もつれない患者との会話術
ポイント
診断書の訂正は医師の判断で可能ですが,最近は遺産相続トラブルに巻き込まれる危険性もあり,訂正の依頼には慎重に対応すべきです。たとえば,訂正を求めてきている人が本当に家族なのか,確認が必要な場合もあるでしょう。可能なら,訂正を求める人たちの基本的な背景・意図を把握しておくべきです。なお,診断書は医師個人の責任で作成するのであり,院長名であっても,別人による記載に加筆すべきではありません。
解説
診断書が果たす社会的役割,影響力は大変大きいものがあり,医師は慎重な診断の下,最高の技術や知識を用いて作成する必要があります。また,医師法や医療法において医師は,第三者からの干渉および制限を受けることなく,診断に基づいて診断書を記載する裁量を保証されているのです。
診断書の交付については医師法第19条に規定されていますが,この医師法は医業を独占的に行うことのできる者としての医師の資格などについて定めた資格法として位置づけられております。第19条では,「診療等をした医師は,診断書等の交付の求めがあったときは,正当な事由がない限り,これを拒むことができない」と規定しています。
この規定に基づき交付するわけですが,記載内容まで規定してはいません。したがって,診断書の作成者は患者を直接診察した医師であり,交付する者も患者を直接診察した医師となるのです。
では,一度作成した診断書は訂正できないかというと,そうではありません。患者などからの訂正の要請に応じるか否かも医師の裁量によります。訂正の必要があると医師が判断すれば応じればよいし,不要と思えば拒否しても構わないのです。
なお,記載内容については,診断結果から得られた内容を記載し,容易に診断できない事項や専門外の事項まで記載する必要はありません。
医療機関の対応
医療機関備え付けの診断書の記載内容については特に法的に定められていないことから,医学的な診断内容のみの記載で十分と思えます。
最近は認知症患者の増加に伴い,遺産相続を巡る家族内のトラブルに医療機関や医師の診断書が巻き込まれるケースが増えてきているようです。確かに家族にとってみれば,本人の能力のあるうちに公正証書の作成を行いたいでしょうし,診断書の内容は重要と言えるでしょう。
このため,何らかのトラブルに発展する危険性を念頭に置きつつ,患者および家族の意思を確認しながら,慎重に診断書を作成する必要があると考えます。また,後日,診断書の訂正を求められる場合も,トラブルに巻き込まれる危険性を考慮して,家族や関係者の訴えの内容を前もって十分に聞くべきと思われます。