もつれない患者との会話術
ポイント
医療収入増対策としての1つとして「同室の当日退院,当日入院」を実施している医療機関もあると思います。患者からすれば,午前中退院で1日分の室料差額を徴収されることの不満もさることながら,同日に同じ部屋に入院した方からさらに室料差額を徴収することへの不満が募り,窓口で説明を求める人もいます。
解説
●病床稼働率を上げるための対策
医療機関といえども,社会の景気に左右される業態となってしまい,診療報酬の伸び悩みにより,厳しい医療経営を迫られています。収益が一向に伸びる気配がない中,経費削減に努めることで,各医療機関もいかに収益を上げるか血の滲む努力をしています。収益を上げる方法の1つに病床稼働率のアップを実行している医療機関もあります。
その1つに,病床の効率的な利用を図るべく,午前中に退院手続きを取る一方で,空室となった病室では即ベッドメーキングを行い,午後には次の患者を入院させる方式を採っているところもあるかと思います。
しかし,この方式は綱渡りのときもあり,入退院担当者としては冷や汗ものでもあります。たとえば,午前中退院予定の患者の容態が急変し午前中の退院が困難なときなどは,入退院係にとっては次の患者が間もなく入院してくるという状況のもと部屋の確保に院内を駆けずり回ることもあります。退院予定の患者が退院延期となってしまった場合には,次に入院する予定の患者宅へ急遽電話を入れ,急患を収容してしまって空室がないことなどもっともらしく説明して納得いただくよう対応することもあるようですが,困ってしまうのが,既に病院に向かってしまったとか,病院の玄関に到着しているという場合です。この時ばかりは,とりあえず急患を収容してしまったためにという説明をする傍ら,他診療科の空室状況を速やかに調べて,数日間のベッド借用を願い出て他診療科へ入院して頂く手配を行うこともあります。
患者も生身の人間であり,朝何ともなくても昼頃にかけて発熱するとか,退院日に急に不調を訴えるとかで,連日このようなアクロバット的な対応で,職員に負荷がかったり,患者同士や患者と病院側とのトラブル等が生じたりしているケースもあります。
トラブルとは,退院する患者と入院する患者が偶然手続きの際一緒にいたことで,病院側とのやり取りを互いに聞いて不信感を抱き,不満を持ったり,患者によっては同日に2日分の入院料と室料差額を病院が不当利得しているのではないかとの印象を持ったり,1日分の入院料を支払っていることがわかった時点で,午後退院を希望する方もいたりして,病院のイメージを損なうおそれが生じてきています。
●適正な対応
現行の保険制度において,入院料の算定方法は1日単位の計算となっていますが,これはあくまで半日単位のような煩雑な計算を強いるのは現実的ではないという判断であり,室料差額の料金まで同様の算定方法を強制するものではありません。室料差額の算定要件については具体的に示されていますが,室料差額の算定方法はあくまで医療機関と患者との間で決めることとされています。
前述のように患者に不満を残すようであれば,明確に入院の際に「当院の室料差額料金体系」について説明し同意を得るとか,退院時刻によって料金に差をつけるとかして,医療機関の方針を示すことが必要であり,その方針を事前に患者に説明してから入院させることが最もよい方法と思われます。また,少なくとも入退院窓口には医療機関側の「入院に関する方針」を患者の目に触れる場所に掲示しておきましょう。