再発なく症状が進行するPIRA
ガイドライン2023年版に、「MSの慢性進行を定義するのは困難であるが、その病態を臨床的に捉えるための概念としてPIRAが提唱されている。」と掲載されています1)。
MSでは、障害の不可逆的な蓄積が、どの段階でも起こる可能性があります。つまり、再発に伴う増悪(RAW)のみではなく、再発活動性と無関係な症状進行(PIRA)もあることがわかってきました(図1)2)。
PIRAを有する患者の長期転帰はどのようなものであるかについて、MSで初回脱髄発作を起こした患者1,128例を含む縦断的コホート研究が報告されました。
解析の結果、PIRAを有する患者では、PIRAのない患者群に比べて、重度の障害を発症するまでの期間が有意に短くなりました。すなわち、PIRAを有する患者は、PIRAのない患者に比べて、EDSSの年次増加率が急であり、EDSS 6.0に達するリスクが高くなりました(HR、7.93;95%CI、2.25-27.96;p = 0.001※)。その中でも、早期PIRAは、後期PIRAに比べ、EDSSの年次増加率が急であり、初回発作からEDSS 6.0に達するリスクが高くなりました(HR、26.21;95%CI、2.26-303.95;p = 0.009※)。
※:Cox比例ハザードモデル、Schoenfeld残差検定、共変量:年齢、性別、初回脱髄発作時のトポグラフィ、脳・脊髄病変、脳造影病変数、オリゴクローナルバンド
図1 障害蓄積についての概念図 海外データ
★:本試験におけるPIRAの定義、早期/後期PIRAの定義
PIRA:再発がない期間(初回脱髄発作の6ヵ月後もしくは再発の3ヵ月後から、連続して2回の再発を繰り返す間の期間)の6ヵ月時点において、EDSSによる障害蓄積§が確認されること。
§:ベースライン時のEDSSが0、1.0~5.0、5.0超の場合、それぞれEDSSが1.5、1.0、0.5増加
早期PIRA:初回脱髄発作から5年以内にPIRAの発現が認められること。
後期PIRA:初回脱髄発作から5年以降にPIRAの発現が認められること。
【対象】 |
1994年1月~2021年7月に実施された単施設コホート研究に登録された、初回脱髄発作を起こした患者1,128例 |
【方法】 |
対象患者を、PIRAを有する患者群とPIRAのない患者群、さらに、PIRAの発現時期によって早期PIRA患者群(初回脱髄発作から5年以内)と後期PIRA患者群(初回脱髄発作から5年以降)に分け、初回脱髄発作から6ヵ月以降にEDSS 6.0に達するリスクを検討した。 |
【リミテーション】 |
①長期間の追跡調査により、時間経過とともに異なる診断方法を受けたことから、測定値に影響を与えた可能性がある。 ②治療による潜在的な影響がある。 ③プロトコールとは別に、症状や治療変更のためにMRIを受けたことから、活動性PIRA患者の割合に影響を与えた可能性がある。 |
Tur C et al: JAMA Neurol 80(2): 151-160, 2023より作図
本論文の著者には、過去にノバルティスが講演料、報酬、助成金、アドバイザリーボード料、旅費等を支払った者やノバルティスのアドバイザリーボードを務めた者が含まれています。
この結果は、MSにおける最初の脱髄イベント後にPIRAを有する場合、特に疾患経過の初期に発症した場合には、予後が不良であることを示唆していました。そのため、PIRAを有する患者を早期に発見することは、患者の期待に応え、場合によっては最も適切な治療法を選択するために極めて重要であると考えられます。
1) |
日本神経学会 監修『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』医学書院 p.21 |
2) |
Tur C et al:JAMA Neurol 80(2):151-160, 2023 本論文の著者には、過去にノバルティスが講演料、報酬、助成金、アドバイザリーボード料、旅費等を支払った者やノバルティスのアドバイザリーボードを務めた者が含まれています。 |
MS:多発性硬化症、EDSS:総合障害度スケール