もつれない患者との会話術
ポイント
個人情報の第三者への提供は本人の同意を得ることが原則(個人情報保護法第23条)ですが,患者本人の正常な判断を確認できないとき,状況によって(=生命,身体,財産の保護のために必要がある場合)は医師の判断で提供することが可能です。時に,この解釈を患者の家族等に伝えることが必要となります。
解説
●厚労省の『「ガイドライン」に関するQ&A』
医療機関の窓口には,生命保険金(入院給付金等)の支払いに関して患者の病状照会がよくあります。
厚生労働省の『「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に関するQ&A(事例集)』は,「保険会社から照会があった際,患者本人から取得した同意書を提示した場合は,本人の同意が得られていると判断してよいか」という旨の問いに対して,「そのような場合であっても,医療機関は当該同意書の内容について本人の意思を確認する必要がある」と回答しています。
個人情報保護法第23条(第三者提供の制限)では「個人情報取扱事業者は,次に掲げる場合を除くほか,あらかじめ本人の同意を得ないで,個人データを第三者に提供してはならない」と規定しており,「個人情報取扱事業者(=医療機関)は事前に同意を得なければ,個人データを第三者に提供してはならない」という解釈にもなり,また「保険会社の提出してきた同意書では個人データの提供はできない」という解釈にも受け取れます。
医療機関の対応
●個人情報保護法第23条の例外規定は医師の判断で
しかし,例外はあります。保険会社が以前に同意書を取り付けた時点では意思表示可能であっても,その後,精神疾患を罹患し正常な判断が不可能な状態,あるいは医療機関が患者に接した時点で既に意識不明状態であり,意思確認が不可能な状態において,個人情報保護法第23条第1項第2号「人の生命,身体又は財産の保護のために必要がある場合であって,本人の同意を得ることが困難であるとき」に該当すると判断できる場合は,本人の同意なしに情報提供することが可能と思われます。本例のような現実問題として起こりうるケースでは,医師の判断で,家族の同意を得なくて差し支えないと思われます。
●改正個人情報保護法が施行されて
平成27年9月に改正個人情報保護法が公布され,同年5月30日から全面施行されました。今回の改正の主なポイントを挙げますと,
- ①小規模取扱事業者への適用
法改正前は,適用がなかった5,000人分以下個人情報を取り扱う事業者に対しても適用されることになりました。
- ②個人情報の定義の明確化
法改正前は個人情報とは成人する個人に関する情報で特定の個人が識別できるものをいうとされていましたが,法改正後は「個人識別符号」が含まれる情報も個人情報とされることになりました。具体的には,DNA,声紋,顔や指紋の認証データ,免許証番号,マイナンバー,旅券番号等です。
- ③要配慮個人情報への対応
新たに「要配慮個人情報」を定義し,本人の同意を取って取得することを原則義務化し,本人の同意を得ない第三者提供の特例(オプトアウト)から除外しました。要配慮個人情報に含まれるものとして,人種,信条,社会的身分,病歴,犯罪の経歴,その他本人に対する不当な差別,偏見が生じないように特に配慮を要するもの(たとえば,身体障害・知的障害などがあること,医師等による健康診断結果等)があります。
今回の改正により,個人情報の取扱いに関して規制を緩和しながらも個人情報保護のための規制も強化したことであります。
●注意したい要配慮個人情報の取得と第三者への提供
今回の法改正で個人情報のうち要配慮個人情報について本人の同意なくして取得することも第三者に提供することもできなくなりました。特に第三者への提供についてはオプトアウトが適用されません。ただし,例外として第23条第1項第1号~4号については,本人の同意を得ないで提供することができます。もともと,医療機関は機微な情報を取り扱っており,今回の改正でより明確にさせたということであります。
参考
個人データを本人の事前同意なしに第三者へ提供を行う場合のことで,本人の事前同意を得て第三者へ提供するオプトインに対し,オプトアウトと呼ばれている。
センシティブ情報とも呼ばれ,取扱いに細心の注意を払う必要がある他人に知られたくない情報のことを言う。
関係法令など
個人情報取扱事業者は,次に掲げる場合を除くほか,あらかじめ本人の同意を得ないで,個人データを第三者に提供してはならない。
- 1.法令に基づく場合。
- 2.人の生命,身体又は財産の保護のために必要がある場合であって,本人の同意を得ることが困難であるとき。
- 3~4.(略)