もつれない患者との会話術
ポイント
一口に患者からのセクハラと言っても,いろいろな状況,場面が考えられますが,明確なセクハラには断固として対処しなければなりません。
解説
医療機関の中で医療従事者が患者と2人きりになる場面は多々あります。カーテンで仕切った病室での治療や看護,超音波などの検査,入浴介助,トイレ介助,リハビリ作業,車いす介助などです。もともと医療従事者には優しい性格の人が多いため,勘違いして「自分に好意を抱いているのでは」と受け止める患者も少なくありません。これが発展してセクハラやストーカー行為へとつながることも多く,全般的に被害を受けやすい環境になっていると言えます。
また,職務上,患者から介助や看護の要請があれば,様子を見にいったり,手当てをしなければなりません。常に2人体制で対処するほどの余裕は医療機関になく,1人で処置しているのが現状ではないかと思います。
その際,患者の体勢が崩れて抱き付いてきたり,力なく手を握ってきたりすると,瞬間,それが故意なのかどうかの見極めは難しいと思われます。患者が一言詫びるなり,ばつの悪そうな態度が感じられたりすれば,セクハラの範疇には入らないでしょうが,実際には判断の難しいケースが多いでしょう。
しかし,ベッドから移動する際に不自然に抱き付いたり,ベッドサイドで処置しているときにお尻を触ったり,意味もなく手を握ったり,屈み込んだときに露骨に胸元を覗いたりなど,明らかに故意と感じられる場合には不快感をはっきり意思表示し,毅然として拒否する態度を示すべきです。これでも懲りずにセクハラ行為を行う常習者に対しては,患者家族に注意を促す,あるいは被害に遭っている職員の上司が患者に対し,毅然とした態度で「以後のセクハラに対しては即時退室を命ずる」旨を申し渡すことも場合によっては必要です。
医療機関の対応
セクハラ行為は密室だけで行われるとは限りません。通常のベッドサイドにおける会話で卑猥な言動をする患者もいます。素直に本人がセクハラ行為を認める場合は問題ありません。
しかし,患者がなにかと言い訳をして「やっていない」と否認した場合,医療機関側が立証しなければならなくなります。そして,セクハラの証拠がない限り,さらに医療従事者が不当な扱いを受け続けることになります。
「相手は病人だから,余命いくばくもない年寄りだから,大目にみたらどうか」という人がいるかもしれません。しかし,セクハラが許される道理はまったくありません。
健全な職場環境の維持,医療従事者の安全確保は管理者の義務です。医療従事者が安心して働ける職場環境にするためにも病院としてしっかりとした対策を講じることが大切です。
先日,医事課長同士の集まりで,「セクハラ」が話題に上がり,こんな経験談が示されました。健診での腹部超音波検査での出来事です。若い女性技師が担当中,ユニフォームの中に健診者の手が入ってきて腹部を弄りはじめたそうです。女性技師はめげずに検査を続行して終了しましたが,終了後,検査主任に泣きながら事の顚末を訴え,検査主任から医事課長にその報告があったそうです。
この医事課長曰く,「検査終了後に報告を受けた場合,健診者のセクハラ行為を責めたところで,開き直って逆にやっていないと主張し,証拠を示せと文句を言われるか,逆に謝罪を求められる始末にもなりかねない。事後報告では何の対処もできなかった」。
このように,セクハラには,行為がなされた時点で速やかに対処するという意識を職員全員が共通して持つことが大切です。