MS治療選択における予後不良因子の重要性
『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』に「MSの経過は多様であり,発症後の経過を予測することは困難であるが,予後不良因子を把握することは患者の治療選択に重要である」と掲載されました。予後不良因子の概要と、代表的な予後不良因子に関連する報告をご紹介し、予後不良因子を鑑みて治療選択することの重要性を改めてお示しします。
MS:多発性硬化症
ガイドラインにおける関連情報
『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』における予後不良因子
Q5-2:MSの予後不良因子は何か?
【回答】
- 自然経過における予後不良因子としては,PPMS,SPMSなどの進行型MSがある。
- 人口統計学的および環境的要因として,高年齢,男性,血中ビタミンD濃度低値,喫煙などがある。
- 臨床的要因として,初発時に複数の症状がある,脳幹・小脳・脊髄での発症,初発からの回復が悪い,初発から2回目の再発までの期間が短い,MS診断時のEDSSが高い,再発頻度が高い,発症5年後の障害度が高い,早期に認知機能障害を認める,などが挙げられる。
- MRI所見としては,T2病変が多い,T2病変の容積が大きい,造影病変が存在する,テント下病変や脊髄病変がある,脳萎縮があるなどが挙げられる。
- バイオマーカーとしては,脳脊髄液OB陽性,脳脊髄液・血液でのニューロフィラメント軽鎖高値,光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)での網膜神経線維層(retinal nerve fiber layer:RNFL)の菲薄化などがある。
【背景・目的】
MSの経過は多様であり,発症後の経過を予測することは困難であるが,予後不良因子を把握することは患者の治療選択に重要である。
日本神経学会 監修『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』医学書院 p.206
MS:多発性硬化症、PPMS:一次性進行型多発性硬化症、SPMS:二次性進行型多発性硬化症、EDSS:Kurtzke総合障害度スケール、OB:オリゴクローナルIgGバンド
Rotsteinらが分類した4項目の予後不良因子(海外データ)
Rotsteinらにより、予後不良因子は患者背景・環境因子、臨床的特徴、MRI画像、バイオマーカーの4項目に分類されました。それらの予後不良因子のうち代表的な事例として患者背景・環境因子からは男性、臨床的特徴からは再発頻度・再発間隔、MRI画像からは全脳萎縮に関連する報告を紹介いたします。
Rotsteinらが分類した4項目の予後不良因子
Rotstein D et al:Nat Rev Neurol 15(5):287-300, 2019より改変
著者には、過去にノバルティスの講演者、コンサルタント、臨床試験運営委員、臨床試験のアドバイザリーボード(過去3年間)
等を務めた者、ノバルティスが講演料、学会参加旅費などを支払った者が含まれています。
MS:多発性硬化症、EDSS:総合障害度スケール、Gd:ガドリニウム、CSF:脳脊髄液、OCB:オリゴクローナルバンド、NfL:ニューロフィラメント軽鎖
患者背景・環境因子
男性(海外データ)
患者背景・環境因子の項目から、男性に関連する報告を紹介します。Ribbonsらにより、男性の方が障害の進行が速くなることが報告されました。
EDSSの変化は男性では0.124/年※1、女性では0.107/年※2と男性の方が障害の進行が有意に速くなりました(p<0.001、交互作用) ※3。
※1: | 0.124(0.119-0.129)/年、p<0.001 |
---|---|
※2: | 0.107(0.104-0.111)/年、p<0.001 |
※3: | 経時的なEDSSの変化において男女間に統計的な有意差があるかどうかを判定するために交互作用のp値を用いた。 |
性別、発症からの年数、性別・発症からの年数の交互作用を独立変数とする、一般化線形混合モデルを用いた反復測定分析(治療、初発症状の年齢、出生国などで調整)
SPMSまたはRRMSの男女におけるEDSSの平均値
【対象】 | MSBaseレジストリに登録された25ヵ国のMS患者15,826例(平均発症年齢、男性:30.5歳、女性:30.0歳) |
---|---|
【方法】 | MSBaseレジストリを用いて、MS患者のデータを後ろ向きに分析した。障害の進行(EDSSの変化)は、一般化線形混合モデルの反復測定分析を用いて男女別に比較した。SPMSの男女別の検定にはKaplan-Meier曲線を用いた。 |
【リミテーション】 | SPMSに移行したか否かの診断基準はMSBaseが規定した基準ではなく、参加施設の神経内科医の診断に任され、適切か否かの監査もされなかった。ただし、MSBaseの研究者の大半は、臨床現場で国際的な基準を使用していることから、今回の結果には影響しないと考えられる。 |
Ribbons KA et al:PLoS One 10(6):e0122686, 2015
SPMSに移行するまでの期間※4は、男性が25.1年※5、女性が29.5年※5であり、女性は男性に比べ、移行するまでの期間が有意に長くなりました(p=0.001、交互作用)※6。
※4: | 症状発現からSPMSと診断されるまでの期間。SPMSの診断は過去にRRMSと診断後、6ヵ月以上、再発と無関係に疾患進行が認められるという国際的な定義に従って行われた。 |
---|---|
※5: | 中央値 |
※6: | HR[95%CI]=0.77[0.67-0.90]、p=0.001(Cox比例ハザードモデル;治療、初発症状の年齢、出生国などで調整) |
SPMSに移行するまでの期間※4のKaplan-Meier推定値
【対象】 | MSBaseレジストリに登録された25ヵ国のMS患者15,826例(平均発症年齢、男性:30.5歳、女性:30.0歳) |
---|---|
【方法】 | MSBaseレジストリを用いて、MS患者のデータを後ろ向きに分析した。障害の進行(EDSSの変化)は、一般化線形混合モデルの反復測定分析を用いて男女別に比較した。SPMSの男女別の検定にはKaplan-Meier分析を用いた。 |
【リミテーション】 | SPMSに移行したか否かの診断基準はMSBaseが規定した基準ではなく、参加施設の神経内科医の診断に任され、適切か否かの監査もされなかった。ただし、MSBaseの研究者の大半は、臨床現場で国際的な基準を使用していることから、今回の結果には影響しないと考えられる。 |
Ribbons KA et al:PLoS One 10(6):e0122686, 2015
EDSS:総合障害度スケール、SPMS:二次性進行型多発性硬化症、RRMS:再発寛解型多発性硬化症、HR:ハザード比、CI:信頼区間、SD:標準偏差、MS:多発性硬化症、MSBase:Multiple Sclerosis Base
臨床的特徴
再発頻度・再発間隔(海外データ)
臨床的特徴の項目から、再発頻度と再発間隔に関連する報告を紹介します。Scalfariらにより、再発頻度および最初の再発と2回目の再発の間隔が、障害進行に影響したことが報告されました。
発症からDSS6に到達するまでの期間※1は、1年目および2年目の再発回数※2が、1回の場合22.7年、2回の場合18.7年、3回以上の場合15.1年、と、再発頻度が高いほど短くなりました(数値は平均値)。
※1: | 最初の症状が現れた日(年)から歩行に介助が必要となるまでの期間。障害はDSS(Kurtzke、1955)を用いて評価し、DSSスコアは発作に関連した受診と毎年の追跡調査から得た。 |
---|---|
※2: | 1回の場合22.7年[95%CI:21.1-24.1], p<0.001、2回の場合18.7年[95%CI:16.9-20.4], p=0.010、3回以上の場合15.1年[95%CI:12.5-16.7](p値:3回以上の場合を基準としたlog rank検定) |
発症からDSS6に到達するまでの期間のKaplan-Meier曲線
【対象】 | London Ontario natural history cohortに登録されているRRMS患者806例(平均発症年齢28.5歳) |
---|---|
【方法】 | 歩行に介助が必要(DSS6)、寝たきり(DSS8)、死亡(DSS10)の各転帰について、再発回数別、再発間隔別にDSS6に到達するまでの期間を後ろ向きに調べた。到達期間は、(i) 1年目および2年目の再発回数、(ii) 1回目と2回目の再発間隔によって層別化した群間で比較した。 |
【リミテーション】 | 記載なし |
Scalfari A et al:Brain 133(Pt 7):1914-1929, 2010
発症からDSS6に到達するまでの期間※3は、最初の発作間隔※4が、0〜2年の場合18.2年、3〜5年の場合21.0年、6年以上の場合25.9年、と、再発間隔が短いほど短くなりました(数値は平均値)。
※3: | 最初の症状が現れた日(年)から歩行に介助が必要となるまでの期間。障害はDSS(Kurtzke、1955)を用いて評価し、DSSスコアは発作に関連した受診と毎年の追跡調査から得た。 |
---|---|
※4: | 0〜2年の場合18.2年[95%CI:16.2-19.8], p<0.001、3〜5年の場合21.0年[95%CI:18.9-23.0], p=0.005、6年以上の場合25.9年[95%CI:23.7-27.9](p値:6年以上の場合を基準としたlog rank検定) |
発症からDSS6に到達するまでの期間のKaplan-Meier曲線
【対象】 | London Ontario natural history cohortに登録されているRRMS患者806例(平均発症年齢28.5歳) |
---|---|
【方法】 | 歩行に介助が必要(DSS6)、寝たきり(DSS8)、死亡(DSS10)の各転帰について、再発回数別、再発間隔別にDSS6に到達するまでの期間を後ろ向きに調べた。到達期間は、(i) 1年目および2年目の再発回数、(ii) 1回目と2回目の再発間隔によって層別化した群間で比較した。 |
【リミテーション】 | 記載なし |
Scalfari A et al:Brain 133(Pt 7):1914-1929, 2010
DSS:障害度スケール、CI:信頼区間、RRMS:再発寛解型多発性硬化症、MS:多発性硬化症
MRI画像
脳萎縮(海外データ)
MRI画像の項目から、脳萎縮に関連する報告を紹介します。Slezákováらにより、脳萎縮は、再発回数とは無関係に、障害進行の主な要因であることが報告されました。
EDSSは全脳容積※および灰白質容積※と負の相関を示しましたが、過去2年間の再発回数とは相関しませんでした。
※: | MRI検査で得られたデータセットより、icobrain ms(icometrix、ベルギー)を用いて評価した。 |
---|
全脳容積:rs=–0.368, p<0.001
灰白質容積:rs=–0.308, p<0.001 (スピアマンの順位相関係数)
過去2年間の再発回数:相関係数未掲載(p=0.278)
EDSSと全脳容積および灰白質容積の相関
【対象】 | McDonald診断基準2017により診断され、スロバキアの単施設MRIセンターで脳MRIおよび脳容積測定検査の結果が得られた18歳以上のMS患者147例(平均年齢42.13歳) |
---|---|
【方法】 | 後ろ向き横断単施設研究。患者背景および臨床データ(年齢、性別、MS発症時期、治療開始時期、DMTの特徴、EDSS、MRI検査までの過去2年間の再発回数)とMRI所見の相関を検討した。 |
【リミテーション】 | 患者の大半がDMTによる治療を受けており、Pseudoatrophyの可能性がある。MTRに基づく病変を含むT2病変の容積と平均灰白質容積減少との相関を評価していない。EDSSは認知障害、重度の疲労など障害進行の徴候に対して感度が高くない。 |
Slezáková D et al:Neurol Neurochir Pol 57(3):282-288, 2023
EDSS:総合障害度スケール、MS:多発性硬化症、DMT:疾患修飾療法、MTR:magnetisation transfer ratio
MRI画像
脳萎縮(日本人データ)
MRI画像の項目から、脳萎縮に関連する報告を紹介します。藤盛らにより、日本人MS患者において、短中期の脳萎縮が、障害進行および認知機能に影響したことが報告されました。
罹病期間と全脳年換算容積変化(AVC)※1の2つの変数を用いたクラスター解析により、3群が同定されました。
※1: | MRI検査で得られたデータセットより、icobrain ms(icometrix、ベルギー)を用いて評価した。 |
---|
- SM群(罹病期間が短中期で萎縮率が軽度)
- SS群(罹病期間が短中期で萎縮率が重度)
- L群(罹病期間が長期)
3群を識別するための罹病期間と全脳AVCの最適カットオフ値※2は、それぞれ15.8年と–0.43%でした。
つまり、罹病期間が15.8年未満のMS患者は、全脳萎縮率が高い群と低い群の2群に分類されました。
※2: | カットオフ値を同定するために、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線分析を行った。 |
---|
SS群またはL群とそれ以外の群を区別するためのカットオフ値
【対象】 | McDonald診断基準2017で診断され、2017年から2021年にかけて東北医科薬科大学病院に組み入れられた日本人MS患者82例(平均年齢38.9歳) |
---|---|
【方法】 | 後ろ向き単施設研究。MRI検査で得られたデータセットより、icobrain msを用いて全脳AVCを評価した。IPSはCogEvalを用いて評価した。罹病期間と全脳AVCの関係を分析し、クラスターに分類後、罹病期間が短中期の群における、全脳AVCとEDSS、およびIPSとの相関を検討した。 |
【リミテーション】 | ①日本人のMS患者の限られたサンプルで行われた単施設研究であり、追跡期間も短かった。②大半がDMTを受けている患者であったため、Pseudoatrophyの影響を完全に避けることはできない。③罹病期間が長く、脳萎縮率が高いMS患者は含まれていなかった。④臨床経過観察期間と連続MRI検査間隔が同様であったため、追跡MRI検査直後に予後を評価した。臨床の場では、追跡MRI検査の数ヵ月後の予後を予測する必要があるため、さらなる研究が必要である。 |
Fujimori J et al:Heliyon 10(6):e28136, 2024
著者には、過去にノバルティスのアドバイザリーボードを務めた者、ノバルティスが講演料を支払った者が含まれています。
SM群とSS群に含まれる63例のMS患者において、全脳AVCはEDSS、およびIPS※3と有意に相関していました※4。
※3: | CogEval(Biogen Inc.)を用いて評価した。 |
---|---|
※4: | スピアマンの順位相関係数 |
全脳AVCとEDSSおよびIPSの相関
【対象】 | McDonald診断基準2017で診断され、2017年から2021年にかけて東北医科薬科大学病院に組み入れられた日本人MS患者82例(平均年齢38.9歳) |
---|---|
【方法】 | 後ろ向き単施設研究。MRI検査で得られたデータセットより、icobrain msを用いて全脳AVCを評価した。IPSはCogEvalを用いて評価した。罹病期間と全脳AVCの関係を分析し、クラスターに分類後、罹病期間が短中期の群における、全脳AVCとEDSS、およびIPSとの相関を検討した。 |
【リミテーション】 | ①日本人のMS患者の限られたサンプルで行われた単施設研究であり、追跡期間も短かった。②大半がDMTを受けている患者であったため、Pseudoatrophyの影響を完全に避けることはできない。③罹病期間が長く、脳萎縮率が高いMS患者は含まれていなかった。④臨床経過観察期間と連続MRI検査間隔が同様であったため、追跡MRI検査直後に予後を評価した。臨床の場では、追跡MRI検査の数ヵ月後の予後を予測する必要があるため、さらなる研究が必要である。 |
Fujimori J et al:Heliyon 10(6):e28136, 2024
著者には、過去にノバルティスのアドバイザリーボードを務めた者、ノバルティスが講演料を支払った者が含まれています。
MS:多発性硬化症、AUC:曲線下面積、IPS:情報処理速度、EDSS:総合障害度スケール
ガイドラインにおける関連情報
『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』におけるMRIの撮像頻度、および撮像法
Q5-4:MRIはどのくらいの頻度で実施し,撮像法はどうすべきか?
【回答】
- 頭部MRIは,診断時,再発など疾患活動性を示すとき,新規のDMD開始前,開始後(3~6カ月,12カ月)に実施し,その後は1年ごとに実施する。臨床的に再発が疑われるときや安全性の懸念があるときにも撮影する。また,薬剤関連PMLのハイリスク患者においては3~4カ月ごとの頻度で行う。脊髄および視神経MRIは診断や予後判定に有用であるが,病状評価やDMDの効果判定のための定期検査は必須ではない。
- MRI撮像法は部位により異なり,次のとおりである。頭部はT2強調画像,FLAIR画像,ガドリニウム造影T1強調画像で撮像する。脊髄はT2強調画像,プロトン密度強調画像,STIR(short tau inversion recovery)のうち2つ,およびガドリニウム造影T1強調画像で撮像する。視神経は脂肪抑制T2強調画像,STIR,ガドリニウム造影脂肪抑制T1強調画像で撮像する。
【背景・目的】
MS,NMOSD,MOGADの疾患活動性や治療効果の判定に用いることができる血液や脳脊髄液中のマーカーは確立されていない。MRIはこれらの疾患の診断のみならず,再発や疾患活動性の評価,治療効果判定に有用である。各疾患におけるMRIの定期的な撮影の頻度,部位,方法について,国際的な学術団体が表明する推奨事項を中心に検討した。
日本神経学会 監修『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』医学書院 p.214
DMD:疾患修飾薬、PML:進行性多巣性白質脳症、FLAIR:fluid-attenuated inversion recovery、MS:多発性硬化症、NMOSD:視神経脊髄炎スペクトラム障害、MOGAD:MOG抗体関連疾患
ガイドラインにおける関連情報
『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』における脳萎縮の評価
Q5-5:脳萎縮の評価はどのように行うか?
【回答】
- MRIを用いて徒手的に脳梁インデックスや第三脳室幅を計測して脳萎縮の程度を推測する。
- MRIで取得したmagnetization-prepared rapid gradient echo(MPRAGE)などのDigital Imaging and Communications in Medicine(DICOM)データを用いて専用のソフトウェアで脳容積,脳容積変化率などを測定する(保険適用外)。
- 血清あるいは脳脊髄液中のニューロフィラメント軽鎖を測定する(保険適用外)。
【背景・目的】
MSは臨床症候の再発と寛解を繰り返すのが特徴で,病初期から脳萎縮が認められ,進行期には脳萎縮の程度と歩行障害や認知機能障害進行の程度に関連がみられる。すなわち,MSの予後因子として脳萎縮は非常に重要であり,病初期から脳容積の変化に注意する必要がある。
日本神経学会 監修『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』医学書院 p.217
MS:多発性硬化症
ガイドラインにおける関連情報
『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』における認知機能の評価
Q5-6:認知機能の評価はどのように行うか?
【回答】
- MSにおいてはSDMTを1年に1度行い,異常がみられた場合には必要に応じてBrief Repeatable Battery of Neuropsychological Tests for MS(BRB-N),Brief International Cognitive Assessment for MS(BICAMS),うつ,不安,疲労の評価を含めた詳細な検査を行う。SDMTの代わりにProcessing Speed Test(PST)を用いてもよい。
- NMOSDにおいてはBRB-Nを用いてもよい。
- MOGADにおいては認知機能評価に関する十分な情報がなく,個々の患者の年齢や症候の状態に応じて検査方法を検討する。
【背景・目的】
MS患者では少なからぬ割合で認知機能障害がみられる。早期からの認知機能障害はMSの予後不良因子の1つであり,治療方針の決定に認知機能評価は重要である。加えて,MSにおいて認知機能障害はQOLの低下や就労への影響が指摘されており,認知機能を評価することは生活指導に役立つ。
NMOSD,MOGADにおける認知機能障害の詳細は明らかではないが,認知機能を評価することでMSと同様に生活指導の役に立つと考えられる。
日本神経学会 監修『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』医学書院 p.219
MS:多発性硬化症、SDMT:符号数字モダリティー検査、NMOSD:視神経脊髄炎スペクトラム障害、MOGAD:MOG抗体関連疾患、QOL:生活の質