もつれない患者との会話術
ポイント
委任状には有効期限はありません。ただ,最近は患者の金銭トラブル等に医療機関が巻き込まれる事例が多発していることから,患者と代理人の間で何らかのトラブルが感じられたり,委任状等に不審な点が見受けられたりする場合,患者の意思を確認するなど予防的措置が必要でしょう。
代理人が委任状を取り直すことに難色を示すようであれば,医療機関側から患者宅に連絡をとり,事情を説明し,委任契約が継続しているかどうかを確認した上で診断書を交付することは差し支えありません。その際,診療録に患者との交信記録を残しておくことも大切です。
解説
●委任契約(委任状)には期間を制限する規定はない
委任契約は法律上,特段,期間を制限する規定を設けていません。したがって,何年間有効というように明確に区切ることは困難です。今回,代理人が交付を求めてきたというのは,何らかの理由から必要性が生じたものと思われ,その必要性がある限り委任事務は終了していないと考えられます。しかし,古い日付の委任状の場合は,既に患者の診断に関する調査が終了している,つまり委任事務が終了している可能性もありますし,委任契約はいつでも解除可能(民法第651条)なことから,委任者(患者)が委任契約を解除(調査終了の意思表示)している可能性もありえます。
●代理人による文書請求の背後には金銭トラブルが潜んでいる場合が多い
医療機関は,患者本人以外から実に様々な文書作成・提出の依頼を受けますが,そのような場合,必ず本人の委任状の提出を求めているはずです。しかし,このケースのように古い日付の委任状を提出された場合,対応に苦慮するところであります。自筆であっても日付の古い委任状については慎重に取り扱うことが求められます。
なぜなら,本人以外の人間が来院する場合,何らかのトラブルを抱えこんでいることも考えられ,場合によっては医療機関もそのトラブルに巻き込まれる恐れがあるからです。特に,最近は保険金がらみの事件が多発しており,保険会社は保険金の支払いに慎重に対応するべく情報収集に努めており,改めて医師の意見書や診断書を求める事例もあります。
そのような状況下では,患者と保険会社との関係も険悪な状態にあると察せられ,保険会社の申し出に簡単に応じてしまったあとで患者側からクレームをつけられることすら考えられるのです。
医療機関の対応
委任状の作成日からどの程度の期間が経過したら応じないようにしたらよいかを明確に言うことは困難ですが,ある程度患者の状況(たとえば,保険会社とトラブっているとか,家族間でもめているとか)が察せられる場合や,あまりにも古い日付の委任状を提出してきた場合などは,改めて委任状を取り直してもらうという対応が必要と思われます。いずれにせよ,医療機関がトラブルに巻き込まれないよう記録を残す心がけが必要です。
最近起きた事例では,患者が損保会社に委任した委任状の写しを,損保会社から調査依頼を受けたリサーチ会社が持参して,この患者の診断書交付を求めたという例があります。この事例では患者が直接リサーチ会社に委任したわけではないので,医療機関としては診断書の交付をはっきり断ることが必要です。
関係法令など
委任は,各当事者がいつでもその解除をすることができる。