もつれない患者との会話術
ポイント
誤診でない限り,残薬の返金に応じてはいけません。安易に応じてしまうと,保険請求全体の取り下げに発展し,足をすくわれかねないのです。執拗な患者には,医療機関の管理下にない薬を他の人間に用いることは安全上問題であることを説明しましょう。ただ,残薬の廃棄処分のみには快く応じましょう。
解説
●医療機関の管理を離れた医薬品は安全上問題
このケースのように,患者から薬代金の返金請求があっても,応ずべきではありません。なぜなら,薬が既に医療機関の管理下を離れているからです。患者宅でしっかり保管していたと言っても,医療機関と同一の管理状態であったとの保証はありません。薬を引き取り,同じ疾患の患者に使用することは安全上問題です。
●応じるのは誤診の場合のみ
医師法第22条は,「医師は,患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には,患者又は現にその看護に当たつている者に対して処方せんを交付しなければならない」と規定しており,医師は診察での所見,既往歴等々の総合的診断から処方,投与を行います。その後経過が思わしくないとか,発疹が出現したとかいう理由で「薬が間違っていたのではないか」と言われても,必ずしも誤診ではないのです。基本的に薬の返却に伴う代金の返還は,特に医療機関側に「過失=誤診」があると思われる行為がない限り,断るべきです。
「過失=誤診」と思われる行為がないのに薬代金のみ返金するということは,患者の一部負担金のみならず保険請求分も取り下げることとなり,患者の支払った代金だけの問題で済まなくなってしまうのです。患者が不要だからと言って申し出を受け,その都度返金していては本来果たすべき診療行為を,正当な理由もなく履行していないものとみなされかねません。
医療機関の対応
患者にとっては,余った薬を「もったいない」と思い,「医療機関に引き取ってもらいたい」と考えるのは当然だと思いますが,医療機関としては受け入れがたいところです。
ただし,患者宅での処分が困難で医療機関での廃棄処分(単なる残薬の廃棄処分のみ)を依頼された場合は,快く応じることが大切だと思います。
関係法令など
医師は,患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には,患者又は現にその看護に当つている者に対して処方せんを交付しなければならない。ただし,患者又は現にその看護に当つている者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出た場合及び次の各号の一に該当する場合においては,この限りでない。