もつれない患者との会話術
ポイント
治癒の診断であれば1年後の受診を勧めることはないと思います。症状の変化を見極めるために,1年後の受診を指示した場合には「再診」扱いになります。その旨をしっかり診療録に記載しておくことが大切です。
解説
保険外併用療養費の請求は,どの医療機関でもトラブルとなりがちです。医療機関の中には,1年経過後の受診を継続的な通院と考えず,原則として保険外併用療養費の対象としているところもあるようです。
最終来院日から1年経過後の受診は,一律初診扱いとして算定可能かどうかについてですが,同一疾患による1年に1回の経過観察での受診なのかどうかを見極める必要があります。
200床以上の病院における紹介なし初診の取り扱いは,以下の通りです。
ア.患者の疾病について医学的に初診といわれる診療行為が行われた場合に徴収できる(自ら健康診断を行った患者に診療を開始した場合等には徴収できない)。
イ.同時に2以上の傷病について初診を行った場合においても,1回しか徴収できない。
ウ.1傷病の診療継続中に他の傷病が発生して初診を行った場合においても,第1回の初診時にしか徴収できない。
エ.医科・歯科併設の病院においては,お互いに関連のある傷病の場合を除き,医科又は歯科においてそれぞれ別に徴収できる。
オ.ア~エまでによるほか,初診料の算定の取り扱いに準ずる。
(平成28年3月4日保医発0304第12号厚生労働省保険局医療課長通知「『療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等』及び『保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等』の実施上の留意事項について」より)
考え方の基本的な整理
●初診の基本的な考え方の整理とその根拠
診療報酬の算定根拠は健康保険法第76条の規定による「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(平成28年3月4日厚生労働省告示第52号),すなわち「点数表」ですが,この点数表には事細かに算定根拠は示されていません。また,法令用語を用いていることから,医事担当者によっては正確な解釈がなされないまま算定するなど,解釈の相違で算定が異なってくる場合も現実に多々あります。
このうち初診については,「患者の傷病について医学的に初診といわれる診療行為があった場合に初診として取り扱う」「患者が任意に診療を中止し,1カ月以上経過した後,再び同一の保険医療機関において診療を受ける場合には,その診療が同一病名又は同一症状によるものであっても,その際の診療は初診として取り扱う。但し,慢性疾患等明らかに同一の疾病又は負傷であると推定される場合の診療は初診として取り扱わない」(平成26年3月5日保医発0305第3号)とされています。
●保険外併用療養費の基本的な考え方の整理とその根拠
200床以上の病院の紹介なしの初診の際に,初診料とは別に医療機関が表示した額が算定できます。この保険外併用療養費には,医療機関の規模,立地条件,患者数の多少などにより数百円~数千円台までと幅があり,医療機関の考えが大きく反映されています。現在では,医師の業務軽減の1つとして料金を設定している医療機関もあります。
●このケースのような医師の指示による1年後の経過観察の場合
「1年後に来院するように医師に言われて来た」というようなケースの場合は,以下のような判断が必要と考えます。
治癒の診断であれば1年後の受診を勧めることはないと思いますので,症状の変化の有無に関係なく,1年後の受診を指示した場合には「再診」扱いになります。したがって,その旨をしっかり診療録に記載しておくことです。
また,「症状の変化や異変が出現しなければ,1年後の受診は不要」との説明をするとともに,やはり診療録に書き留めておくことが必要です。最後に診察した段階で,治癒または完治と診断できる場合はその旨を説明し,あいまいな表現や説明を避けることが肝心かと思います。
医療機関の対応
以上の政府答弁書の内容を理解し,保険外併用療養費の算定については,算定の解釈を会計窓口の職員全員が正しく理解,把握しておくことが肝心です。
ただし,たとえば8カ月前に同院のA科を受診後,今回はB科を受診した場合には診療科が異なるので,B科での保険外併用療養費は算定できることになります。
参考
- 国会質問主意書と政府答弁書
本件の参考になるものとして,丸山和也参議院議員が政府宛に提出した質問主意書(平成24年6月28日 第180国会質問第167号)「病院の初診に関する質問主意書」(http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/180/syuh/s180167.htm)と,これに対する政府答弁書(平成24年7月6日 内閣参質180第167号)(http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/180/touh/t180167.htm)がありますので,紹介します。
質問主意書の中で丸山議員は,まず,「病院と診療所の機能分担を図るため,他の保険医療機関等からの紹介なしに200床以上の病院を受診した患者については,自己の選択に係るものとして,初診料を算定する初診に相当する療養部分につき,その費用を患者から徴収できることになっている。ただし,厚生労働省保険局医療課長通知によると,この初診に係る特別の料金を徴収できるのは,患者への十分な情報提供を前提として,当該病院を受診するという患者の自由な選択及び特別料金を支払うという同意があった場合に限られる。にもかかわらず,病床数200以上の病院においては,他の医療機関の紹介状がない患者から,同意なしに事実上強制的に同料金を徴収しているという実態がある」と指摘しています。
その上で,下記の3点を質問しています。
「1)保険医療機関は,健康保険法に基づく告示に関する前記通知内容には,厳正に従わなければならないはずである。とすれば,患者が同意しない場合,病院は同料金を徴収できないと考えられるが,この点について政府の見解を問う。
2)200床以上の病院は,他の医療機関の紹介状がない患者に対して,同料金があくまで同意に基づき徴収されるものであることを周知させていない。その結果,多くの患者は,同意の有無に関係なく支払わなければならないものと錯誤に陥っている。この実態は,通知の趣旨に反し,好ましくないものであると考えるが,政府の見解を問う。
3)患者が同料金の支払いに同意せずに医師に診療を求めた場合,医師がその求めを拒否することは応召義務に違反することになるのか,政府の見解を問う」。
これに対する政府の答弁書では,1)および2)の質問に対して,
「保険医療機関が患者からお尋ねの料金を徴収するに当たっては,当該保険医療機関が当該患者に対して十分な情報提供を行った上で,当該患者の同意を得ることが必要であり,当該保険医療機関が当該患者に対して十分な情報提供を行わず,又は当該患者の同意を得ないで,当該患者から当該料金を徴収していることが判明した場合は,当該保険医療機関に対して厚生労働省地方厚生局長(地方厚生支局長を含む)等による指導が行われるものと考えている」
と答弁しています。
また,3)の質問に対しては,
「医師法(昭和23年法律第201号)第19条第1項の規定による診療に応ずる義務の有無を判断するに当たっては,同項にいう正当な事由の有無を個々の事例に即して具体的に検討することが必要であり,お尋ねについて,一概にお答えすることは困難である」
としています。
もつれない患者との会話術
「もつれない 患者との会話術<第2版>」
編者: 大江和郎(東京女子医科大学附属成人医学センター 元事務長)
提供/発行所: 日本医事新報社
目次
総論 |
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窓口・待合室での会話術 |
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診察室での会話術 |
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看護師・医療スタッフの会話術 |
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