もつれない患者との会話術
ポイント
第三者行為による負傷で保険診療を希望する患者に対して,健康保険が適用可能という規定も,自賠責保険を利用する場合には健康保険の給付は行わないといった規定も存在せず,実質的に保険による治療が可能であることを理解しましょう。ただ,保険者への手続きが必要であり,まずは加害者との話し合いを勧めましょう。
解説
いまだ交通事故による負傷に対して,健康保険の適用ができないと思っている医療機関が見受けられます。第三者の行為によって交通事故などが生じた場合,当然,加害者がいるわけで,治療費に関しては相手方が責任を持って支払いをするのは当然ですが,患者(被害者)が健康保険による治療を希望した場合はどうなのでしょうか。
●自賠責か健康保険かは患者本人の意思次第
交通事故のような第三者行為による負傷については,必ず加害者が実費で全額負担しなければならないという規定はどこにもありません。
健康保険法の給付制限の規定においても第三者行為による負傷について保険給付を行わないとか,自賠責保険を利用できる場合には保険給付を行わないといった表記はありません。逆に,何が何でも健康保険による給付を義務づけているものでもありません。
要は,健康保険での給付を受けるのも,自賠責保険で治療を希望するのも患者本人の意思次第であるということです。したがって,第三者行為による負傷を理由に健康保険による治療ができないということはないのです。
医療機関の対応
●具体的な届出の手順
患者が第三者行為による負傷に対して健康保険での診療を希望する場合,医療機関に対してその旨を申告するとともに被保険者証を提出し,速やかに保険者に対し「第三者の行為による傷病届」を届け出なければならないことになっています。この届け出によって保険者は被害を受けた被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を「保険給付を行った価額の限度」で代位取得し,加害者にその費用を請求することになるのです。
また,被害者が保険者へ届け出たことの報告について,医療機関の窓口担当者は口頭で話を聞く程度で十分であり,実際届け出を行ったかどうかの確認まで求める必要はありません。
第三者の行為による負傷といっても,職務上や通勤途上でのけがは労災保険(労働者災害補償保険法)の適用となることから,窓口で第三者行為による負傷の申し出があった場合には,労災保険の適用か否かを確認する必要があります。労災保険適用の場合は,「第三者行為災害届」を勤務先を通して所轄の労働基準監督署に届け出ることになります。なお,ひき逃げ,無保険車,盗難車などによる交通事故の場合は,自賠責保険の恩恵を受けることができません。このような場合には,最小限の救済を行うことを目的とした「政府保障事業」により,健康保険および国民健康保険が優先適用されることになります。
●その他保険者へ報告すべき事故
前述のように第三者行為による負傷の場合には,保険者へ届け出ることになっていますが,交通事故以外の第三者行為による負傷の場合にも保険者に届け出が必要な場合があります。たとえば,自転車同士の衝突,ケンカや暴行による負傷,飼い犬にかまれた場合,レストランでの食中毒等々,本人の不注意や過失が大きい場合の事故でも第三者行為による事故となる場合があります。窓口では患者から状況を聞き,場合によっては保険者への報告を促す必要があります。
●規定がないことが根拠
第三者行為による負傷で保険診療を希望する患者に対して,健康保険が適用可能という規定や,自賠責保険を利用の場合には健康保険の給付は行わないといった規定は存在しません。要するに,第三者行為による負傷で保険給付ができるのは規定がないからであり,規定がないのが根拠であると言えます。