伝子検査のメリット、デメリットをしっかり把握することが必要です。日本では通常、出生前診断は行うことはできません。結節性硬化症に関する遺伝子検査は2022年4月より保険適用となりました。
B. 臨床的診断基準
大基準 | 小基準 |
---|---|
低色素性白斑(3個以上、直径5mm以上) | 散在性(Confetti)皮膚病変 |
顔面血管線維腫(3個以上)あるいは前額線維隆起斑 | 歯エナメル陥凹(3ヵ所以上) |
爪囲線維腫(2個以上) | 口腔内線維腫(2個以上) |
シャグリンパッチ(隆起革様皮) | 網膜無色斑 |
多発性網膜過誤腫 | 多発性腎嚢胞 |
多発性皮質結節・放射状神経細胞移動線 | 非腎臓性過誤腫 |
上衣下結節(2個以上) | 硬化性骨病変 |
上衣下巨細胞性星細胞腫 | |
心横紋筋腫 | |
リンパ脈管筋腫症(LAM)* | |
血管筋脂肪腫(2個以上)* |
確定診断(definite TSC):上記大基準2項目、または大基準1項目と小基準2項目
推定診断(possible TSC):上記大基準1項目、または小基準2項目以上
遺伝子診断基準:TSC1またはTSC2に病的バリアントがみられる場合はTSCと診断する[TSCの原因となる病的バリアントの大部分は、TSC1またはTSC2タンパク質の合成を明らかに阻害する配列バリアントである。タンパク質の合成を阻害しないバリアント(ミスセンスバリアントなど)もTSCの原因となることが明らかにされている。他の種類のバリアントを考慮する際は注意が必要である]。
*LAMと血管筋脂肪腫の2種の大基準の臨床的特徴の両方が併存する場合でも、他の特徴を伴わない場合は、確定診断基準を満たさない。
TSC:結節性硬化症
Northrup H, et al. Pediatr Neurol 2021; 123: 50-66, 52-53.
検査・治療に関するレコメンデーションについては、NCCNガイドライン(National Comprehensive Cancer Network. Development and update of guidelines. Available at: https://www.nccn.org/guidelines/guidelines-process/development-and-update-of-guidelines.)の構成方法に基づき、各レコメンデーションの内容についてエビデンスレベルに応じて、レコメンデーションカテゴリーが設けられています(表2)。結節性硬化症の「新規診断例または疑い例」と「確定診断例または推定診断例」とに分けて示されています。検査・治療の基準における主な改訂点は、脳波異常の早期スクリーニングの重視、結節性硬化症に関連する神経精神障害の検査・治療の強化、新薬の承認などになります。
以下に、検査・治療に関するレコメンデーションを、遺伝子検査*と臓器別にご紹介します。
*遺伝子検査のメリット、デメリットをしっかり把握することが必要です。日本では通常、出生前診断は行うことはできません。結節性硬化症に関する遺伝子検査は2022年4月より保険適用となりました。
新規診断例または疑い例の検査・治療
表3 結節性硬化症の新規診断例または疑い例の検査・治療のレコメンデーション
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遺伝子
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患者の近親3世代の家族歴を入手し、血縁者についての結節性硬化症リスクを評価する。家族へのカウンセリングのために、または結節性硬化症の診断が疑われるものの臨床的に確定できない場合には、遺伝子検査*を勧める。 *遺伝子検査のメリット、デメリットをしっかり把握することが必要です。日本では通常、出生前診断は行うことはできません。結節性硬化症に関する遺伝子検査は2022年4月より保険適用となりました。 -
脳
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結節性硬化症関連神経精神症状(TAND)
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腎臓
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肺
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皮膚
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歯
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新たに診断された乳幼児では、最初の歯が生えた時または遅くとも生後12ヵ月までに口腔評価を行い、かかりつけの歯科医を決めておくことを推奨する。口腔評価が完了していない場合は、診断時にベースライン評価を行うことを推奨する。単発の病変(口腔内線維腫または歯エナメル陥凹)は、一般的に発生する可能性があるが、複数の病変が確認された場合、結節性硬化症関連の他の所見を注意深くスクリーニングする。 -
心臓
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眼
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結節性硬化症と診断されたすべての患者には、網膜星状細胞過誤腫および網膜無色素斑をスクリーニングするために、散瞳眼底鏡検査を含む眼科的基礎評価を推奨する。 -
その他
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動脈瘤、消化管ポリープ、骨嚢胞、さまざまな内分泌異常は結節性硬化症と関連する可能性があるが、臨床症状やその他の調査すべき病歴がない限り、診断時にルーチンでの評価を支持する十分なエビデンスは存在しない。
結節性硬化症の確定診断例または推定診断例の検査・治療
表4 結節性硬化症の確定診断例または推定診断例の検査・治療のレコメンデーション
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遺伝子
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脳
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結節性硬化症関連神経精神症状(TAND)
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TANDチェックリスト(https://tandconsortium.org/checklists/)のような有能なスクリーニングツールを用いて、生涯にわたり1年ごとに、あるいは臨床的に必要に応じてより頻回にTANDスクリーニングを行うべきである。スクリーニングで懸念事項が確認された場合、適切な専門家が評価し、関連するTANDの症状を診断し治療する。 毎年のスクリーニングに加え、発育上の重要な時期にTANDの正式な評価を行うことを推奨する。 この評価には、精神科医、心理学者、神経心理学者、その他医療、教育、神経発達の専門家など、さまざまな専門家の意見が必要である。突然の予期せぬ行動の変化では、医学的な原因(例:上衣下巨細胞性星細胞腫[SEGA]、発作、腎臓疾患、薬物療法)の可能性を検討するための身体的評価を促す必要がある。 TAND症状に対する早期発見と早期介入は、最適な転帰を得るために重要である。 現在、結節性硬化症に特異的な介入は、どのTANDの症状に対しても存在しない。しかし、自閉症スペクトラム障害、注意欠如/多動性障害、不安障害など、TANDの傘下にある個々の障害には、エビデンスに基づく治療戦略が存在する。適切な専門家による介入は、各個人のTANDプロファイルに合わせ、エビデンスに基づく診療ガイドラインまたは個々の症状に対するパラメータに基づくべきである。 結節性硬化症の患者の多くは、学業上の困難を抱えており個別の教育計画が有益である場合がある。 結節性硬化症が家族全員に影響を及ぼす可能性があるため、家族や介護者も心理的・社会的支援を必要とする場合があり、適切な支援を提供または紹介する戦略をとる必要がある。 家族および介護者は、生涯を通じて出現するTANDの症状を特定できるように、TANDについて教育すべきである。 -
腎臓
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肺
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皮膚
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歯
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心臓
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眼
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その他
参考文献
1) Northrup H, et al. Pediatr Neurol 2021; 123: 50-66.
2) Northrup H, et al. Pediatr Neurol 2013; 49: 243-254.
3) Krueger D. A, et al. Pediatr Neurol 2013; 49: 255-265.
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表2 レコメンデーションカテゴリー
レコメンデーション Category |
概要 | エビデンス |
---|---|---|
Category 1 | 高レベルのエビデンスに基づいており、その介入が適切であるという統一したコンセンサスが存在する | 1つ以上の信頼性の高いclass Iの研究、あるいは2つ以上の信頼性が高く一貫性のあるclass IIの研究、あるいは3つ以上の信頼性が高く一貫性のあるclass IIIの研究がある |
Category 2A | 比較的低レベルのエビデンスに基づいており、その介入が適切であるという統一したコンセンサスが存在する | 1つ以上の信頼性の高いclass IIの研究、あるいは2つ以上の信頼性が高く一貫性のあるclass IIIの研究がある |
Category 2B | 比較的低レベルのエビデンスに基づいており、その介入が適切であるというコンセンサスが存在する | 1つ以上の信頼性の高いclass IIIの研究、あるいは2つ以上の信頼性が高く一貫性のあるclass IVの研究がある |
Category 3 | いずれかのレベルのエビデンスに基づいてはいるが、その介入が適切であるかという点で大きな意見の不一致がある | 結果に不一致があるか、あるいは合意形成には不十分なclass I-IVの研究がある |
各classの定義
class I: 代表的な集団を対象とし、結果評価が盲検化された、前向き、無作為化、対照臨床試験により提供されたエビデンス
class II: アウトカムが盲検化された、代表的な集団における前向き対応群間コホート研究により提供されたエビデンス
class III: 患者の治療から独立した結果評価が行われ、代表的な集団におけるその他すべての比較試験(高度に規定された自然史群や患者自身による調査も含む)により提供されたエビデンス
class IV: 非対照試験、症例集積研究、症例報告あるいは専門家の見解により提供されたエビデンス