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NEN(神経内分泌腫瘍)とは

日本におけるNEN(神経内分泌腫瘍)の疫学

本邦における膵消化管神経内分泌腫瘍の疫学的傾向:全国調査の解析より
Epidemiological trends of pancreatic and gastrointestinal neuroendocrine tumors in Japan: a nationwide survey analysis
Ito T, et al. J Gastroenterol. 2015; 50: 58–64

日本におけるNENの疫学

NEN(神経内分泌腫瘍)は、進行が遅くまれな疾患と考えられてきたが1)、米国の疫学研究であるSEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results)studyによると、1973年に比べて2012年の発症数は6.4倍(人口10万人あたり1.09人から6.98人)に増加しており2)、疫学的変化を正確に把握することが重要となっている。本邦では、2005年に膵・消化管NEN患者の全国疫学調査3)が実施され、欧米の調査結果と比べ、非機能性腫瘍における多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)の合併頻度、消化管NENの局在やカルチノイド症候群の頻度、悪性の頻度などに差異が認められた3)。2010年に2回目の全国疫学調査4)を行い、2005年の調査結果と比較検討した結果及び2016年全国がん登録を用いた調査結果5)を紹介する。


対象と方法

第1回全国疫学調査3)

2005年1月1日~12月31日の1年間に受療した膵・消化管NEN患者を対象とし、無作為抽出法にて5,773施設を抽出し、1次調査(受療した患者数の調査)を実施した。さらに、1次調査の返信があった施設に対して、2次調査(症例の調査)を実施した。1次調査の回答は621施設より951人(膵NENは368人、消化管NENは583人)あり、2次調査の回答率は951人中344人(36.2%)であった。

第2回全国疫学調査4)

2010年1月1日~12月31日の1年間に受療した膵・消化管NEN患者を対象とし、無作為抽出法にて6,339施設を抽出し、調査票を送付した。3,366人(膵NENは1,273人、消化管NENは2,093人)について回答があり、回答率は20.2%であった。

膵NENの現況

2010年の膵NEN受療者数は3,379人であり、2005年に比べて約1.2倍に増加した(表1)。有病患者数は人口10万人あたり2.69人、1年間の新規発症数は人口10万人あたり1.27人であった。新規発症数については、機能性腫瘍は2005年0.50人、2010年0.41人とほぼ同様であったのに対して、非機能性腫瘍は2005年0.51人から、2010年では0.87人と1.7倍に増加した。
膵NENにおいて、非機能性腫瘍の割合は65.5%、機能性腫瘍は34.5%であった。2005年の非機能性腫瘍の割合は42.8%であったことから、5年間で非機能性の割合が増加したことが判明した。機能性腫瘍では、インスリノーマの占める割合が最も高く(20.9%)、ガストリノーマ8.2%、グルカゴノーマ3.2%、VIPオーマ0.6%、ソマトスタチノーマ0.3%であった。
2010年WHO分類に従い、NET G1/G2、NECに分類した結果、今回の調査では、NECは全膵NENでは7.5%、機能性腫瘍では3.2%、非機能性腫瘍では9.7%に認められた。
遠隔転移は、全膵NEN(初回診断時)の19.9%に認められ、機能性腫瘍では16.9%、非機能性腫瘍では21.3%であった(表2)。ガストリノーマでは30.2%と遠隔転移率が高かったのに対して、インスリノーマでは9.3%と低かった。WHO分類別の遠隔転移率は、G1/G2では12.9%であったのに対してNECでは46.3%と高く、とくに非機能性NECでは51.9%と高かった。MEN1合併率は、全膵NENでは4.3%(機能性腫瘍:4.9%、非機能性腫瘍:4.0%)であった(表2)。ガストリノーマではMEN1合併率が16.3%と高く、インスリノーマでは0.8%と低かった。

表1 日本における膵NENの疫学:2005年と2010年の比較

  2005年3) 2010年4)
膵NENの1年間の受療者数 2,845(95% CI:2,455~3,507) 3,379(95% CI:3,173~3,580)
 機能性腫瘍 1,627(95% CI:1,404~2,005) 1,105(95% CI:868~1,342)
 非機能性腫瘍 1,218(95% CI:1,053~1,453) 2,274(95% CI:1,759~2,789)
有病患者数(人口10万人あたり) 2.23(95% CI:1.93~2.76) 2.69(95% CI:2.29~3.08)
 機能性腫瘍 1.27(95% CI:1.10~1.57) 0.88(95% CI:0.65~1.05)
 非機能性腫瘍 0.95(95% CI:0.82~1.17) 1.81(95% CI:1.51~2.11)
1年間の新規発症数(人口10万人あたり) 1.01(95% CI:0.88~1.25) 1.27(95% CI:1.08~1.46)
 機能性腫瘍 0.50(95% CI:0.44~0.62) 0.41(95% CI:0.32~0.48)
 非機能性腫瘍 0.51(95% CI:0.88~1.25) 0.87(95% CI:0.72~1.01)

95% CI:95% 信頼区間

表2 膵NENにおける遠隔転移率とMEN1合併率

  遠隔転移率(%) MEN1
合併率(%)
Total NET G1/G2 NEC
全膵NEN 19.9 12.9 46.3 4.3
 機能性膵NEN 16.9 17.2 14.3 4.9
  インスリノーマ 9.3 9.7 0 0.8
  ガストリノーマ 30.2 32.4 10.7 16.3
  グルカゴノーマ 8.3 9.1 0 8.3
  VIPオーマ 80.0 80.0 0 0
  ソマトスタチノーマ 100 100 0 0
  その他 25.0 0 50.0 0
 非機能性膵NEN 21.3 12.9 51.9 4.0

消化管NENの現況

2010年における消化管NENの受療者数は8,088人であり、2005年に比べて約1.8倍に増加した(表3)。有病患者数は人口10万人あたり6.42人、1年間の新規発症数は人口10万人あたり3.51人であった。部位別の受療者割合は、前腸26.1%、中腸3.6%、後腸70.3%であり、2005年の結果と同様に欧米と異なり本邦では中腸が少ないことが示された。新規発症数については、前腸、後腸での発症数は2005年に比べて上昇したが、中腸では同程度であった。

WHO分類のNECは、全消化管NENでは6.2%、部位別には前腸12.6%、中腸9.1%、後腸2.3%に認められた。
遠隔転移は6.0%にみられ、部位別には前腸8.6%、中腸9.8%、後腸3.5%であった。WHO分類別の遠隔転移率は、G1/G2では2.7%であったが、NECでは32.3%と高く、とくに発現部位が前腸の場合は40.9%と高率であった。

MEN1合併率は0.42%、部位別には前腸0.72%、中腸0%、後腸0.16%であり、日本では低率であることが判明した。また、カルチノイド症候群の頻度も欧米と比較して少なく3.2%であった。部位別では中腸が最も多く17.1%、続いて前腸4.2%、後腸1.1%であった。

表3 日本における消化管NENの疫学:2005年と2010年の比較

  2005年3) 2010年4)
消化管NENの1年間の受療者数 4,406(95% CI:3,321~5,420) 8,088
(95% CI:5,669~10,507)
 前腸由来 1,338(95% CI:1,009~1,640) 2,107(95% CI:1,189~3,028)
 中腸由来 423(95% CI:319~520) 290(95% CI:271~349)
 後腸由来 2,645(95% CI:1,994~3,254) 5,690(95% CI:3,583~7,797)
有病患者数(人口10万人あたり) 3.45(95% CI:1.93~4.24) 6.42(95% CI:4.50~8.34)
 前腸由来 1.05(95% CI:0.59~1.28) 1.67(95% CI:0.94~2.40)
 中腸由来 0.33(95% CI:0.18~0.41) 0.23(95% CI:0.18~0.28)
 後腸由来 2.07(95% CI:1.56~2.55) 4.52(95% CI:3.17~5.87)
1年間の新規発症数(人口10万人あたり) 2.10(95% CI:1.56~2.54) 3.51(95% CI:2.50~4.53)
 前腸由来 0.64(95% CI:0.48~0.77) 1.20(95% CI:0.48~1.91)
 中腸由来 0.20(95% CI:0.15~0.24) 0.15(95% CI:0.12~0.18)
 後腸由来 1.26(95% CI:0.94~1.52) 2.12(95% CI:1.56~2.67)

本邦と欧米における差異と今後

2005年と2010年を比較すると、膵NENは患者数、新規発症数ともに増加し、非機能性腫瘍の割合は42.8%から65.5%に増加し欧米に近くなった2、6、7)。その理由としてNENの疾患概念や超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)が浸透し、診断率が向上したためと考えられた8、9)。消化管NENも患者数、新規発症数ともに増加した。発症部位については2005年と同様に、欧米に比べて中腸病変が少なかった(欧米では中腸が30~60%)2、10、11)。他のアジア諸国でも同じ傾向が報告されているので、人種差によると考えられた12~15)。また、本邦では膵・消化管NENの遠隔転移率は欧米に比べて低く、消化管NENのカルチノイド症候群の頻度も低かった。本邦のMEN1合併率も低く、人種差が示唆された。 今回の調査で本邦におけるNECの疫学的特徴が初めて明らかになった。膵NECは全膵NENの7.5%を占め、遠隔転移率は46.3%と高く、とくに非機能性の場合51.9%と高かった。一方、消化管NECは全消化管NENでは6.2%を占め、遠隔転移率は32.3%であった。 今後、膵・消化管NENの治療法を確立するためにも、患者背景や疫学的分類を明らかにし、また欧米との差異について知見を集積することは臨床的意義が大きいと考えられた。


2016年全国がん登録調査5)


対象と方法

全国がん登録2016年データから膵・消化管NEN患者6,735例を抽出し、原発部位ごとの患者数及び分布、悪性度を解析し、本邦におけるNENの疫学を後方視的に調査した。

膵・消化管NENの解析

新規診断患者数(人口10万人あたり)は、膵NENで1,336人、消化管NENで5,399人であった。
1年間の新規発症数(人口10万人あたり)は膵NENで0.70人、消化管NENで2.84人であった(表4)。
原発部位は、直腸が53%と最も多く、次いで膵臓20%、胃13%、十二指腸5%、結腸3%、食道3%、虫垂2%、空腸/回腸1%であった(図1)。発生年齢中央値は、2005年のデータ3)では膵NENで57.6歳、消化管NENで59.8歳だったのに対し、2016年では膵・消化管NENで65歳と高齢化が認められた。これは、日本における高齢化社会の進展の影響と考えられる。
診断契機としては、健康診断などの偶発的な診断が51.8%を占めていた。今後、NENに関する認識の広がりに加え、健診機会の増加や画像検査機器の進歩とともにNENの診断機会も増加していくと考えられる。

表4 日本における膵・消化管NEN 部位別/性別発生率(2016年全国がん登録調査)5)

原発部位 新規診断患者数 年齢調整発生率/10万人あたり
男性 女性 全例 男性 女性 全例
膵臓 707 629 1336 0.362 0.335 0.697
食道 200 62 262 0.074 0.025 0.098
775 267 1042 0.309 0.120 0.482
十二指腸 264 178 442 0.112 0.083 0.195
空腸/回腸 65 32 97 0.031 0.016 0.046
虫垂 55 50 105 0.039 0.035 0.074
結腸 157 121 278 0.069 0.050 0.118
直腸 1911 1262 3173 1.099 0.723 1.822
消化管NEN 3427 1972 5399 1.733 1.051 2.835
全例 4134 2601 6735 2.094 1.385 3.532

図1 膵・消化管NENの原発部位ごとの割合(2016年全国がん登録調査)5)

膵・消化管NENの原発部位ごとの割合(2016年全国がん登録調査)

参考文献

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  16. Lim T, et al. Asia Pac J Clin Oncol. 2011; 7: 293–299

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