もつれない患者との会話術
ポイント
トラブルを回避するため,多くの医療機関では患者の要求に応じて処方せんの有効期間を延長しています。
解説
処方せんの有効期間は療養担当規則で「交付の日を含めて4日以内」と規定されており,当然,どの保険医療機関でも同様の取り扱いを行っていると思います。その例外規定として「長期の旅行等特殊の事情があると認められる場合」という表記があります。ところが,「長期の旅行」以外の「特殊の事情」の内容は明らかにされていません。
たとえば,1人暮らしの高齢者が薬の切れているのに気づいたが医師の診察を受けに行くのが困難な場合,大学病院で処方された薬が切れているのに気づいたものの遠方で上京することが困難な場合,体調を崩して有効期間内に薬局に行くことができなかった場合などです。こうした状況に対して,医療機関側の柔軟な対応は可能でしょうか。残念ながら,これらはすべて「特殊の事情」の範疇外とされています。
一方,調剤薬局での対応はどうかといいますと,有効期間切れの処方せんを受け付けた場合には「無効だから調剤できません」と紋切り型の対応はせず,まず処方医にその事実と処方されている薬剤名および患者の状態を伝え,対処の指示を仰ぐという柔軟な対応をしているようです。
保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則では,特に処方せんの交付に関する規定はありません。結局のところ,調剤薬局としては,有効期間切れの処方せんを受け付けた場合には処方医の指示があればいつでも調剤を行うという姿勢であり,調剤薬局に責任はないという立場で対処していることになります。
医療機関の対応
患者の権利意識の高まりに伴い,診療内容を含む医療機関の対応にちょっとでも不満があろうものなら,露骨に文句をつける傾向が強くなってきました。
期限切れの処方せんの問題にしても,患者の中には,聞く耳を持たずに,「他の医療機関じゃ融通してくれるのに」「以前同様のことがあったが,調剤してくれたぞ」「体調が悪化したら責任をとってくれるのか!」など,延々と電話口でまくし立て,対応していたスタッフが根負けして「今回に限って処方医の了解を取り付けます」と,期間延長に応じてしまうのが現状だと思います。筆者の知る限り,多くの医療機関で窓口でのトラブルを回避するため期間を延長しており,ある病院では通常,4日より長い日付を記していました。
そもそも療養担当規則で使用期間を4日間に限定している理由は何なのでしょうか。明治薬科大学の菅野敦之客員教授は,「4日間には医師の診断の精度の意味合いが多分に含まれているという解釈もできる。つまり,時間の経過とともに容態が変化し診断時点での決定した治療内容と異なってきてしまう可能性が高くなるために設定されたと考えるべきである」と説明しています。
一理あるとは思うのですが,筆者は,投与日数が医師の裁量によって可能となったこともあり,処方せんの有効期間も一律に4日以内と限定せず,ある程度医師の裁量で可能とすべきだと考えます。なぜなら,患者の状態そして処方内容を一番知っているのは担当医師だからです。それが実現できないのであれば,厚生労働省は「長期旅行」以外の「特殊の事情」の内容を示すべきです。
処方せんの期限切れ防止対策として,交付後最寄りの調剤薬局に速やかに提出することを勧めている保険医もいるとのことです。そうすることによって,忘れることなく後で調剤薬を取りにいくことができるからです。また,FAXによる処方内容の電送の他に電子メールによる処方内容の電送も可能となったので,処方せん交付の際に一言患者に説明してはいかがでしょうか。
関係法令など
- 保険医療機関及び保険医療養担当規則第20条(診療の具体的方針)
- 1.診察 (略)
- 2.投薬 (略)
- 3.処方せんの交付
- イ処方せんの使用期間は,交付の日を含めて4日以内とする。ただし,長期の旅行等特殊の事情があると認められる場合は,この限りでない。
- ロ前イによるほか,処方せんの交付に関しては,前号に定める投薬の例による。