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作成する上で注意すべきことは,診断に基づく事実と診断から得られる予後について,外部の声に惑わされることなく信念を貫いて記載することです。
医療機関には,患者から実に様々な診断書や証明書の作成が依頼されます。ここ数年の傾向として,作成した診断書や証明書の内容に患者や家族,はたまた遺族が修正を求めてくるケースが増えてきています。
以前,患者の配偶者から診断書を求められ,作成した内容を見て,その息子さんから内容が間違っているので修正してほしいとの要求がありました。担当医が配偶者から直接話を聞き,作成したことを説明するも,到底この内容では受け入れられないと強硬に修正を申し入れるだけでした。この背景には,父親が認知症で,能力が残っているうちに遺言を公正証書として残しておきたいという家族の要望があり,公証役場において遺言書を作成した際に,公証役場から「参考に診断書をもらってくるように」との指示があったため,診断書作成に至った次第です。医師の作成した診断書を見た息子さんは,認知症の状況とも受け取れる内容が書かれていたため,修正の申し入れをしたのです。
息子さんにとっては遺言書の正当性を主張できなくなることから,一歩も引けない状況だったわけです。
また,自転車事故後40日を経過したギタリストを職業とする患者が来院し,手首の炎症治療を希望した際に,初診担当の医師から紹介状の持参がないこと,事故後40日を経過していることで,後々事故との因果関係の証明ができないことを本人に説明し,了解のもと治療を開始しましたが,いざ加害者との損害賠償の訴訟となってから因果関係を証明する診断書を要求されて,担当医としては現在の症状で治療していることのみの診断書を作成しましたが,この内容では不十分ということで因果関係を記した内容書き換えを求められ,対応に辟易したという話を聞いたことがありました。このケースでは,訴訟となり検察庁から刑事訴訟法第197条に基づく「捜査関係事項照会書」による回答要請を受けましたが,担当医は初診時の経緯およびその内容についてはカルテに記載していることを盾に回答を拒否したということです。
平成27年度の総務省の統計によりますと,65歳以上の高齢者は人口の4人に1人,75歳以上の高齢者は人口の8人に1人と言われています。また,2025年には団塊世代が全員75歳以上になること,認知症の方が増えると予想されることで,今後ますます相続がらみの診断書の提出が増えてくることが想定されます。一方,高齢者の生活の拠り所となっている年金についても,少子高齢化に伴い支給開始年齢の引き上げや支給額の減少など不安となる要素が多々あり,これから年金受給を受ける方にとっては,該当要件に当てはまるのか,受給開始年月日を早められないのか,障害等級を上げられないのか等々,必死で担当医に患者の現状を訴えて診断書内容に口を挟んでくるケースが考えられます。このようなケースで患者の要求のまま診断書を交付した場合には,文書作成偽造罪や,場合によってはその診断書によって不当な保険金を得たなどで保険金詐欺の共犯となることもありえますし,トラブルにより医師としての品格を損ねる行為として医業の停止などの処分対象となる可能性も考えられます。心情的には理解しても,簡単に患者からの要求に応じることは避けるべきです。
医療機関の対応
医師の作成する診断書は,「CASE37 不要となった診断書の返金」でも説明していますが,最終的には作成した医師が全責任を負うという文書です。ですから,患者や家族あるいは遺族が修正を求めてきても簡単に応じるわけにはいかないのです。仮に,患者の申し入れに応じて虚偽記載となった場合には,文書偽造の罪に問われることになります。これは,医師の作成する文書が社会に与える影響を考慮したことによります。
診断書作成後,患者に交付したのちに加除訂正を求められた場合,第三者からの干渉および制限を受けることなく記載する裁量が医師法において保証されています。したがって,加除訂正を求められたとしても,医師は診断結果に基づいて作成した内容に対し応諾する必要はまったくありません。
患者からの要求に応じるか否かは医師の裁量ですので,必要があると判断すれば応じればよいし,不要と判断すれば拒否してもかまわないことになります。作成する上で心がけたいことは,カルテに基づいて,カルテに記されている事実について記載することです。後々,患者から発症日が違う,開始日を変更したい,予見される症状を追記してほしい等々と要求される場合もありますが,診断結果に基づくカルテ記載がなされていない要求項目については断るべきだと思います。なぜならトラブルとなった場合,診断書の記載が虚偽かどうかの最終的な拠り所の判断となるのがカルテであり,虚偽記載と判断されれば医師の責任となるからです。
編者: 大江和郎(東京女子医科大学附属成人医学センター 元事務長)
提供/発行所: 日本医事新報社
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