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保険金目的などで自分に都合のよい診断書が必要な患者は,いくつもの医療機関を回り,応じてくれそうな医師を物色します。詐病が疑われると感じたら,医学的に問題がないと判断できる場合,今後の通院は不要であることを相手に理解させる言い回しを用いるほうがよいでしょう。
筆者自身の事例ですが,医学的所見では治癒しているにもかかわらず,時折痛みを感じていた時期がありました。高校生時代,部活のサッカーで足を骨折し,2週間ギプスをして入院しました。就職後は数年ごとに秋から冬にかけて数日間,骨折箇所が痛くなり,その都度,整形外科でX線写真を撮るものの,異常は認められませんでした。最近は痛みだすこともなくなりましたが,医学的所見では治癒していても痛みを伴うことはあるのだと実感した次第です。
ただ,苦痛を訴えて来院する患者が全員私のような場合とは限りません。その中には明らかに詐病の患者もいるはずです。
「詐病」とは,何らかの利益(たとえば,保険金を得る等)を目的に病気のふりをすることです。この詐病で最も有名になったのが,和歌山県の「カレー毒物混入事件」でしたが,詐病はいつ頃からあったのでしょう。歴史的にみると,明治時代,徴兵逃れをするために詐病が多く行われたそうです。その後,社会保険制度・労働者災害補償制度が発足すると,その制度を利用するための詐病が始まりました。
その後の車社会の到来により,年々交通事故による死傷者数が増える中,「むちうち症」と診断される患者が増えてきたことは記憶に新しいところです。しかも,「むちうち症」が詐病であると知りながら,治療を行っていた医師もいるということも事実です。
昔は交通事故の治療には保険点数の2倍あるいは3倍の診療費の請求が可能でした。かつ,支払いも自賠責保険や任意保険の保険金で賄うので,被害者も加害者も損することなく,医療機関としても大層収益が望めました。ですから,治療が長引けば長引くほど医療機関も潤ったのです。そこに,患者の言いなりになる下地があり,交通事故を装った詐病や保険金詐欺が助長されていった経緯があるのです。
このケースのように,患者を前にして,毅然とした態度で「医学的には治癒している」と説明して治療を断る医師は多くはありません。むしろ処置に困りながらも患者の訴えを受け入れ,鎮痛剤を処方したり,リハビリを行ったりして対応している医師が一般的です。
そして,こうした患者はしばらくすると,交通事故の自賠責の書類を持参したり,生命保険会社の書類や傷病手当金の申請書類を持参するなど,まめに書類作成の依頼をするようになります。このような光景は整形外科,脳神経外科,形成外科といった外科系でよく見かけます。詐病のような気もするが,そうとも言い切れないと思いつつ診療をしているのが実態ではないでしょうか。
詐病を発見する役割を担っているのは医師であり,医師の診断書がすべてであると言われています。その医師が患者の言い分を聞いて診断書類を作成してしまっては犯罪に加担しているようなものであるということを肝に銘じて患者と対峙することが大切かと思います。
近年では,交通事故の診療費の請求額もほぼ労災と同じ計算となってきたこと,また保険会社も積極的に健康保険を使用させるなどして交通事故の治療による旨みもなくなってしまった感があります。それでも事故で治療をしている当事者にとっては何がなんでも治療を引き延ばし,高額な慰謝料を請求し,上位の後遺障害認定を勝ち取ろうとする人もいることでしょう。
このような輩は,自分に都合のよい診断書が必要なため,いくつもの医療機関を回り,応じてくれそうな医師を物色します。その結果,「患者が見えないというものですから,患者の言い分を全面的に信用して診断書を作成しました」とか,「検査結果では異常は認められなかったものの,患者から要請があって,ついしかたなく問診から推定されることを診断書に記載しました」など,患者の言い分をそのまま受け入れて診断書を作成してしまうケースが後を絶ちません。ちなみに,詐病が最も多くみられる診療科の1つは眼科だと言われています。
最後につけ加えますと,実際には病気であるにもかかわらず病気でないふりをすることを「匿病」と言いますが,この匿病により何らかの利益を目的とした場合には,広義の「詐病」とみなされます。
参考
1998年7月25日に和歌山市園部地区での夏祭りの際に,カレーを食べた67人が腹痛や吐き気などを訴えて病院に搬送,4人が死亡した事件で,主犯の女性の夫に対して保険会社が詐病による保険金請求であると,診断書を作成した医師を訴え,第一審では保険会社の勝訴となった。
参考文献
編者: 大江和郎(東京女子医科大学附属成人医学センター 元事務長)
提供/発行所: 日本医事新報社
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