もつれない患者との会話術
ポイント
個人情報保護法では相手側に録音の旨を伝えていれば,抵触しませんが,納得してもらえない場合,メモによる記録に切り換えるべきでしょう。思う存分,相手に言いたいことを言わせてあげるのがポイントです。
解説
●用件が解決したら録音を消去することを説明しておく
最近は,個人情報保護法もすっかり定着し,普段の会話の中にも使用されるようになりましたが,運用まで詳細に理解している人は少ないと思います。何にでも「個人情報保護法」を口にすればよいという風潮があることは否めません。
会話を録音するということは,筆記する代わりに録音しているものであり,用件が済んだ段階で消去することも伝えることで相手方も安心するのではないでしょうか。
●対応に苦慮する患者にはむしろ録音を中止する判断も
患者の中には,個人情報保護法に関して非常に気にされる方もおり,録音自体に文句をつけてくる場合があります。そのようなときには,再度「模範解答」を説明して理解を求めます。それでも納得してもらえない場合には録音を中止し,その旨を相手側に説明し,以後の会話を筆記します。このようなケースは個人情報よりも会話内容を録音されること自体,つまり“クレーマー的な存在”として受け止められることを嫌っているのであって,対応する職員がしっかりメモをとれば問題ないと思われます。むしろ,相手方の言い分をじっくり聞き,思う存分言いたいことを言わせて不満を解消させることを目標におくべきです。
●苦情電話の録音の妥当性
個人情報保護法では,「録音していることを隠して本人に個人情報を語らせる」ことを不正の手段による情報取得の例としており,法第17条の「適正な取得」違反となります。しかし,法では個人情報の取得について適正な取得方法が定められているだけであり,本人に公表・通知がなされていれば個人情報を取得することへの制限はありません。
医療機関における電話の会話の録音は意図的に患者の個人情報を語らせるというものではないこと,筆記よりも正確に記録するために録音しているなど目的がはっきりしており,録音はメモをとるのと相違ないと考えられます。
ただし,その録音をデータ化して保存すれば個人情報ということになります。録音を6カ月以内に消去するなら法の対象外となります。しかし,録音記録を残すならその部分は個人情報となるので,注意が必要となります。
医療機関の対応
どの医療機関でも患者の目につく場所に個人情報の取り扱いについて掲示していると思いますが,そこに個人情報の利用目的・取得について「患者からの問い合わせについては録音している」旨を1項目掲げておくことです。そうすることによって患者が異議を申立てない限り承諾したと受け止められるからです。また,民間企業のように,問い合わせがあった場合に「正確を期すために録音している」旨の音声ガイダンスを流すことも1つの方法と言えるでしょう。要は,患者から指摘を受ける前に医療機関側が適切な対策を講じておくことです。
関係法令など
個人情報取扱事業者は,偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない。