皮膚所見クイズ
症例報告 184 [主訴: 手足末端部・躯幹・頸部の柴紅色斑]
<症例> | 84歳、女性 |
---|---|
<主訴> | 手足末端部・躯幹・頸部の柴紅色斑 |
<既往歴> | 特記すべきことなし |
<家族歴> | 特記すべきことなし |
(症例提供) | 高松赤十字病院 皮膚科 部長 濱田 利久 先生 |
---|---|
(監修) | 高松赤十字病院 皮膚科 部長 濱田 利久 先生 |
解答と解説
診断名
- 寒冷凝集素症 (cold agglutinin disease)
鑑別診断
- 網状皮斑を呈する血管炎症候群やクリオグロブリン血症が鑑別に挙げられる。臨床経過と血液検査所見、病理組織学的所見が鑑別に有用である。
検査、原因、治療法
- 右足背より皮膚生検を施行。明らかな血管炎はなく、炎症細胞浸潤にも乏しかった。真皮内の小血管内に赤血球が凝集していた(図3)。血液検査では全血算でごく軽度の貧血(Hb 11.2g/dL)をみとめるのみ。リウマトイド因子陰性、抗核抗体x40倍(均質型)。免疫グロブリン分画でIgMが331mg/dLと上昇。HCV抗体陰性、クリオグロブリン陰性。寒冷凝集素262,144倍と著明高値を示し、免疫電気泳動でIgMκ型のM蛋白をみとめた(図3)。直接クームス試験陽性、ハプトグロビン正常範囲内。骨髄検査で異常細胞なし。以上より寒冷凝集素症と診断した。
寒冷凝集素症は、自己免疫性溶血性貧血の中で寒冷暴露によって活性化する自己抗体を持つ疾患群。自験例のように明らかな溶血性貧血をみとめないこともある。患者の多くにIgMκタイプのM蛋白をみとめる。小児では、マイコプラズマなど感染症後に一過性に発症し、自己抗体は多クローン性のことが多い。成人では単クローン性で慢性に経過し、リンパ増殖異常症など血液疾患を背景に持つこともある。女性に多く、皮膚症状は寒冷暴露後に網状皮斑、レイノー現象、末端部チアノーゼなどを生じる。図2は寒冷刺激後の臨床写真である。寒冷凝集素は中心温以下になると活性化し赤血球と結合する。補体が古典経路で活性化して溶血性貧血に至る。治療は寒冷刺激からの回避であり、自験例でも行動制限後に発症しなくなった。貧血に対しては対症的に輸血をおこなう。