もつれない患者との会話術
ポイント
健診ですべての異常がわかるわけではないことを,受診者に理解していただくことが肝心です。
解説
健診を半年ごとに受診していても,健診では発見されず,変調をきたして受診した際,がんが発見されるケースに遭遇することがあります。そして,こうした健診に対する強い不満と疑念を抱く人の中には,担当医師に事の真偽を明確にするよう要求してくる人もいます。健診施設で働く者としては,このような方への対応は非常に難しいと言えます。担当医のミスとは思いたくないし,かと言って健診者にも真摯に対応しなければなりません。
健診を受ける方の最も大きな勘違いは,「健診を受けて『異常なし』と判定されたから,大丈夫」と思うことです。言うまでもなく,健診では全身隈なく検査しているわけではありません。
過去の判例でも,健診におけるがんの見落としの疑いで訴訟となった事案がありました。東京高裁平成13年3月28日判決では,健診の位置づけについて,「人間ドックによる健診は,必ずしも具体的な異常の自覚のない者を対象に各種の検査を行うものである」とし,「健診のみによって診断が確定するわけではなく,これを端緒にさらに精密検査をして,診断を確定することが予定されているものである」と指摘しています。
その上で,担当医には「人間ドックの検査結果において,直ちに疾病につながる異常所見であるとは断定できないとしても,異常所見が疑われ,精密検査をすればそれが疾病につながる異常所見であるかどうか判断できると考えられる場合,受診者に対してそれを告げてさらに精密検査を受診するよう指示すべきという注意義務がある」と述べています。
また,「通常の医療施設で人間ドックとして行われる検査を,大学病院などの最先端の病院が行う検査の水準を基に過失の存否を論じることは相当ではなく,通常の医療施設における医療水準を基準として過失の存否を論じるのが相当である」との解釈を示しています。
医療機関の対応
健診を欠かさず受診していても早期発見できるとは限らないこと,多くの人を対象とする健診では,見落としが明らかでないと損害の認定が困難であることを知っておくことが必要です。
過去の判例でも,通常の1対1で行う診察と比べて,集団での健診は注意義務の程度に自ずと限界があるとの判断を示しています。ただし,受診者から言わせれば,異常があるかどうかを健診でチェックしているわけであり,「注意義務の程度に自ずと限界がある」と言われても納得できるものではないと思います。
健診施設としても過去の判例に甘んじることなく,精度向上を目指し,受診者からの信頼や期待に応えるよう努力する必要があります。