もつれない患者との会話術
ポイント
身体障害者用駐車スペースの設置はすべての医療機関に義務づけられているわけではありませんが,患者の中にはこのことを知らない人も多く,トラブルにつながりかねません。
このため,職員は自分の勤務する医療機関にどのようなことが義務づけられているのか理解しておく必要があります。そうした知識を事前に身に付けていることで,冷静にクレーム処理が行えるのです。
解説
2010年に国土交通省が,自治体独自の駐車利用証を交付している2県1市(福島県,佐賀県,埼玉県川口市)の住民2,087人に「不適正駐車」に関するアンケート(郵送による調査票)を実施したところ,1,281人が回答(回答率61%)し,このうち,47%が駐車スペースに自分の車を「ほとんど止められない」「混雑時以外でも止められないことがある」と回答しました。その理由として,健常者による不適正駐車(「利用証の提示がない車の駐車が多い」)が全体の65%と最も多く,ついで「駐車スペースが少ない」が25%でした。そして,特に改善を望む施設としては大型ショッピングセンター・百貨店(64%),病院・診療所(63%)が上位を占めました。
2006年12月から施行されたバリアフリー新法(「高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」)は,駐車場を新設する際,幅3.5m以上の駐車区画の整備を原則義務化しましたが,健常者の利用を禁じていないことから,このような不適正駐車が問題となっています。
ただ,市の中心部の医療機関では,通常の駐車スペースの確保すら困難なのに,身体障害者用の駐車場まで確保しなければならないとなると,大変な負担です。そこで,駐車場に関するクレームやトラブルに対処する際,医療機関関係者は,設置義務はいくつかの要件を満たしている場合のみであり,要件を満たさなければ身体障害者用駐車スペースを用意する必要はないということを理解しておきましょう。
バリアフリー新法について具体的に解説します。同法の対象となるのは,「路外駐車場車いす使用者用駐車施設」(「車いすを使用している者が円滑に利用することができる駐車施設」で,いわゆる身障者用駐車スペースの意)であり,一定条件を満たす駐車場(「特定路外駐車場」と言います)を新設する場合には「1以上設けなければならない」と定められています。
そもそも,この「特定路外駐車場」には以下の3つの要件があります。
(1)道路の路面外に設置される自動車の駐車のための施設で,一般公共の用に供されるもの。
(2)駐車の用に供する部分の面積が500m2以上であるもの。
(3)利用について駐車料金を徴収するもの。
そして,「特定路外駐車場」の構造および設備に関する基準には,いわゆる身体障害者用駐車スペースの設置を含む,以下の3要件があります。
(1)幅は350cm以上とすること。
(2)路外駐車場車いす使用者用駐車施設又はその付近に,当該駐車施設であることの表示をすること。
(3)路外駐車場車いす使用者用駐車施設は,当該駐車施設から道,公園,広場その他の空地までの経路の長さができるだけ短くなる位置に設けることとし,その経路のうち1以上を,以下(注:段差を設けないことや,併設する傾斜路の勾配に関する基準等の4つ)のすべてに適合する高齢者,障害者等が円滑に利用できる経路(路外駐車場移動等円滑化経路)とすること。
これらは,特定路外駐車場を新設する際の設置・報告義務であり,既存の特定路外駐車場については基準に適合させる努力義務が課せられています。
医療機関の対応
患者さんの中には車でしか来院できない方,さらに身体障害者の方もいます。そのため,多くの医療機関では来院者用に駐車場を確保しています。ただ,地価の高い都市部では,駐車場用に広大なスペースの確保は困難で,狭い敷地であればあるほど身体障害者専用の駐車スペースの確保は難しいと言えます。
このケースのように,車で来院しても駐車スペースがなければ怒りたくなるのは,もっともなことでしょう。ただ,急病人を早く診察してもらいたい家族が自家用車で患者を連れてきたとき,身体障害者用の駐車スペースと知りつつ一時的に駐車してしまうこともあるでしょう。
身体障害者用駐車場の確保が難しいと思われる場合,せめて「身体障害者用の優先駐車場」である旨のステッカーを貼ったりするなどして,来院者に周知させるようにします。
ただし,今回のケースのように,すべての医療機関に身障者用駐車場の設置義務があるという誤解に基づいたクレームに対しては,500m2以上の有料駐車場が設置義務の対象であることを説明し,自院の事情について理解を求めればよいと思います。
また,駐車スペースの少ない医療機関の場合,ホームページなどにおいて公共交通機関を利用するよう呼びかけるとともに,来院した患者に対しては常に満車状態であることをアナウンスしたり,目立つところに院内掲示するなどして,クレーム抑止効果を上げていきます。
関係法令など
高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律
- 第11条(路外駐車場管理者等の基準適合義務等)
路外駐車場管理者等は,特定路外駐車場を設置するときは,当該特定路外駐車場(以下この条において「新設特定路外駐車場」という。)を,移動等円滑化のために必要な特定路外駐車場の構造及び設備に関する主務省令で定める基準(以下「路外駐車場移動等円滑化基準」という。)に適合させなければならない。
- 2.路外駐車場管理者等は,その管理する新設特定路外駐車場を路外駐車場移動等円滑化基準に適合するように維持しなければならない。
- 3.地方公共団体は,その地方の自然的社会的条件の特殊性により,前2項の規定のみによっては,高齢者,障害者等が特定路外駐車場を円滑に利用できるようにする目的を十分に達成することができないと認める場合においては,路外駐車場移動等円滑化基準に条例で必要な事項を付加することができる。
- 4.路外駐車場管理者等は,その管理する特定路外駐車場(新設特定路外駐車場を除く。)を路外駐車場移動等円滑化基準(前項の条例で付加した事項を含む。第53条第2項において同じ。)に適合させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
「移動等円滑化のために必要な特定路外駐車場の構造及び設備に関する基準を定める省令」(国土交通省令第112号 平成18年12月15日)
- 第2条(路外駐車場車いす使用者用駐車施設)
特定路外駐車場には,車いすを使用している者が円滑に利用することができる駐車施設(以下「路外駐車場車いす使用者用駐車施設」という。)を1以上設けなければならない。ただし,専ら大型自動二輪車及び普通自動二輪車(いずれも側車付きのものを除く。)の駐車のための駐車場については,この限りでない。
- 2.路外駐車場車いす使用者用駐車施設は,次に掲げるものでなければならない。
- (1)幅は,350cm以上とすること。
- (2)路外駐車場車いす使用者用駐車施設又はその付近に,路外駐車場車いす使用者用駐車施設の表示をすること。
- (3)次条第1項に定める経路の長さができるだけ短くなる位置に設けること。
- 第3条(路外駐車場移動等円滑化経路)
路外駐車場車いす使用者用駐車施設から道又は公園,広場その他の空地までの経路のうち1以上を,高齢者,障害者等が円滑に利用できる経路(以下「路外駐車場移動等円滑化経路」という。)にしなければならない。
- 2.路外駐車場移動等円滑化経路は,次に掲げるものでなければならない。
- (1)当該路外駐車場移動等円滑化経路上に段を設けないこと。ただし,傾斜路を併設する場合は,この限りでない。
- (2)当該路外駐車場移動等円滑化経路を構成する出入口の幅は,80cm以上とすること
- (3)当該路外駐車場移動等円滑化経路を構成する通路は,次に掲げるものであること
- イ幅は,120cm以上とすること。
- ロ50m以内ごとに車いすの転回に支障がない場所を設けること。
- (4)当該路外駐車場移動等円滑化経路を構成する傾斜路(段に代わり,又はこれに併設するものに限る。)は,次に掲げるものであること。
- イ幅は,段に代わるものにあっては120cm以上,段に併設するものにあっては90cm以上とすること。
- ロ勾配は,12分の1を超えないこと。ただし,高さが16cm以下のものにあっては,8分の1を超えないこと。
- ハ高さが75cmを超えるもの(勾配が20分の1を超えるものに限る。)にあっては,高さ75cm以内ごとに踏幅が150cm以上の踊場を設けること。
- ニ 勾配が12分の1を超え,又は高さが16cmを超え,かつ,勾配が20分の1を超える傾斜がある部分には,手すりを設けること。
もつれない患者との会話術
「もつれない 患者との会話術<第2版>」
編者: 大江和郎(東京女子医科大学附属成人医学センター 元事務長)
提供/発行所: 日本医事新報社
目次
総論 |
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窓口・待合室での会話術 |
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支払いにまつわる会話術 |
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診察室での会話術 |
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看護師・医療スタッフの会話術 |
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問い合わせでの会話術 |
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