もつれない患者との会話術
ポイント
患者の勘違いに基づくクレームであることが最初からわかっていても,患者自身が本気でそう思い込んでいる以上,“上から目線”は禁物です。恥をかかせて一層怒らせないよう気を配りながら,患者自身が自分の勘違いに気づいてくれるよう,丁重に対応することが肝心です。
解説
療養担当規則第3条に規定されているように,保険証の確認は医療機関に課せられた義務です。返却のタイミングは医療機関によってまちまちだと思いますが,保険証の紛失は医療機関の窓口でどうしても発生してしまうトラブルです。
最近は,認知症気味の高齢患者も増えてきており,職員が間違いなく返したにもかかわらず,自分の身の回りをまったく調べもせずに,一方的に「返却されていない!」と言い張り,「責任をとれ!責任者を出せ!」と罵る患者さえいます。
こうした思い込みの激しい患者に対して,医療機関側は不本意と思いながらも丁重に対応し,怒りが鎮まるよう努めるしかありません。結局,最後には,財布に入っていたり,定期券や手帳の中に挟まっていることがその場でわかったりします。その場ではわからなくても,後でこうした場所から出てきたと患者から電話が入ることもあります。
医療機関の対応
保険証の確認事務で肝心なのは,「重要な証書を預かるという気持ち」で対応することです。そして,保険証の返却を巡るトラブルを回避するには,担当者が直接,その患者に手渡すのがよいと思います。もう少し念を入れるとすれば,銀行の番号札システムのように,番号札と引き換えに保険証をやりとりする方法などがあります。
なお,人間のやることですから,ついうっかりということもあります。医療機関側の責任で紛失などのミスが起こったときは誠心誠意,一所懸命に心当たりを探し,なお発見できなければ丁重にお詫びし,後々の対処を患者に説明して,迅速に必要な行動に移す必要があります。こうした対応次第で患者の気持ちが決まると言っても過言ではありません。
注意すべき点は,自分の名前が呼ばれたと勘違いして他人の保険証を受け取って帰宅してしまう人のほか,世の中には故意,意図的に他人の保険証を失敬する輩もいるということです。拾った保険証でその当人になりすましてコンビニエンスストアに勤務し,レジからお金を盗んだという事件も報道(2013年)されました。
お預かりするときに“100万円の小切手”と思えば,真剣さも違ってくることでしょう。常に「他人様の大切な預かり物」との認識で取り扱うことです。
コラム保険証を紛失してしまったら
保険証を紛失して真っ先に思い浮かぶのは,消費者金融で悪用されることだと思います。今は,無人店舗で機械を相手にカードを作成できるようになりましたが,身分を証明する証として保険証が用いられていることに変わりはありません。
保険証には,資格の有無を証明する資格証と,治療の給付のための受療証の2つの機能があります。ただ,有価証券(小切手や手形の類)としての価値はまったくありませんから,悪用されたとしても金銭借用の債務が生ずるものではないということです。仮に,消費者金融で悪用されたとしても,事情を説明して債務者たることを否定することです。
関係法令など
- 保険医療機関及び保健医療養担当規則第3条(受給資格の確認)
保険医療機関は,患者から療養の給付を受けることを求められた場合には,その者の提出する被保険者証によって療養の給付を受ける資格があることを確かめなければならない。ただし,緊急やむを得ない事由によって被保険者証を提出することができない患者であって,療養の給付を受ける資格が明らかなものについては,この限りでない。