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小松先生が語る~OS延長を目指したMF治療戦略~

原発性骨髄線維症の高リスク、中間‐Ⅱリスク群の生存期間中央値は約2~4年と予後不良であり、日本人においては全患者の半数に該当します1)。造血器腫瘍診療ガイドライン、高リスク、中間‐Ⅱリスクの患者で移植不適応な場合には「輸血・ルキソリチニブ」が推奨されています2)

今回は、順天堂大学医学部内科学血液学講座 小松 則夫 先生に、骨髄線維症におけるルキソリチニブ投与の意義やタイミング、適正使用についてご解説いただきます。

脾臓容積と予後の関係

  • 原発性骨髄線維症(PMF)、真性多血症(PV)又は本態性血小板血症(ET)から移行した骨髄線維症(MF)患者を対象とした解析では、脾臓容積が500cm3増大するごとに死亡リスクが14%上昇することが示されています。
  • ルキソリチニブは、MFのドライバー変異として知られているJAK2 V617F変異CALR変異、MPLW515L/K変異の下流に共通して存在するJAK2チロシンキナーゼを阻害するため、変異の種類にかかわらず、脾臓縮小効果が期待できます。
  • 重要な点として、第Ⅰ/Ⅱ相試験の解析から、ルキソリチニブによる脾臓縮小効果が生存期間(OS)と相関することが示されています3)

ルキソリチニブの早期投与の意義

「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等は電子添文をご参照ください。

  • 海外第Ⅲ相試験(COMFORT-Ⅰ・Ⅱ試験)の併合解析の探索的評価項目では、最初からルキソリチニブが投与された群と対照薬(best available therapy:BATあるいはプラセボ)に無効もしくは24週の二重盲検後にルキソリチニブの投与が許可された対照群を比較した結果において、前者のOSは5.3年、後者のOSが3.8年と有意な差(p=0.0065、層別ログランク検定)が示されました。
  • このことは、ルキソリチニブのより早期からの投与が重要であることを示しています。ルキソリチニブを適切なタイミングで投与することで、脾臓の縮小やOSの延長も期待できると考えられました。
  • 予後カテゴリー別のサブグループ解析による死亡率は、ルキソリチニブ群では中間-Ⅱリスクである患者が27.3%であり、高リスクである患者の55.6%に比して有意に低い値(p<0.0001、層別ログランク検定)でした。

対照群の死亡率が中間-Ⅱリスク患者では40.2%、高リスク患者では59.3%となることを考慮すると、ルキソリチニブは高リスクに該当してから投与するよりも、適応となる中間-Ⅱリスクのより早い時期から投与することで、よりよい予後が得られると思われます。

血小板数がルキソリチニブの効果の鍵を握る

ルキソリチニブの脾臓縮小効果とOSは相関しますが、十分な脾臓縮小効果を得るためには、ルキソリチニブの適切な投与タイミングと用量が求められます。
ベースライン時に血小板数が減少している症例(<10万/μL)では、ルキソリチニブの脾臓縮小効果が得られにくいことがJUMP試験で示されています4)。血小板減少が生じた状態でルキソリチニブ投与を開始した場合には、ルキソリチニブの減量を迫られ、脾臓縮小効果は減弱する可能性が高くなります。

脾臓を可能な限り縮小させ、予後の改善につなげるためには、血小板数に応じた適正な用量が求められます。そのためには血小板数が保たれている早い段階での介入が必要です。「血小板数がルキソリチニブの効果の鍵を握る」といっても過言ではありません。

また、ルキソリチニブ投与がMF診断から2年を超えてしまうと脾臓縮小効果が期待できなくなるとの報告5)もあるので、MFをより早期に診断し、より早期にルキソリチニブを投与することが肝要かと思います。

ルキソリチニブの電子添文に記載されている血小板数に応じた開始用量、投与中の用量はご覧のとおりです。

ルキソリチニブの利点を生かすためのポイント

ルキソリチニブの利点をいかすためには、日常診療で症状を十分に把握することが大切です。ポイントは、①毎回の診察で脾臓を触診すること、②「骨髄増殖性腫瘍 症状評価フォーム総症状スコア(MPN-SAF TSS)」でしっかり症状を把握すること、③ルキソリチニブの適応(血小板数が十分に保持されている前提で、症候性脾腫を有する患者、又はQOLに影響を与えるMF関連症状のある患者)を十分に検討することです。以上のような点に留意し、MFの早期診断を心掛け、ルキソリチニブの利点と効果を最大限に引き出していくことが重要と考えています。

海外第Ⅲ相検証試験(COMFORT-Ⅰ・Ⅱ試験)の試験概要、安全性はご覧のとおりです。

COMFORT-Ⅰ試験において、ルキソリチニブ開始後48ヵ月以降に発現した主な非血液学的有害事象は、疲労7/21.0例(33.3%)、肺炎5/30.5例(16.4%)、便秘4/25.0例(16.0%)でした。

COMFORT-Ⅱ試験において、全ルキソリチニブ群(BATからルキソリチニブへクロスオーバーした群も含む)において、主な非血液学的有害事象は下痢68例(35.6%)、末梢性浮腫63例(33.0%)でした。

ルキソリチニブの使用にあたっては、電子添文等をご参照ください。

  • 1)Takenaka K et al. Int J Hematol 2017; 105: 59-69.より
  • 2)日本血液学会編. 造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版, 金原出版, p139-141, 2023.
  • 3)Verstovsek S et al. Blood 2012; 120: 1202-1209.
  • 4)Al-Ali HK et al. Br J Haematol 2020; 189: 888-903.
  • 5)Palandri F et al. Oncotarget 2017; 8: 79073-79086.