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医療機関は,療養担当規則第3条により被保険者資格の確認をしなければならない立場にあります。近隣の住民や数日以内に提出が見込まれるような場合は当日は自費診療,後日の提示時点で保険診療扱いとする場合などがありますが,安易に償還払いで済ませるような対応は避けるべきです。
被保険者証(以下,「保険証」と言う)を巡るトラブルで最も多いのが,保険証を忘れて来院するケースです。医療機関によっては,初診時の場合と再診時の場合で取り扱いを変えているところもあります。
保険診療では「保険証によって療養の給付を受ける資格があることを確かめなければならない」〔保険医療機関及び保険医療養担当規則(以下,本書では「療養担当規則」と言う)第3条〕と規定しており,医療機関では初診時であれ再診時であれ,保険証を忘れた場合の受診は自費診療として取り扱うことになります。ただ,医療機関によっては,近隣の住民であるとか,身元が確認できて数日以内に保険証の提出が可能な場合,受診当日は自費診療扱いとするものの,保険証の提出のあった時点で改めて保険診療扱い(差額の返還等)としている場合があります。
窓口担当者の中には,保険証を忘れた患者に対して一律に,自費診療とした上で後日,保険者による償還払いがあると説明している人もいると聞きます。しかし,償還払いは本来,突然または予期せぬ出来事で医療機関を受診せざるをえなかった場合に限られ,単に保険証を忘れただけでは償還払いの対象とならないことを理解する必要があります。
保険医療機関にとって,保険証の確認は療養担当規則で定める義務であることを理解しなければなりません。療養の給付を受ける前に確認を怠った場合には療養担当規則違反となります。
また,審査支払機関からの返戻レセプトの事由の中に「資格喪失のため」というものがあります。会社を退職したことにより,組合健康保険の被保険者の資格を喪失したにもかかわらず,受診した場合などです。発生理由としては2つ考えられます。1つは,退職したにもかかわらず保険者に保険証を返却せず,そのまま使用してしまった場合,もう1つは保険者に返却したあとで保険医療機関を受診した際に,窓口担当者が保険証の確認を怠った場合です。
レセプト返戻の際,保険証の確認を行っている保険医療機関では抗弁できますが,未確認の場合にはそのまま受け入れざるをえず,その分診療報酬が減ることになります。それでは,どの程度の確認が必要かというと,療養担当規則では資格があることを確認するとだけ規定しています。どの程度までの確認が必要なのかは規定していませんので,「一般的に要求される程度の注意義務」を果たしていればよいということになります。つまり,保険証に記載されている性別・年齢などが本人と相違ないかどうかの確認を求められる程度であり,本人であるかどうかの確認を行うことまでの義務は課していないということです。
(1)保険証のコピーを持参して保険診療扱いを希望する患者の場合
療養担当規則第3条では,実際の保険証によって確認することを求めています。コピーの提示では保険診療扱いはできません。本人のものかどうか確認できず,資格喪失の可能性も考えられるからです。
(2)保険証交付前の受診の取り扱い
最近は転職される方も大勢います。また4月の入社時期ともなると,新社会人が一斉に世に出ます。新しい保険証が交付されるまでの間に受診するような場合,保険証未提示となり,自費診療となってしまいます。しかし,この場合には「やむをえない理由による受診」ということで償還払いとなり,後日,保険者から現金給付されることになります。
「保険証は健康保険の身分証明書である」と言う人がいます。会社には社員であることを証明する身分証明書があるように,その人が健康保険に加入しているかどうかを証明するのが保険証です。健康保険の被保険者,被扶養者であることは,この保険証によって初めて証明されます。このような大事な役割を果たす保険証の取り扱いについて,もう少し保険者が被保険者に教育していただけたなら,受付窓口業務も楽になることでしょう。
関係法令など
保険医療機関は,患者から療養の給付を受けることを求められた場合には,その者の提出する被保険者証によつて療養の給付を受ける資格があることを確かめなければならない。ただし,緊急やむを得ない事由によつて被保険者証を提出することができない患者であつて,療養の給付を受ける資格が明らかなものについては,この限りでない。
参考
やむをえない事情により保険医療機関で自費による診療を受けた場合,全額自費で保険医療機関に支払い,あとから保険者から保険給付分の額の償還を受けることを言います。
編者: 大江和郎(東京女子医科大学附属成人医学センター 元事務長)
提供/発行所: 日本医事新報社
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