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アフィニトール

結節性硬化症(TSC)

監修:大野耕策 先生(鳥取大学名誉教授)

肺病変(肺LAM)

結節性硬化症に伴う肺病変の種類

結節性硬化症の肺病変には、肺リンパ脈管筋腫症(pulmonary lymphangioleiomyomatosis:肺LAM)とMMPH(multifocal micronodular pneumocyte hyperplasia)があります。ここでは、肺LAMについて解説します。

写真 肺病変 例
 

ノバルティス ファーマ社内資料

日本人結節性硬化症患者における肺LAMの疫学と発現頻度

日本では結節性硬化症に合併する肺LAMの患者数は2,000〜4,000人と推定され、結節性硬化症の女性の肺には、3〜4割で肺LAMが認められると報告されています1)
結節性硬化症の発症に男女差はありませんが、結節性硬化症に伴う肺LAM の罹患率には明らかな性差が存在し、そのほとんどが女性です。特に妊娠可能な年齢の女性に好発し、妊娠、出産や女性ホルモン(経口避妊薬等のエストロゲン製剤)服用で症状が出現したり、悪化したとする報告がみられます1)図1)。40歳以上の結節性硬化症患者(特に女性)の主な死亡原因の一つであり、進行性で予後が悪いとされています(図23)5)
また、2013年の疫学調査4)によると、日本人の結節性硬化症患者95人における肺病変の頻度は75人(79%)で肺LAM 37人(39%)、MMPHとの合併が29人(31%)でした。LAMは男性より女性で発現頻度が有意に高く(p=0.0015、Wilcoxon検定)、年齢期別にみると、20歳以降に発現頻度が上昇し、40~49歳でピークに達しました(図3A)。肺LAMを有する患者の78%がMMPHを合併しており、肺LAMとMMPHを合併していた女性患者は28名(42%)、男性患者は1名(3.6%)でした(図3B)。

図1 肺LAMの発現時期
図2 肺LAMの死亡年齢
図3 男女別・年齢期別の肺LAMの発現頻度

病態・症状

LAMは、平滑筋様細胞(LAM細胞)が肺や体軸性リンパ節等で異常増殖する全身性疾患で、肺では多発性の嚢胞が形成されるという特徴があります。
肺LAMの初期は通常無症状ですが、進行性であり、肺におけるLAM細胞の増殖に伴って労作時呼吸困難、繰り返す気胸、気胸に伴う胸痛、咳、痰、血痰などの呼吸器症状を呈します。気胸はしばしば初発の症状としてみられます。経年的に緩徐に悪化して、最終的には呼吸不全および死亡に至る予後の悪い合併症です1)5)
肺LAMの進行速度には個人差があり、臨床像や経過は患者ごとに多様で、時に乳び胸や血痰の症状が出ることもあり、なお、LAMには結節性硬化症に関係なく、単独で発生する孤発性LAMもあります。また肺LAMは高頻度に腎AMLを合併します6)

検査

肺LAMの検査として、高分解能胸部CT(HRCT)、精密肺機能検査、細胞診が行われます。早期に結節性硬化症における肺病変の有無を検出するためには、肺HRCT検査と精密肺機能検査が有効です。18歳以上の結節硬化症患者では、自覚症状がなくてもこれらの検査と6分間歩行テストをスクリーニング的に施行します1)
肺HRCT検査では両側対称性に肺実質の増殖、嚢胞やhoneycomb像などの、嚢胞性変化の有無が確認できます。精密肺機能検査ではFEV1、FEV1/ FVC、DLcoなどの呼吸機能をモニターします。また、細胞診は胸水や腹水の乳び中に検出されるLAM細胞クラスターを用いることにより、組織生検を行わない、侵襲性の低い診断ができるとされています。

診断

肺LAMは、結節性硬化症の診断に用いられる基準7)の大症状(結節性硬化症に特異性が高い症状)の一つに挙げられています。 診断基準の詳細はこちらよりご覧下さい。
また、肺LAMの診断は、①病理組織学的に確定された場合、②European Respiratory Society(ERS)のHRCTによるLAMの診断基準に合致する場合、③腹腔胸腔内の血管筋脂肪腫あるいは乳び胸水、腹水を認める場合に行います。また、孤発性LAMにおいても1/3の患者は腎血管筋脂肪腫(腎AML)を合併します。そのため診断基準では、肺LAMと血管脂肪腫はそれぞれ独立した大症状となっていますが、診断においては、同一で異なった症状とは考えず、「LAMと血管筋脂肪腫以外の大症状一つ、もしくは2つ以上の小症状が必要である」という注意事項が明記されています5)
2005年に呼吸不全に関する調査研究班が作成したLAMの診断基準(図4)では、①組織診断確実例、②組織診断ほぼ確実例、③臨床診断ほぼ確実例の3つに分類されています。

図4 LAMの診断基準

治療

2008年に発表された日本皮膚科学会の「結節性硬化症の診断基準及び治療ガイドライン」8)では、肺LAMの治療法がまとめられています(表1)。2018年に発表された改訂版5)ではmTOR阻害剤についても言及されており、「異常な肺機能(FEV1<70% pred)」、あるいは肺機能が低下し続けている肺LAM患者」に対しては、経過観察するより投与が推奨されています。基本的には長期投与となるため薬剤性肺障害、感染症、口内炎などの副作用への対応が必要で、適切な医療体制のもとでの使用が推奨されています。また、2018年に発表された改訂版では、ホルモン療法はエビデンスの乏しさから推奨されておりません。肺LAMの治療方針は、労作時呼吸困難の有無、気胸の合併やその状態にもとづいて決定されますが、現時点では肺LAMの進行を確実に防止できる有効な治療法はありません。
なお、肺LAMの実際の治療は、呼吸器内科専門医による管理が望ましいとされています。

表1 結節性硬化症に伴う肺LAMの治療方針

治療適応 治療方針
労作時呼吸困難(-) 年1回のフォロー

HRCT、精密肺機能検査(FEV1、FEV1/FVC、DLco)

労作時呼吸困難(+) 治療を検討

ホルモン治療(適応外)
本症の発症と進行には女性ホルモンの関与が推測 されるため,ホルモン療法が考慮されてきたが,有用性を示す科学的エビデンスは乏しい。
ただし,特定のsubgroupのLAM患者,例えば閉経前の患者で生理サイクルにより変動するような症状(気胸あるいは息切れ)を示す患者,には有益かもしれない,とされている。

気管支拡張療法 

抗コリン薬、β2刺激薬、除放性テオフィリン

常時酸素療法・内科的治療が無効 肺移植
気胸 安静、脱気、外科的治療
繰り返す気胸 胸膜癒着術(内科的、外科的)
外科的臓側胸膜癒着術

*胸膜癒着術の既往は肺移植適応外

HRCT:高分解能胸部CT

参考文献
1) 難病情報センターホームページ http://www.nanbyou.or.jp/entry/173 (2019年9月現在)
2) Umeoka S, et al. Radiographics 2008; 28: e32
3) Shepherd CW, et al. Mayo Clin Proc 1991;66: 792-796
4) Wataya-Kaneda M, et al. PLoS ONE 2013; 8: e63910
5)金田眞理, 他. 日皮会誌 2018; 128: 1-16
6) 林田 美江, 他 日呼吸誌 2017; 6: 225-234
7) Northrup H, et al. Pediatr Neurol 2013; 49: 243-254
8) 金田眞理, 他. 日皮会誌 2008; 118: 1667-1676