もつれない患者との会話術
ポイント
今や,SNSで情報が一気に拡散して多くの方にプライバシーが知られる時代となってしまいました。医療従事者は,情報を漏えいしない,守秘義務を遵守する組織を確立する必要があります。
解説
●医療機関に従事する職員全員が自覚すべきこと
先日,某病院で発生した出来事ですが,肺がんの治療で有名な医師のもとへ若者に人気のあるアーティストがお忍びで受診したところ,後日SNSで受診したことが発覚し大騒ぎとなり,所属するプロダクションから調査依頼と今後の対応を強硬に申し入れされたということでした。
原因を探っていくと,以前からそのアーティストのファンであった臨床検査技師が,アーティストが受診していることを知り,何度も電子カルテを閲覧していることが判明。本人は有頂天になりハンドルネームを使用してSNSで呟くと,瞬く間に情報が拡散したという状況であったそうです。もちろん,インターネット上では,アーティスト名も病院名も明かさなかったということですが,その後インターネットでアーティスト名と住所,受診した病院名までも特定されてしまいました。事の経緯を報告するもプロダクション側は納得せず,今後の診療を中止するとともに損害賠償を要求してきたということでした。当該病院としても,個人情報を漏えいしたとして臨床検査技師に懲戒処分を科し,かつ職員全員を招集して事の報告をし,改めて個人情報漏えいに関する取り扱いの遵守を徹底するよう指示がなされたということでした。
●SNSの怖さを知らなすぎる現代の若者
インターネットが普及し,ほとんどの方が何らかのSNSを利用していると思います。
誰かに情報を伝えたい,誰かと話をしたい,注目されたい等々いろいろな目的・理由で発信します。
しかし,SNSの怖さを知っている方はどのくらいいるのでしょうか?便利なツールを安易に利用して発信してから,その後大きなトラブルに巻き込まれるかもしれないことを。前述のトラブル事例も,後々のことをまったく考えずに発信してしまった結果なのです。
グリー株式会社の安心・安全チームマネージャの小木曽健氏は東京都消費生活総合センターの情報誌に,「正しく怖がるインターネット」と題して次のように説明しています。
「インターネットはすべて玄関ドアの外側です。……中略……インターネットは自宅玄関ドアにベタベタものを貼っているのと同じなんです。だから,玄関ドアに貼れるものはネットに貼ってもOK。そしてドアに貼れないものはネットに書かないほうがいいのではなく『書かない』」と。
そして,「インターネットに何かを書く,SNSに写真やコメントを載せるという行為は,この交差点の写真そのままです(注:交差点の真ん中でプライベートな出来事をボードに書いて掲げている)。どちらかと言えば,交差点のほうがまだマシでしょう。たかが数十万人ですし,掲げたボードは下ろせます。ですがインターネットは違いますよね。全世界の人間に,一度掲げたら二度と下ろせないボードを永遠に見せ続ける。これが,ネットやSNSにモノを書くということ」と述べています。
また,北海道大学の町村泰貴教授(サイバー法)は,「携帯電話に個体識別番号があるように,インターネットでは誰がどんな情報を発信したのか調べようと思えば調べられる」と指摘しています(朝日新聞,平成23年1月19日夕刊)。
インターネットでは,身元を明かさず呟いても,いつの間にか氏名,住所,家族構成などなど個人情報が特定されてしまいます。SNSのリスクを自覚する必要があります。
医療機関の対応
医療機関に従事している者であれば,簡単に電子カルテを閲覧することができます。だからと言って,診療に関係のない患者情報を閲覧することは控えるべきですし,調べることにより誰が何回アクセスしたか簡単に確認できることを十分認識するとともに,医療従事者には守秘義務が課せられていること,また個人情報の漏えいがない最も安心・安全な医療機関として受診者に信頼を得られなければなりません。
うれしい出来事や舞い上がるような出来事は他人に教えたくなるかもしれませんが,仕事においてはプロフェッショナルな姿勢で取り組むことが求められるのです。便利なツールが命取りとならないよう,発信する場合は責任が伴うという自覚を持つことです。
参考
- SNS(social networking service)
会員制のサイト上で写真や文書などを公開し,会員同士で交流できる機能を提供するサービス
(2017年1月1日発行,自由国民社,現代用語の基礎知識)
参考文献
- 小木曽 健:正しく怖がるインターネット. 東京くらしねっと. 平成28年3月号(No.227),東京都消費生活総合センター.