もつれない患者との会話術
ポイント
携帯電話の電磁波は遺伝子に悪い影響を与えないと言われていますが,そのことをまだ知らない患者の精神的苦痛に配慮する必要はあります。携帯電話,パソコン等の制限付き使用方法の院内ルールを定めるとともに,必要な場合はその根拠を説明し,患者に理解を求めることがトラブル回避の方法の1つとなります。
解説
●医療機関内での携帯電話
最近の医療系テレビドラマでは,医師が携帯電話を使用する場面が登場するなど医療機関内での携帯電話の使用が認められたかの印象を受けます。以前は,医療機器に悪影響を与えるということから弱い電波を発信するPHSのみが院内で使用許可されていました。
しかし,2014年8月に電波環境協議会が「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」を公表したことで,携帯電話を使用する医療機関が増えてきました。
指針によりますと,携帯電話端末からの電波は端末からの距離が遠くになるにつれて減衰することから,一定の離隔距離を確保すれば医療機器への影響は防止できること,そして各医療機関でルールを設定し使用することと述べています。
まだまだ多くの医療機関でエリアを限定して使用許可していると思われますが,使用に際してのルールを設定し,わかりやすく表示するなどして周知徹底を図ることであります。
●電磁波の人体への影響
電流や磁気の方向や強さが時間的に変化(交流)すると互いに影響しあうようになり,電界があると磁界が生じ,磁界があると電界が生じるというように次々と波のように遠くに伝わっていきます。この波のことを電磁波といい,波の伝わっている空間(場所)を電磁界といいます。
電磁波は電離放射線と非電離放射線とに分けられ,携帯電話は非電離放射線に属します。非電離放射線は比較的に波長が長くエネルギーが小さいため,曝露されても細胞内の遺伝子などに悪い影響を与えないと言われています。
WHO(世界保健機関)が2007年6月,電化製品や高圧送電線が出す超低周波電磁波の人体への影響について,常時平均0.3~0.4μTを超える電磁波(商用周波数磁界)にさらされていると小児白血病の発症率が2倍になるとの日本や米国などでの疫学調査の研究結果を支持し,「電磁波と健康被害の直接の因果関係は認められないが,関連は否定できず,予防的な対策が必要」と結論づけた「環境保健基準238」が話題となりました。
電磁波による人への影響としては,刺激作用が既に科学的に立証されていますが,小児白血病との関連性については経済産業省の調査においても「関連性が弱く,研究対象者選択の偏りや磁界以外の要因による影響も否定できない」とされており,「生活環境での電磁波(電磁界)による健康影響があるという確実な証拠は見つかっておりません。しかし確実にないという証拠を見つけるのは論理的に無理です」という報告がなされています(一般財団法人電気安全環境研究所「電磁界と健康」)。
医療機関の対応
待合室での携帯電話の使用は周囲に迷惑という考え方が一般的ですが,携帯電話は生活上欠かせない道具となっており,医療機関内の全エリアで使用禁止というわけにもいかない状況となってきています。
したがって,単純に全面使用禁止とするのではなく,他人の迷惑とならないようマナーを遵守してもらい,最低限の院内ルールに従ってもらうという対応で,携帯電話を使用したい人および周囲の人に理解を求めることが双方のトラブルを避ける1つの方法ではないかと思います。