多発性硬化症 ガイドラインの最新情報
RWEで示された治療の傾向と今後の課題
RWEで示された治療の傾向と今後の課題
近年のDMDの開発によってMS治療の選択肢が広がる中、診断早期のRRMSにDMDをどのように開始すべきかについて議論が進められています。
ガイドライン2023年版でも、以下のように課題として説明されています。「現在、本邦では8種類のDMDが上市されており、特に診断早期のRRMSにどのようにDMDを導入するかは重要な課題である。短期的に再発を抑制することはもちろん、長期的な進行や後遺症をいかに軽減するかは、若年成人で発症するMSの治療目標としては重要である。一方で、副作用にも注意を払う必要があり、再発抑制効果の強いDMDを早期から導入するかどうかは議論のあるところである。」1)
治療選択においては、再発頻度やMRI上の活動性、EDSSや脳萎縮の程度を踏まえ、予後不良因子、PMLの発症リスク、患者の利便性・価値観などを十分勘案することが必要ですが、こうした中、RWEでは年齢や性別も独立した決定因子になっている可能性が示されています2)。
デンマークの全MS患者を登録するMSレジストリを利用したコホート研究において、初回DMTの選択やそのアドヒアランスおよび高い有効性が期待できるDMT(high efficacy DMT:heDMT)への切り替えについて、影響する因子の検討が行われました。交絡の可能性がある因子として、DMTの有効性、治療開始前の再発回数、罹病期間、EDSSスコア、MRI上の活動性(データを有する患者のみ)が解析に組み込まれました。対象は、2014年1月1日以降に初回DMTを開始し、6ヵ月以上の追跡期間がある18歳以上のMS患者3,497例です。このうち40歳未満が1,889例、40歳以上が1,608例でした(図1)2)。
図1 デンマークのMS患者における年齢別にみた初回DMTの選択 海外データ
40歳未満(n=1,889)と40歳以上(n=1,608)の初回DMTの選択 海外データ
【対象】 | デンマークのDanish Multiple Sclerosis Registryに登録され、2014年1月1日以降に初回DMTを開始し、6ヵ月以上の追跡期間がある18歳以上のRRMS患者3,497例 |
【方法】 | 初回DMTの選択やそのアドヒアランスおよびheDMTへの切り替えについて、特に年齢(40歳未満と40歳以上)と性別に注目して影響する因子の検討を行った。他に交絡の可能性がある因子として、DMTの有効性、治療開始前の再発回数、罹病期間、EDSSスコア、MRI上の活動性(データを有する患者のみ)を解析に組み入れた。単変量および多変量のロジスティック回帰モデルを用い、多重代入法と組み合わせ、オッズ比とその95%信頼区間およびp値を算出した。 |
【リミテーション】 | MRIデータが登録されているのは初回DMTを開始した患者のおよそ半数でしかなく、中程度の有効性が期待できるDMT(moderate efficacy DMT:meDMT)を開始した患者ではさらにその割合が少ない。DMTを開始した患者は毎年MRI検査を受けているはずだが、MRIデータは最近のものしか記録されていない。その他にも医師や患者の個人的な選択傾向など、未知・未評価の交絡因子を調整できていない可能性がある。 |
Sorensen PS et al:Mult Scler Relat Disord 50:102813, 2021
本論文の著者には、過去にノバルティスが講演料、報酬、助成金等を支払った者が含まれています。
解析の結果、初回DMTとしてheDMTが選択される確率は、交絡の可能性がある因子を補正後も40歳以上に比べ40歳未満で高く、そのオッズ比(95%信頼区間)は1.69(1.34~2.13)でした。性別では女性よりも男性のほうが同確率が高く、そのオッズ比は1.53(1.23~1.90)でした(表1)2)。
表1 デンマークのMS患者における初回DMTでのheDMTの選択に影響する因子(全対象集団) 海外データ
各因子群でheDMTが選択される確率のオッズ比 海外データ
試験概要は図1参照
Sorensen PS et al:Mult Scler Relat Disord 50:102813, 2021
本論文の著者には、過去にノバルティスが講演料、報酬、助成金等を支払った者が含まれています。
MRI、再発回数およびEDSSスコアのデータを有する症例は1,741例であり、MRI上のT2病変の多寡を含めて補正しても、初回DMTとしてheDMTが選択される確率は40歳以上に比べ40歳未満で高く、そのオッズ比は1.68(1.25~2.27)でした。女性よりも男性のほうが同確率が高いことも同様でしたが、そのオッズ比は1.32(0.99~1.75)となり、性別の影響はやや減弱しました(表2)2)。
表2 デンマークのMS患者における初回DMTでのheDMTの選択に影響する因子(MRI、再発回数およびEDSSスコアのデータを有する症例) 海外データ
各因子群でheDMTが選択される確率のオッズ比 海外データ
試験概要は図1参照
Sorensen PS et al:Mult Scler Relat Disord 50:102813, 2021
本論文の著者には、過去にノバルティスが講演料、報酬、助成金等を支払った者が含まれています。
40歳以上の患者は40歳未満の患者に比べ、初回DMTがheDMTか、meDMTかにかかわらず、初回DMTを継続している傾向があり、meDMTにおける再発例のうちheDMTへ切り替えたのは、40歳未満が67%に対し40歳以上は56%(p=0.008、χ2 test)でした。
本研究では年齢と性別が初回DMTの選択や再発時におけるheDMTへの切り替えの独立した決定因子である可能性が示されました。「高齢だからという理由でheDMTの選択が避けられているのであれば、それは残念なことである。多くのDMTは高齢者において有効性が低下すると考えられているが、そうであればこそむしろheDMTで治療を開始するよい根拠となるだろう」と著者らは述べています。RRMS患者の年齢層は発症年齢の高齢化や再発寛解期間の長期化とともに上昇していることから、新たに治療を開始するにあたっては予後予測因子に基づいて適切な治療を選択する必要があります。
1) | 日本神経学会 監修『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』医学書院 p.114-115 |
2) | Sorensen PS et al:Mult Scler Relat Disord 50:102813, 2021 本論文の著者には、過去にノバルティスが講演料、報酬、助成金等を支払った者が含まれています。 |
RWE:リアルワールドエビデンス、DMD:疾患修飾薬、MS:多発性硬化症、RRMS:再発寛解型多発性硬化症、EDSS:総合障害度スケール、PML:進行性多巣性白質脳症、DMT:疾患修飾療法、meDMT:中程度の有効性が期待できるDMT、heDMT:高い有効性が期待できるDMT