日本人PV患者の血栓症リスク
2008年4月1日~2015年8月31日に健康保険のレセプトデータに登録された日本人PV患者606例を対象に、主要評価項目をPV診断後の重大な血栓塞栓症が発現した患者数と設定して解析した結果、PV診断後の重大な血栓塞栓症の合併率は16.5%でした2)。その内、発生頻度が高かった上位3つは、虚血性脳卒中(65例、10.7%)、静脈血栓塞栓症(17例、2.8%)、急性心筋梗塞(14例、2.3%)であり、動脈血栓塞栓症が多いという結果でした。
なお、無血栓塞栓生存率は69.3%(95%CL:59.2-77.4)、血栓塞栓累積発生割合が29.6%であり、日本人PV患者でも約3割が血栓塞栓症を合併することが示されました。
また、血栓塞栓症のリスク因子として、年齢(≧60)、血栓塞栓症の既往歴、心血管系関連合併症(糖尿病、高血圧、高脂血症)について検討した結果、心血管系関連合併症がある患者(p=0.022)、リスク因子を2つ有する患者(p=0.047)で有意な差が認められ(cox比例ハザードモデル)、血栓塞栓症の合併率はリスク因子の増加に伴って増加しました。なお、患者の年間の医療費は血栓塞栓症イベントの有無により有意な差が認められ、イベントのあった患者の年間の医療費は非合併患者の約2倍でした(993,000円 vs 459,000円、p<0.001、t test)。
約3割が血栓塞栓症を合併するという結果は、海外と比較しても低くはないと考えられます。そのため、我々医師は、適切な治療をして、血栓症マネージメントをしっかり行うことが必要です。
RESPONSE試験から得られた示唆
ヒドロキシカルバミド抵抗性又は不耐容のPV患者を対象に実施されたルキソリチニブ※の第Ⅲ相検証試験(RESPONSE試験)では、ヘマトクリット値と脾腫容積の縮小の2つの基準により奏効率などを評価しています。
奏効率および安全性の結果から、ルキソリチニブによる、血栓症リスクの軽減の可能性について示唆されています3)。
RESPONSE試験では、対象をルキソリチニブ群(n=110)又はbest available therapy(BAT)群(n=112)に1:1でランダマイズ化し、32週以降で基準に合致したBAT群の被験者のみルキソリチニブへのクロスオーバーを許容しました。
- ※ルキソリチニブの効能又は効果:真性多血症(既存治療が効果不十分又は不適当な場合に限る)
その結果、全血栓塞栓イベントの発現頻度はルキソリチニブ群で100人・年あたり1.2例、ルキソリチニブへクロスオーバーした群で2.7例、BAT群で8.2例でした3)。
ルキソリチニブ開始が遅かったクロスオーバー群では、血栓症イベントの発現頻度がBAT群ほどではないもののルキソリチニブ群よりも高くなっています。この結果は、ルキソリチニブ開始が遅かったことに起因すると考えられる為、私はルキソリチニブが適応となる患者には、血栓症リスクを踏まえて投与タイミングを検討しています。
ルキソリチニブ群での主な有害事象は、全感染症が18.9例/100人・年(4.4%)、貧血が8.9例/100人・年(2.1%)、そう痒症と下痢が各7.0例/100人・年(1.6%)でした。ルキソリチニブ群での重篤な有害事象は、肺炎が1.2例/100人・年にみられました。ルキソリチニブ群では2例(胃腺腫1例、悪性新生物1例)の死亡が認められ、悪性新生物に関しては治験治療との因果関係が否定されました。