アフィニトール
結節性硬化症(TSC)
監修:大野耕策 先生(鳥取大学名誉教授)
日本小児神経外科学会・日本結節性硬化症学会・日本臨床腫瘍学会
『上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)診療ガイドライン』
作成の端緒 SEGAガイドラインを公開して
2018年12月に、小児脳腫瘍ガイドラインの端緒として ⼩児脳腫瘍編の第⼀弾、上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA)のガイドラインを⽇本脳腫瘍学会のホームページ上にアップいたしました。 脳腫瘍診療ガイドライン ⼩児脳腫瘍編は、公益財団法⼈⽇本医療機能評価機構が⽰すEBM普及推進事業Minds(マインズ)の「診療ガイドライン作成の⼿引き2014」(Minds2014)に準拠して作成しているのが⼤きな特徴です。「第三者がトレース可能なように作成過程を記載し、資料を保存しながら、統括委員会、作成ワーキンググループ、システマティックレビュー委員会が三位⼀体となってガイドラインを作っていく」、これは⾔うは易く行うは難しな作業でありました。SCOPs、PICO、エビデンス総体の作成、バイアスリスクの評価、AGREE II、どれをとっても脳腫瘍臨床に携わる医師にとっては⼿強いものでした。これら多くの壁を乗り越え、SEGAガイドラインを作成、公開できたのは本部門作成ワーキンググループ市川智継委員⻑と委員各位の地道で真摯な活動の賜でございます。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
非特定活動法人日本脳腫瘍学会
脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会
委員長
広島大学病院がん化学療法科 杉山 一彦
副委員長
北里大学医学部脳神経外科 隈部 俊宏
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診療アルゴリズム
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診療の全体的な流れ
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診断
結節性硬化症に伴う神経病変としては,SEGAの他,大脳皮質結節(cortical tuber),上衣下結節(subependymal nodule:SEN),放射状大脳白質神経細胞移動線が知られているが,臨床上SENとSEGAの鑑別が重要である(図1)。SEGAの画像診断基準(表2)は,「尾状核視床溝(caudothalamic groove)も含むモンロー孔近傍に位置する病変で,(1)最大径1cm以上,(2)経時的に増大する上衣下腫瘍(造影効果の有無を問わない)」となっている1)。通常SEGAでは著しい造影効果を示すが,増大傾向を示す上衣下病変では造影効果がなくともSEGAとみなすべき点に注意を要する。
図1 結節性硬化症に伴う神経病変の画像所見
表2 SEGAの画像診断基準(International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012) 尾状核視床溝(caudothalamic groove)も含むモンロー孔近傍に位置する病変で,以下の条件を満たすもの
(1)最大径1cm以上,
(2)経時的に増大する上衣下腫瘍(造影効果の有無を問わない)なお,SENは5〜10mm未満で通常造影されず増⼤しないが,SEGAに進展する可能性があるといわれている。したがって,結節性硬化症が疑われる患者では,まず診断のために神経学的評価と画像検査を行い,SEGAが発⾒された後も定期的な検査により経時的な観察を継続すれば,増⼤を早期に発⾒することができる。画像検査は,可能な限りMRI検査を行い必要に応じて造影も追加する。⽔頭症の有無もチェックする。ただし,知的障害・⾃閉症を伴う場合は鎮静下の検査となることもあるため,その適応と⽅法に特別な配慮が必要であり,場合によってはCT検査で代用される。
治療
SEGAに対する治療は,腫瘍の制御と神経症状の予防ないし改善,水頭症のコントロールを目的とし,病態によって異なる。病態は,①急性症候性,②非急性症候性,③無症候性(増大あり),④無症候性(増大なし)の4段階に分類する(表3)1,2,)。
表3 SEGAの病態分類
病態分類 説 明 急性症候性 急性閉塞性水頭症や腫瘍からの出血により症候性となり, ただちに治療を要するもの 非急性症候性 腫瘍に起因する非急性の神経症状や, 説明のできない症状の悪化がみられるもの 無症候性であっても, 著しい脳室拡大や急速な拡大傾向, 腫瘍周辺の著しい脳浮腫や脳圧排初見など, 近い将来症候性になりうると考えられるsubclinicalの画像所見がみられるもの 無症候性(増大あり) 腫瘍に起因する神経症状は認めないが, 経時的な画像検査で腫瘍の増大傾向を認めているもの 無症候性(増大なし) 腫瘍に起因する神経症状なく, 経時的な画像検査でも腫瘍の増大傾向を認めないもの 急性症候性の場合は外科的切除が第⼀選択であり,全摘出により治癒する可能性が⾼い。また,SEGAに伴う⽔頭症は,多くの場合は摘出により解消されるが,腫瘍摘出後にも脳室拡⼤・⽔頭症症状が改善しない場合には脳室-腹腔シャント術,あるいは脳室-脳槽間内シャント術の適応を検討する。なお,⽔頭症を伴うSEGAの外科的切除が速やかに行えない場合は,⽔頭症に対する外科的処置を行って⼀時的な症状の改善を行うことがあるが,外科的切除をいつどのようにして行うかなど,あらかじめSEGAに対する治療⽅法を⼗分に検討しておく必要がある。⼿術適応を検討するうえで,腎血管筋脂肪腫(AML)や肺リンパ脈管平滑筋腫症(LAM)などの合併症による全⾝状態を考慮する必要があるが,SEGAは,それらによる腎機能や肺機能の障害が出現する成⼈期よりも前に発症することが多いので,問題になることは少ない。非急性症候性,無症候性(増⼤あり)で,外科的切除が危険あるいは困難と判断される場合は薬物療法や放射線治療が行われることがある。また,外科的完全切除が困難な場合は⼿術前あるいは⼿術後に薬物療法や放射線治療が行われることがある。しかし,現状では非急性症候性や無症候性(増⼤あり)の状況での治療⽅針は明確ではないので,この点についてのCQを主に作成した。
結節性硬化症の原因遺伝⼦であるTSC1遺伝子とTSC2遺伝子は,mTORシグナル伝達経路の負の調節因⼦であり,結節性硬化症に伴うSEGAの治療薬として,mTOR阻害剤が我が国で2012年12⽉に承認された。mTOR阻害剤の有用性を⽰した臨床試験は,病状が安定しており⼿術を必要としないが,画像上増悪傾向のあるSEGAを対象としている3)。投与量は,血中薬物濃度を指標に調節する必要がある。腫瘍縮⼩効果が得られる率は⾼く,通常は3カ⽉以内の早い時期に効果が確認でき,投与継続により⻑期間にわたり腫瘍縮⼩効果が持続する。したがって,⼀般的な抗腫瘍薬に⽐べると,投与期間は⻑期になる。ただし,投与を中⽌すると,いったん縮⼩していた残存腫瘍が再増⼤することがある。また,間質性肺炎,感染症,⼝内炎などの副作用があり,安全性については,妊孕性などまだ明らかにされていない点もある。したがって,mTOR阻害剤は,外科的切除の対象とならない患者での有⼒な治療選択肢となり得るが,その適応は,現時点では明確な基準はなく,症例ごとに検討する必要がある。また,結節性硬化症に合併するてんかん,腎AML,皮膚病変に対して副次的効果が認められることもあるが,SEGA以外ではAMLに対してのみ承認されている。
いずれの治療を選択するかは,個々の症例ごとに,病状・病期,SEGAの治療歴,合併症の病状,⼿術の難易度,施設の経験値,患者・家族の希望,などを考慮して総合的に判断する。また,SEGAと診断され,画像検査によるフォローアップを行う場合は,腫瘍増⼤により起こりうる症状につき,患者ならびに家族が理解し対処できるよう,⼗分な説明を行う。
参考文献
1) Roth J, Roach ES, Bartels U, et al. Subependymal giant cell astrocytoma: diagnosis, screening, and treatment. Recommendations from the International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference 2012. Pediatr Neurol. 2013; 49(6): 439-44. [PMID: 24138953]
2) Krueger DA, Northrup H; International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Group. Tuberous sclerosis complex surveillance and management: recommendations of the 2012 International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference. Pediatr Neurol. 2013; 49(4): 255-65. [PMID: 24053983]
3) Franz DN, Belousova E, Sparagana S, et al. Efficacy and safety of everolimus for subependymal giant cell astrocytomas associated with tuberous sclerosis complex (EXIST-1): a multicentre, randomised, placebo-controlled phase 3 trial. Lancet. 2013; 381(9861): 125-32. [PMID: 23158522] -
推奨
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画像診断
- CQ1結節性硬化症と診断された患者のフォローアップにおいて,頭部画像診断(MRIまたはCT)検査は無症候性SEGAの診断率を高めるために有用か?
- 推奨結節性硬化症と診断された患者のフォローアップにおいて,無症候性SEGAの診断率を高めるために,頭部画像診断(MRIまたはCT)検査を行うことを提案する。(2C)
- CQ2非急性症候性または無症候性のSEGA患者に対して,定期的な頭部画像診断(MRIまたはCT)検査は有用か?
- 推奨非急性症候性または無症候性のSEGA患者に対して,定期的な頭部画像診断(MRIまたはCT)検査を行うことを提案する。(2C)
手術
- CQ3非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対する外科的切除は,急性症候性となってから行われる場合と比較して有用か?
- 推奨非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して,急性症候性となる前に外科的切除を行うことを提案する。(2C)
薬物療法
- CQ4非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して,外科的切除の対象とならない場合に mTOR阻害剤投与は有用か?
- 推奨非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して,外科的切除の対象とならない場合に mTOR阻害剤の投与を提案する。(2C)
放射線治療
- CQ5外科的切除の対象とならない非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して放射線治療は有用か?
- 推奨非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して,外科的切除の対象とならない場合に 放射線治療を行わないことを提案する。(2D)
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推奨の強さ・エビデンスレベル
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① 推奨の強さの提⽰⽅法について
Minds 2014に従い,推奨の強さにエビデンスの強さを併記する。
従来の「エビデンスレベル」,「推奨グレード」は用いない。② エビデンスの強さについて
参考文献
1) Curatolo P, et al. Eur J Paediatr Neurol 2012; 16: 582-586
2) Moavero R et al. Childs Nerv Syst 2010; 26:1495-1504
3) Wu JY, et al. Neurology. 2010; 74: 392-398
4) Jansen FE et al. Epilepsia. 2007; 48: 1477-1484
5) Kossoff EH et al. Epilepsia. 2005; 46: 1684-1686
6) Krueger DA, et al. N Engl J Med 2010; 363: 1801-1811
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CQ1結節性硬化症と診断された患者のフォローアップにおいて,頭部画像診断(MRIまたはCT)検査は無症候性SEGAの診断率を高めるために有用か?
推奨結節性硬化症と診断された患者のフォローアップにおいて,無症候性SEGAの診断率を高めるために,頭部画像診断(MRIまたはCT)検査を行うことを提案する。(2C)
CQ2非急性症候性または無症候性のSEGA患者に対して,定期的な頭部画像診断(MRIまたはCT)検査は有用か?
推奨非急性症候性または無症候性のSEGA患者に対して,定期的な頭部画像診断(MRIまたはCT)検査を行うことを提案する。(2C)
CQ3非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対する外科的摘出は,急性症候性となってから行われる場合と比較して有用か?
推奨非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して,外科的摘出は,急性症候性となる前に外科的摘出を行うことを提案する。(2C)
CQ4非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して,外科的切除の対象とならない場合に mTOR阻害剤投与は有用か?
推奨非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して,外科的切除の対象とならない場合に mTOR阻害剤の投与を提案する。(2C)
CQ5外科的切除の対象とならない非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して放射線治療は有用か?
推奨非急性症候性または無症候性(増大あり)のSEGAに対して,外科的切除の対象とならない場合に 放射線治療を行わないことを提案する。(2D)