もつれない患者との会話術
ポイント
準委任契約に基づく診療を行った場合,患者の支払い義務に関しては民法第648条,健康保険法第74条等で規定されています。最近はいろいろ難癖をつけて窓口での一部負担金を支払おうとしない患者が増えていますが,過激な発言を浴びせるようなケースでは,法律に沿った正当な対応であることを毅然とした態度で示すほうが効果的な場合があります。
解説
●準委任契約によって患者には診療費の支払い義務がある
医師と患者の間では診療に関する準委任契約が締結されており,診療費の支払いは患者の義務とされています。これは民法上の委任契約に準ずるものとして委任の規定を準用するからです。準委任契約によって,医師および患者には次のような義務が生じます。
まず医師側の義務として,①医師は最善の方法をもって医療を行わなければならない(民法第644条),②専門医への診療の委任(民法第104条,105条),③診療についての患者への報告義務(民法第645条)などがあります。
一方,患者の義務としては診療費の支払い(民法第648条)があります。この診療費の支払いは成功報酬を意味するものではありません。治療の結果,手術結果の成否,検査結果の良悪を問うものではないのです。
●支払い拒否のこんな事例も
最近は,このケースのような患者も中にはいるらしく,医療機関も対応に苦慮していると聞きます。患者によっては,「不要な検査をしている」「検査項目が多い」などと難癖をつけて支払いを拒否し続け,結局,一部負担金を支払わずに帰宅する事例もあります。また,「事前にどのような検査を施行し,費用はどのくらい要するか,聞いていなかった」と言って支払いを拒否する患者や,事前の概算額を超える請求になると怒り出す患者もいると聞きます。特に,保険適用されていない自費検査は,費用も高いため,事前説明しないものなら未収金となりかねず,医療機関の収入にも影響を及ぼすことにもなります。
医療機関の対応
最近の傾向として,「誰が言ったのか」「どこにそのような規定が書かれているのか」「根拠を示せ」等々の言葉を浴びせる患者も多くなってきました。このような患者に対しては,最初から「健康保険法の規定により」とか「厚生労働省の通知により対応させていただいております」と言って差し支えないと思います。
関係法令など
委任による代理人は,本人の許諾を得たとき,又はやむを得ない事由があるときでなければ,復代理人を選任することができない。
代理人は,前条の規定により復代理人を選任したときは,その選任および監督について,本人に対してその責任を負う。
- 2.代理人は,本人の指名に従って復代理人を選任したときは,前項の責任を負わない。ただし,その代理人が,復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら,その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは,この限りでない。
受任者は,委任の本旨に従い,善良な管理者の注意をもって,委任事務を処理する義務を負う。
受任者は,委任者の請求があるときは,いつでも委任事務の処理の状況を報告し,委任が終了した後は,遅滞なくその経過および結果を報告しなければならない。
受任者は,特約がなければ,委任者に対して報酬を請求することができない。
- 2.受任者は,報酬を受けるべき場合には,委任事務を履行した後でなければ,これを請求することができない。ただし,期間によって報酬を定めたときは,第624条第2項の規定を準用する。
第63条(注:療養の給付)第3項の規定により保険医療機関又は保険薬局から療養の給付を受ける者は,その給付を受ける際,次の各号(略)に掲げる場合の区分に応じ,当該給付につき第76条(注:療養の給付に関する費用)第2項又は第3項の規定により算定した額に当該各号に定める割合を乗じて得た額を,一部負担金として,当該保険医療機関又は保険薬局に支払わなければならない。