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アフィニトール

結節性硬化症(TSC)

監修:大野耕策 先生(鳥取大学名誉教授)

皮膚病変

疫学と発現時期(図1、図2、表1)1)2)

結節性硬化症患者では、90%以上に何らかの皮膚病変が認められます1)。 結節性硬化症の皮膚病変には、①白斑(hypomelanotic macules)、②顔面の血管線維腫(facial angiofibromas)、③シャグリンパッチ(shagreen patch)、④爪囲線維腫(periungual fibroma)などがあり3)、それぞれ発現時期の特徴があります。

① 白斑(hypomelanotic macules)
生下時から出生後の早期に発現します。

② 顔面の血管線維腫(facial angiofibromas)
乳幼児期以降に発現し、5歳以上の結節性硬化症患者の80%以上3)に認められます。

③ シャグリンパッチ(shagreen patch)
年齢ごとに発現率が異なり、5歳以下では25%、5歳以上では50%に認められます。通常、思春期以降に発現します。

④ 爪囲線維腫(periungual fibromas)
結節性硬化症患者の15~52%に認められる皮膚病変で、30歳以上では88%がこの病変を呈しているという報告もあります3)。通常、思春期以降に発現し、その後徐々に増大していきます。

図1 皮膚症状の発現時期
図2 年齢期ごとの皮膚病変の発現率(海外データ)

表1 結節性硬化症における、皮膚病変の発現率(国内データ、海外データ)

症状 発現率
白斑 90%以上
顔面の血管線維腫 80%以上
シャグリンパッチ 25~50%
爪囲線維腫 88%

文献2)3)より作図

日本人結節性硬化症患者における皮膚病変の発現頻度

日本人結節性硬化症患者166人を対象とした疫学調査4)によると、98.8%の患者で何らかの皮膚病変が認められたと報告されています。そのうち、顔面血管線維腫が最も頻度が高く93%の患者に認められており、これは既報にくらべ有意に高頻度でした(p<0.0001、χ2検定)。一方、3つ以上の白斑を有する患者の割合は全体で65%であり、結節性硬化症患者の90%以上に認められるという既報9)-13)にくらべ有意に低頻度でした(p<0.0001、χ2検定)。
年齢期別の各皮膚病変の発現頻度をみると、顔面血管線維腫は発現頻度が最も低い10歳未満でも77%に達しており、他の年齢期では87%を超えていました(図3A)。重症/軽症の顔面血管線維腫の発現頻度は年齢を経るとともに上昇し、30~39歳をピークに低下しました(図3B)。3つ以上の白斑を有する頻度は20歳未満で80%を超えていましたが、年齢を経るとともに有意に低下しました(p=0.003、χ2検定、(図3C)。シャグリンパッチの発現頻度は10歳未満で63%であり、年齢を経るとともに有意に上昇しました(p<0.0001、χ2検定、図3D)。爪囲線維腫の発現頻度は10~19歳から上昇し始め、30~39歳には約85%、50~59歳には100%に達しました(図3E)。

図3 年齢期別の各皮膚病変の発現率
図3 年齢期別の各皮膚病変の発現率
図3 年齢期別の各皮膚病変の発現率
図3 年齢期別の各皮膚病変の発現率
図3 年齢期別の各皮膚病変の発現率
図3 年齢期別の各皮膚病変の発現率

病態・症状

① 白斑(hypomelanotic macules)
白斑は、不明瞭な非色素性の皮膚病変で、3つ以上の白斑は結節性硬化症に特異的なものとされています。典型的な症状は、1㎝以上の一方の端が細く尖った楕円形で、葉状白斑(white leaf-shaped macules)と表現されます。 躯幹、臀部、四肢などに非対称的に現れ、頭部に出現すると白毛を呈します。

写真 白斑 症例写真1
写真 白斑 症例写真2
 

ノバルティス ファーマ社内資料
※異なる症例の写真です。

② 顔面の血管線維腫(facial angiofibromas)
顔面の血管線維腫は、白斑と並んで結節性硬化症患者に特異的に現れる皮膚病変です。顔面の血管線維腫は、皮膚の結合組織成分と血管成分の増加による過誤腫病変であり、鼻部、鼻唇溝部、頬部を中心として顔面の中央部に、左右対称的に蝶形に現れ、下顎部にも認められます。目立つ部位のため患者のQOLにも影響することがあります。

写真 顔面の血管線維腫 症例写真1
写真 顔面の血管線維腫 症例写真2
 

ノバルティス ファーマ社内資料
※異なる症例の写真です。

③ シャグリンパッチ(shagreen patch)
シャグリンパッチは、数mmから10cm以上の正常皮膚色で、時に白、黄色からピンク色がかった軽度に隆起した局面で、表面は碁石状で、豚皮あるいはみかんの皮のような様相を呈します。背部、特に腰仙部、腹部に非対称性に好発します。

写真 シャグリンパッチ 症例写真1

Reprinted with permission from Curatolo P, et al, Lancet 2008; 372:657-668

写真 シャグリンパッチ 症例写真2
 

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※異なる症例の写真です。

④ 爪囲線維腫(periungual fibromas)
爪囲線維腫は、爪の基部、爪甲上、爪甲縁から生じる、正常な皮膚色から紅色の長楕円形の軟骨様硬の腫瘤で、手の爪より足の爪に顕著に認められます。爪囲線維腫は爪床の外傷により誘発されることもありますが、非外傷性に出現した場合には結節性硬化症の兆候と考えられています。

写真 非外傷性の爪囲線維腫 症例写真1
写真 非外傷性の爪囲線維腫 症例写真2
 

ノバルティス ファーマ社内資料
※異なる症例の写真です。

また、TSC1遺伝子変異をもつ症例にくらべて、TSC2遺伝子変異をもつ症例で多数の皮膚病変を伴う割合が有意に高いと報告されています5)

検査

皮膚病変の特殊な検査としてWood灯検査があります。これは、白斑の診断時に色素低下と色素脱失の鑑別に用いられるものです。また、HE染色やその他の免疫染色による組織検査が、白斑部のメラノサイトの有無の確認などのため行われます6)

診断

皮膚病変は結節性硬化症患者の多くに認められるため、診断に有効な症状です。 「3つ以上の顔面の血管線維腫または前額部、頭部の線維性局面」、「2つ以上の爪囲線維腫」、「長径5㎜以上の3つ以上の白斑」、「シャグリンパッチ」が結節性硬化症の診断に用いられる基準7)の大症状(結節性硬化症に特異性の高い症状)に、「散在性小白斑」が小症状(結節性硬化症に必ずしも特異的ではない症状)に挙げられています。診断基準の詳細はこちらよりご覧下さい。 しかし、診断基準にある症状が、必ずしも結節性硬化症に特異的なものとは限らないため、他疾患との鑑別診断をおこなうことも重要です。例えば、白斑は結節性硬化症に特異的なものではなく、1~2個であれば他疾患でも認められることが多い症状です。そのため、結節性硬化症の大症状の白斑は、「長径が5㎜以上で3つ以上存在すること」と診断基準に明記されています。 また、顔面の血管線維腫は結節性硬化症の診断をおこなううえで主要な特徴ですが、多発性内分泌腺腫(MEN)でも認められる病変のため注意が必要です。

治療

日本皮膚科学会の「結節性硬化症の診断基準及び治療ガイドライン」において皮膚病変は、年1回フォローをして、整容的問題や機能障害が生じた場合、あるいは悪性化した場合に治療の対象となるとされています3)8)。皮膚病変は結節性硬化症の多くの患者で発現しており、患者のQOLに大きく影響する病変もあるため、皮膚科専門医との連携が重要となります。 治療はレーザーや外科的アプローチが主体となりますが、2018年6月に結節性硬化症に伴う皮膚病変の治療薬として、mTOR阻害剤シロリムスが発売されました。
① 白斑
紫外線の影響を受けやすいため、日常生活では遮光を心がけます。通常は経過観察となりますが、美容上気になる場合は化粧品を用いてカバーします。
② 顔面の血管線維腫
皮膚病変の中で最も治療が問題となるもので、症状に応じた治療法を選択することが必要です。出血や刺激症状、痛み、機能障害あるいは整容的に問題になる場合は治療対象になり、液体窒素療法、レーザー療法、アブレーション、外科的切除などの治療法があります。
桑の実状あるいはぶどうの房状の大きな血管線維腫や前額、下顎の局面や腫瘤症例には、外科的切除が適用となります。幼少期に認められる隆起が少なく赤みの強い皮疹に対してはPulSed-dye-laserが、成人に多い正常皮膚色で隆起した硬い丘疹などの病変に対してはCO2レーザーが適しています。
③ シャグリンパッチ
10cm以上の大きさの病変がある場合は、切除希望があれば外科的切除を行います。
④ 爪囲線維腫
易出血性、痛みを伴う、機能障害などで日常生活に支障がある場合は外科的切除の対象となりますが、切除しても再発しやすい傾向があります。

参考文献
1) Curatolo P, et al. Lancet 2008; 372: 657-668
2) Leung AK and Robson WL. J Pediatr Health Care 2007; 21: 108-114
3) ⾦⽥眞理, 他. ⽇⽪会誌 2008; 118: 1667-1676
4) Wataya-Kaneda M, et al. PLoS ONE 2013; 8: e63910
5) Dabora SL, et al. Am J Hum Genet 2001; 68: 64-80
6)結節性硬化症の診断と治療最前線.日本結節性硬化症学会編.診断と治療社、2016
7) Northrup H, et al. Pediatr Neurol 2013; 49: 243–254
8) ⾦⽥眞理, 他. ⽇⽪会誌 2018; 128: 1-16
9) Hallett L, et al. Curr Med Res Opin 2011; 27: 1571-1583
10) Jozwiak J, et al. Am J Dermatopathol 2008; 30 :256-261
11) Jozwiak S, et al.Int J Dermatol 1998; 37: 911-917
12) Webb DW, et al. Br J Dermatol 1996; 135: 1-5
13) Schwartz RA, et al. J Am Acad Dermatol 2007; 57: 189-202