もつれない患者との会話術
ポイント
医療機関として積極的に情報公開して,患者さんが戸惑うことのないよう各種料金表や手続き,申請手順などを目につく場所に掲示するなり,案内を設置することが求められています。
解説
●聞いていない・書いていない
先日,某病院の医事課長が「窓口にカルテ開示を求めてきた人がいた。その方は患者の親族で,“開示については本人か,または本人の委任状を持参した方以外は開示できない”と説明したところ,“誰まで開示するのかどこにも掲示していなければ明記もしていないではないか,料金や開示方法も表示されていないではないか,続柄を表す書類とはいったいどのような書類なのか”等々わめき通しだった」とこぼしていました。
確かに,平成17年4月に個人情報保護法が全面施行されてからは,どの医療機関も個人情報の取り扱いを受付などの見やすい場所に掲示していますが,その他の手続きに関することや,各種料金表,申請手順など事細かなところまでは掲示していない医療機関も多々見受けられます。どの医療機関でもこのような「うるさ型」の親族はいますし,自己主張を絶対曲げない,聞き分けのない親族も年々増えているようにも思えます。
●地方厚生局の施設基準等の実施調査における指摘事項
某保険医療機関に厚生局の施設基準等の実施調査が入ったとのことで,そのときの指摘事項を聞くことができました。驚いたのは,掲示物の表示のしかたで,その保険医療機関では自費料金価格を「○○円~○○円」と幅を持たせて掲示していましたが,項目ごとに○○円と表記すること,また室料差額については入退院窓口で入院する患者に配布する「入院のしおり」に記載するだけではだめで,一般の患者が目にする場所に具体的に料金表を掲示するよう指導を受けたということでした。
自費項目にしろ,差額料金にしろ,掲示する項目が多くなって壁一面料金表になるのではないかと思いました。そうでなくても,院内の至るところに院内ルールの遵守についての掲示物を掲示して患者に注意を喚起しています。たとえば,受付順に診察を実施すること,保険証の提出・確認を行っていること,携帯電話の利用は指定の場所のみであること,会計カードは順に上から乗せること,患者の症状によって診察時間が長引くこと,急患の場合は診察順番が前後すること,担当医の事情により休診となる場合もあること,クレジットカード利用の場合の利用カードの種類の案内,待合室で席を離れる場合には受付に申し出ること,待合室の雑誌を持ち帰らないこと等々。
患者に知らしめる意味もありますが,書いていない,あるいは掲示されていないという患者からのクレームに対抗する自衛手段でもあります。このような掲示物の中には常識で考えれば当然であり,あえて掲示する必要がないと思われるものもあります。しかし,最近は冒頭の話のように「聞いていない,掲示されていない」と言って文句を言う患者も増えているのも事実です。
●いやはや……
一般企業の商品などにも最近は「ここまでやる?」と思う説明書きが見受けられます。おやっと思ったのはカップラーメンのラベルに「やけどに注意」の注記のほかに「移り香注意」という説明書きがあったことです。これも消費者からのクレームで付け加えたのでしょうか?このように説明書きが増えると商品の周りは説明書きだらけとなってしまいかねません。しかも,それらを全部読んでから使用するかと言うと,まず読まずに使用するのが実態ではないでしょうか。
企業には消費者の安全を守る義務があります。製造物責任法によれば,本来の使い方でなくても予見しうるケースでは万一事故が発生した場合には企業側が責任を問われることになります。某企業の商品開発担当者が,企業側は消費者の中でも「一番知らない人」を対象に説明書きを盛り込む必要が生じてきたと言っているのを雑誌で読んだことがありますが,筆者に言わせれば「一番知らない人=世間知らずの人,常識を知らない人」と思えてきます。このような人を対象とするから,単にお湯を入れて食べるカップラーメンでさえ,詳細な注意書きを必要とするようなことになるのではないかと思いました。これも世相なのでしょうか……。
医療機関も一般企業に倣って,医療機関を一度も受診したことがない人を対象に「来院時から帰院するまで」の手順と,その間の注意事項を克明に記した案内書を渡し,最初に十分説明を行い,理解した上で診察申込書に記入して頂くことをお願いしなければならないかもしれません。
関係法令など
- 製造物責任法第1条(目的)
この法律は,製造物の欠陥により人の生命,身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより,被害者の保護を図り,もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
- 製造物責任法第2条(定義)
- 2.この法律において,「欠陥」とは,当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。
もつれない患者との会話術
「もつれない 患者との会話術<第2版>」
編者: 大江和郎(東京女子医科大学附属成人医学センター 元事務長)
提供/発行所: 日本医事新報社
目次
総論 |
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窓口・待合室での会話術 |
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支払いにまつわる会話術 |
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診察室での会話術 |
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看護師・医療スタッフの会話術 |
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問い合わせでの会話術 |
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