もつれない患者との会話術
ポイント
民法第486条により再発行の義務はありませんが,必要ならば,支払証明書などの名目で有償で対応する旨を説明しましょう。また,無料での再発行も可能ですが,領収書の隅に「再発行」の表示を必ず記入し,日付も再発行日にしなければなりません。
解説
領収書の再発行に応じない医療機関でも「なぜ再発行できないのか」明確に答えられる人は少ないと思います。「以前からそうしてきた」「理由はわからないが,申し送りで今までそうしてきた」などの経緯で現在に至っていると考えられます。
民法第486条(受取証書の交付請求)「弁済をした者は,弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる」の意味は,売買代金などの金銭を受け取った場合,代金と引き換えに領収書を相手方に発行しなければならないということです。換言すると,医療機関で診察を終え,会計が済んだ後,領収書を発行すれば,その時点で民法における義務を果たしたことになり,再発行に応じる必要はないと言えます。
●必要であれば,支払証明書などの名目で有償で対応可能
領収書は,金銭を受け取ったことを明らかにする証書で,2つの性格があります。1つは証拠書類として,もう1つは裏付け資料としての性格です。売買が行われて,「支払った」「支払われていない」という代金支払いの争いになった際,お金の受け渡しがあったことを証明する証拠書類になります。また,本当に支払ったのか,架空ではないのかと疑われた場合に「誰に」「いつ」「いくら支払ったのか」を立証する大事な証書です。
重要証書であるが故に,紛失すると,再発行の依頼が来るわけですが,民法の規定によって,医療機関は既に義務を果たしているので,必要であれば,有償で「支払証明書」「医療費証明書」といった文書により交付いたします─という対応になるのです。
一方,再発行に応じている医療機関は,領収書の隅に「再発行」の表示を必ず記入し,日付も再発行日として交付し,二重に領収書を発行したような扱いにならないよう対応することが大切です。
●さらに理解を深めるために
法律上,領収書に記載すべき項目は規定されていません。しかし,その性格上,領収書という名称,金額,日付,発行者の住所・氏名,押印,相手方の氏名,但し書きなどが最低限必要です。
医療機関の場合,発行者欄には「医療機関の所在地,医療機関名,押印(必要に応じて金銭受領権限者=院長の氏名と押印)」となります。なお,金額の数字を容易に書き換えられないよう,縦書きでは「壱」「弐」のような漢数字を用い,横書きの場合は金額の頭部分に「金」または「¥」を用い,金額の最後に「円」をつけ,3桁ごとに「,」で区切るようにします。
また,「領収書に印紙が貼っていない」「3万円を超える医療費を支払っているのだから印紙が必要ではないのか」などの質問を受けることがあります。印紙税法第5条では3万円以上の受け取りに印紙の貼付を義務づけていますが,同条では同時に健康保険法に係る証書は非課税扱いとする規定も設けています。したがって,医療機関の領収書に印紙を貼付する必要はありません。