もつれない患者との会話術
ポイント
専門知識を有しない患者に指導(管理)の概念を理解してもらうのはそもそも困難ですし,指導内容を忘れてしまう患者もいます。必要に応じ,窓口では診療報酬点数表に基づいて該当する指導(管理)料の説明をしましょう。一方,医師も,行政が示している水準を超える社会的・道義的な説明責任が求められている時代であることを認識し,丁寧に指導(管理)をしていただきたいものです。
解説
●医師の自覚にかかっている指導(管理)料
指導(管理)料は,該当する疾患を有している患者に治療計画に基づき服薬・運動・栄養などの療養上の指導を行い,指導を行った内容の要点をカルテに記載した場合に算定できるとされています。逆に,主疾患に対して必要な指導が行われなかった場合や主疾患に対する治療が行われていない医療機関は算定できないとされています。
実際には,診察時に症状や検査結果の説明,療養上の説明が一緒に行われることから,患者にとってはどこまでが診察で,どこからが指導なのか判別がつきにくいと思われます。かと言って,担当医が「ここから指導を行います」と区切っていちいち説明している医療機関はないと思います。
医師としては,保険医であることの自覚を持ち,少なくとも自科の算定しうる指導(管理)料には何があって,どのような場合に算定可能なのか理解しておく必要があります。そして患者のコスト意識を十分認識し,請求額に見合う納得すべき診察と指導を行うことを心がけるべきです。
●点数表を基に説明しても納得する患者は少ない
実際の窓口業務では指導(管理)料に関して多くの質問を受けます。「指導(管理)を受けていないのに,なぜ指導(管理)料を支払わなければならないのか」「指導(管理)を受けた覚えなどまったくないのに,支払う必要があるのか」「請求額に見合うだけの指導(管理)を受けた覚えなどまったくない」「以前と変わらない診察なのに今回の請求額は納得できない」「指導(管理)料を請求できる根拠と,どの程度の指導(管理)を行えば請求可能なのか,基準を示してほしい」などです。
こうした質問が一番返答に困ります。点数表を基に窓口では,「この○○指導(管理)料は,このような場合に請求させていただいております」「この○○指導(管理)料は,月○回請求させていただいております」「担当医から主疾患に対する療養上の説明を受けておりませんか?そのときの説明がこの○○指導(管理)料です」等々の説明を行いますが,この程度の説明で納得して引き下がる患者は少ないと思われます。
そもそも,担当医師が十分な時間をかけて患者の話を聞き,患者が満足すべき説明を行ったとしても,帰宅する頃には医師の説明内容をほとんど忘れている患者もいます。
医療機関の対応
先月,新聞の投書欄に次のような投書が掲載されていましたのでかいつまんで紹介します。
「持病の高血圧のため,10年間月1回の通院をしているが,担当医からは“お変わりありませんか。それではいつものお薬を出します。お大事に”と言われ処方せんを頂いて終わりです。明細書には管理料の請求があるがそのような指導を受けたことは一切ない。医療費が年々膨らむ一方で,このような実態も確認すべきではないのか」という内容でした。
従来,医師は診療を,医事職員は算定を,と役割分担してきましたが,担当医も保険医として保険診療を担っていることを意識しながら日々の診療に取り組むことが大切です。
「厚生労働省の指示通りに算定して何が悪い」と開き直る医師もいますが,指導(管理)に不満な患者は今後ますます増えると予想されます。したがって,行政が示している水準を超える社会的・道義的な説明責任が求められていることを医師自身に受け止めていただきたいと思います。
そもそも社会保険診療報酬の請求は,事前にいくら費用がかかるかわからないシステムであり,一般の商店で物を購入するのとはわけが違います。また,医療保険制度および医学の専門知識を有している患者は少なく,そのような人々にとって,とりわけ指導管理の概念は理解しにくいものです。説明し,納得していただくことが困難なのはむしろ自然だと言えるでしょう。
関係法令など
- 点数表区分「B000 特定疾患療養管理料」(平成24年3月5日保医発0305第1号)
〔(1)略〕
- (2)特定疾患療養管理料は,別に厚生労働大臣が定める疾患を主病とする患者に対して,治療計画に基づき,服薬,運動,栄養等の療養上の指導を行った場合に,月2回に限り算定する。
〔(3)~(5)略〕
- (6)管理内容の要点を診療録に記載する。