もつれない患者との会話術
ポイント
親権者が付き添わない未成年者の診療で訴訟になった場合,勝訴は見込めません。しかし,診療を拒否してはこのケースのようにクレームをつけられる可能性があります。
このため,当面の応急措置で済ませ,後日,親権者とともに来院させ,インフォームドコンセントを行うことが望ましいと言えます。
クレーム電話の処理では,言い方ひとつで相手がエスカレートしてしまうことがあります。少なくとも「組織として意見を聞いて検討する」という回答を医療機関側の誠意として示すことで,相手がある程度納得し,電話を切ってくれることにつながると思います。
解説
診療は患者との“準委任契約”に基づいて行われていますが,これは行為能力を有する成人の場合です。民法では20歳未満の者を“無能力者”,つまり行為能力のない者と規定しています。そのため,原則として未成年者が契約などの法律行為を行う際には,その法定代理人(第一次的には親権者)の同意を必要とし,仮に法定代理人の同意を得ずに法律行為を行った場合には,後でこれを取り消すことができるとされています(民法第5条第1項および第2項)。
一口に「未成年者」と言っても,生後間もない赤ちゃんから20歳に達する直前の青年までと幅広いため,実際にはいくつかの年齢区分ごとに,インフォームドコンセントの対応を考える必要が出てきます。幼児・児童の場合,親権者がインフォームドコンセントの対象となることは一般的に問題ないとされています。
問題は,中学生以上です。法律上,明確に線引きされているわけではありませんが,実際の場面では,少なくとも満15歳に達した子どもの場合,原則としてインフォームドコンセントの対象として考え,親権者とその子自身の両方にインフォームドコンセントを行うものと考えたほうがよいと思います。
また,15歳に達しない子どもであっても,自分の病気や治療内容が理解でき,しかも自分の意思を表明できるような場合,親権者とその子自身の両方に対してインフォームドコンセントを行う必要があると考えるべきです。
親権者とその子自身の両方にインフォームドコンセントを行う際,注意すべきなのは,患者の同意があるにもかかわらず,親権者が反対し続けていると,親権の濫用になるということです。逆に,治療内容などを患者本人が理解できるにもかかわらず,その同意なくして親権者の同意のみで医療行為を行うことも避けるべきです。
医療機関の対応
子どもが中学生くらいに達すると,その親が軽微な症状と判断した場合,近医に1人で受診させることがあります。実際,医療機関の待合室では中学生が腹痛や湿疹で1人で受診している光景をみかけます。また,医療機関においても,未成年者が1人で来院した場合の対応はまちまちで,法的な理解不足のほか,院内ルールが明確でない場合もあります。
しかし,医療行為の多くが身体に対する侵襲行為であることを考えたとき,本人の意思表示がしっかりしているという理由だけで,親が子どもを1人で受診させることは問題があると言えます。子ども自身も知らない身体的特徴など,診療に大きく影響を及ぼす体質や疾患が隠れていることも考えられるからです。
医薬品の服用による身体の変調などでクレームをつけられ,万一,訴訟に発展してしまった場合,親権者の同意なしの医療行為では勝訴は見込めません。それゆえ,未成年者への診療には慎重さが求められるのです。初診時に1人で来院してきた場合,とりあえず応急処置で済ませ,後日改めて親と来院させ,症状および今後の治療方針などを説明し,同意を得てから本格的な治療を開始するようにすべきです。
なお,未成年者が婚姻をしたときは,成年に達したもの(民法753条「婚姻による成年擬制」)とみなされ,親権者に服さないことになっています。また,満20歳未満の間に婚姻を解消した場合も,成年に達したものとみなされることも理解しておきましょう。
関係法令など
- 未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない。ただし,単に権利を得,又は義務を免れる法律行為については,この限りでない。
- 前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる。