もつれない患者との会話術
ポイント
医療機関で設定している文書料金は文書作成手数料金であること,交付に関係なく料金が発生することを患者に説明することであります。
解説
●放埓な患者の増加
某病院での話ですが,「ある中年の女性が来院して,診察室において担当医に診断書作成を申し込んだとのこと。担当医は診察後,患者が待っている間に急ぎ診断書を作成し,会計窓口で料金の支払いを済ませるように指示。その後患者は,会計窓口で料金を聞いた途端に文書料金が高いと苦情を言い,『そんなにするのなら診断書は要らない』と,結局料金を払うことなく帰ってしまった」ということでした。
筆者も長年医療機関に勤務していましたが,このような出来事は初めて聞きました。
驚くと言うよりもあっけにとられたという感じです。本当に,最近の患者の行動は奇異に感じることが多いと思います。また,事前にどのような治療を施行し,費用はどのくらい要するか説明していないでいると,「聞いていなかった」とか,あるいは「事前説明がなかった」とか言って支払いを拒否する患者もいると聞きます。特に,点数表未収載の自費検査の場合については,料金も高く事前説明をしないものなら未収金となりかねない事態となり,医療機関の収入に影響を及ぼす結果にもなります。ちなみに「放埓」とは,社会的な制約を無視して好き勝手にふるまうことを言いますが,まさにこのような患者は多いし今後も増えるものと思います。
●法律的な根拠
診療費の支払いについて,法律ではどのように規定しているのでしょうか。医療機関における診療契約は準委任契約と呼ばれています(準委任契約については113頁参照)。
医療機関の対応
ここ数年,窓口の対応をそれとなく聞くと以前は考えられなかったトラブルが増えているように思います。思うに,医師と患者関係の優劣が逆転したのは横浜市立大学医学部附属病院の患者取り違え事故(1999年1月11日)以降です。実際,気の弱い医師の場合など患者から文句を言われ,めそめそしながら診察をしている光景も見受けられたことがありました。そこまで,医師の威厳がなくなったということでしょうか。
さて,窓口対応としてはどうするべきでしょうか。患者側からみれば「高いから不要である」のかもしれませんが,ことはそんなに甘くはありません。医師の作成する文書は,社会的に影響を及ぼすこともあり,また虚偽記載しようものなら刑事上の責任を追及される場合もあります。それゆえ,医師は適切な診断のもとに1枚の文書を作成することになります。「高いから不要」と言われても簡単に応じるわけにはいきません。
なぜなら,文書料とは「作成に要した手数料」であるからであります。ここはやはり患者に対してとことん料金を請求すべきと思いますし,このような状態が続くようでは医師の診療に対する士気にも影響が出るというものです。
ただし,支払い拒否が発生する原因の1つに,医療機関側の事前説明不足も挙げられます。要するに,面倒でも文書作成依頼を受けた場合に,「料金は1通○○円となっており,前金で受領しております。また不要の申し出があっても返金に応じられません」と事前に説明し,了解のもとで作成すべきと思います。時間を要しますが,地道に事前説明を行うほかないものと思われます。医師にとっては,診療時間が長くなるのを気にしつつも,やはり事後のトラブルを考えれば,時間を要しても根気強く対応することが求められるのです。
また,自費料金一覧などを受付や入り口など,患者の目に触れる場所に掲示しておくことも必要です。患者から「聞かされなかった」「言われなかった」「掲示されていなかった」「見せてもらったことがなかった」等々言われないように,自衛手段を講ずることです。