アフィニトール
結節性硬化症(TSC)
監修:大野耕策 先生(鳥取大学名誉教授)
主な腎病変(腎AML)
疫学と発現時期
結節性硬化症患者の60~80%に何らかの腎病変が認められます1)。結節性硬化症に特徴的な腎病変としては、腎血管筋脂肪腫(renal angiomyolipoma:腎AML)、腎嚢胞(renal cyst)、多発性嚢胞腎、腎細胞癌(renal cell carcinoma)があります。なかでも腎AMLは結節性硬化症患者の70~90%に認められるという報告もありますが、調査により発現率はさまざまです2)3)。
腎AMLの初発年齢は乳幼児期の場合もありますが、通常は3歳以降に認められ、加齢とともに増加して、10歳代で急激に増加、20歳代でピークを迎えることが多いです2)(図1、図2)。また、10歳以上の死因となりうる腎病変です4)5)(図3)。
日本人結節性硬化症患者における腎AMLの発現頻度
2013年に報告された、日本人結節性硬化症患者166人を対象とした疫学調査6)によると、腎病変の発現率は71%、腎AML 61%、腎嚢胞 28%、腎細胞癌 2.6%で、これは既報と同程度の発現率でした(図4)。
また、同調査において年齢別の腎AML発現頻度をみると、10~19歳で急激に頻度が高まることが示されました(図5A)。4cm以上の腎AMLは92人中44人(48%)に認められました。10歳未満では0%ですが、10~19歳で24%、20~29歳で50%に認められ、これをピークにその後は低下しました(図5B)(4cm以上の腎AMLに対しては破裂予防のために治療をしていました)。
病態・症状
結節性硬化症に伴う腎AMLは腎臓以外の臓器に発生することは稀ですが、肝臓などにみられる場合もあります。
腎AMLの多くは、無症状で血液検査等でも異常が認められませんが、腫瘍径が4cm以上になると腫瘍サイズが増大しやすくなり、側腹痛や腫瘤触知、血尿といった三大徴候が現れます(図6)7)。増大した腫瘍は自然に退縮することはなく、自然破裂や急性出血による大量出血性ショックや腎機能低下のリスクが高まります。出血により激痛、急速な貧血進行、血圧の低下が認められ、尿路に出血した場合は強血尿や膀胱コアグラタンポナーデを呈することもあります。また、腎AMLの増大は性ホルモンが関与しており、特に女性は妊娠・出産を契機として増大する場合があるため、妊娠可能な女性は注意が必要です。中には腎不全や死亡に至るケースもあるため、定期的なモニタリングが不可欠で、適切なタイミングでの治療介入が望ましいと考えられています(図7)。
図7 腎血管筋脂肪腫(renal angiomyolipoma;腎AML)
CT
CT
エコー
Reprinted with permission from John Wiley and Sons.
エコー
血管造影図
ノバルティス ファーマ社内資料
※異なる症例の写真です。
腎AMLはPEC(perivascular epithelioid cell)由来の腫瘍で、PEComa familyの代表的な疾患です8)。腎AMLには、①結節性硬化症に伴う腎AML(TSC-AML)と、②結節性硬化症とは無関係に発生する腎AML(sporadic AML: S-AML)の2種類があります。 表1 TSC-AMLとS-AMLの特徴(海外データ)
文献9)より引用 表2 TSC-AMLとS-AMLの特徴(海外データ)
文献9-13)より作表 |
検査・診断
腎AMLは、結節性硬化症の診断に用いられる基準14)の大症状(結節性硬化症に特異性が高い症状)に、多発性嚢胞腎は小症状(結節性硬化症に特異性が低い)の一つに挙げられています。 診断基準の詳細はこちらよりご覧下さい。
通常、腎AMLは画像検査(腎臓超音波検査、CT、MRI)で検出することが可能です。
腎臓超音波検査は、腎AMLのサイズの定期検査や、幼児のスクリーニングとして利用されます。結節性硬化症患者では5歳前のベースライン測定が望ましく、腎AMLが発見されない場合もしくはごく小さな病変の場合は1~2年に1回、腎AMLが存在する場合は半年〜年1回の測定が推奨されています15)16)。CTは腎AMLの診断の決め手となる脂肪を検出することができ、超音波検査よりも感度および特異度が高くなっています。また悪性腫瘍との鑑別にも有用です。
MRIは腎障害の改善を可視的に確認できることから、超音波検査後のフォローアップに用いられます。
血液検査は少なくとも年に1回行い、腎機能を評価し17)、加えて血圧測定により高血圧の有無も評価します18)。
腎AML破裂の危険因子
腎AMLの破裂は生命予後に影響します。しかし、腫瘍サイズ以外に破裂を予測するための因子は見つかっていません。腎AML患者23人を対象に腎AML破裂の予測因子を検討したわが国の報告(2002年)19)によると、対象患者に見つかった腎AML29個のうち22個(76%)に動脈瘤が形成されていました。そして、腎AML29個のうち破裂した腫瘍8個と破裂しなかった腫瘍21個における腫瘍サイズ15)と動脈瘤サイズ16)を比較したところ、いずれも破裂した腫瘍で有意に大きかったことがわかりました(*1:p<0.01、*2:p<0.05、t検定、図8)。また、腫瘍サイズが大きいほど動脈瘤サイズも大きくなり、動脈瘤サイズが大きいと破裂のリスクが高まることも明らかになりました。
治療
腎AMLに対する治療目的としては、腎機能の保持、AML増大の抑制、AML破裂の予防です。日本皮膚科学会の「結節性硬化症の診断基準及び治療ガイドライン」1)22)において推奨されている腎AMLの治療方針を表3に示します。有症状の場合は治療開始の絶対適応で、無症状の場合は腫瘍径や増大傾向、腫瘍内動脈瘤の有無に基づき予防的な治療介入の必要性を検討します。定期的な画像検査で、治療が必要と判断された場合には、動脈塞栓術(TAE、図9)、腎部分切除術(表3、4)、腎全摘除術などが適用されます。
一般的に4cm以上の腫瘍、5㎜以上の動脈瘤がある場合は予防的TAEが推奨されていますが10)15)、まとまった検討報告はありません。腎AML破裂に対しTAEで止血不可能な場合や悪性腫瘍との鑑別困難な場合、また巨大な腎AMLで腹部圧迫が高度な場合20)21)に腎部分切除術が選択されることが多く、悪性腫瘍に対しては腎全的術が必要となります。ただし、4cm以上の腎AMLすべてに治療介入するわけではなく、自覚症状の有無や腫瘍のできている場所、その他の結節性硬化症に伴う合併症、腎機能の温存、患者の妊娠希望の有無などを考慮して、総合的に判断することが大切です。なお、腎AMLの治療方針の決定に際しては、泌尿器科、腎臓内科、放射線科などの関連診療科の専門医と連携して取り組むことが重要です。
また、結節性硬化症に対する治療薬として、mTOR阻害剤アフィニトール®(エベロリムス)が使用可能です。結節性硬化症のConsensus Conference24)では無症候性でも長径3cmを超える大きさの腎AMLで使用が推奨されており、国内のガイドラインではびまん性に腎AMLが存在する場合は使用を考慮すべきであるとされています23)。アフィニトール®の腎AMLに対する効果については、こちらをご覧ください。
表3 結節性硬化症に伴う腎AMLの治療・モニタリング方針
腫瘍の大きさ/自覚症状 | 治療方針 | |
---|---|---|
a) 腫瘍経; 4cm未満/自覚症状なし |
年1回の画像検査 | |
b) 腫瘍経; 4cm未満/自覚症状あり |
症状が持続 | d) に準ずる |
症状が消失 | 6ヵ月毎の画像検査 | |
c) 腫瘍経; 4cm以上/自覚症状なし |
腫瘍増大傾向なし | 6ヵ月毎の画像検査 |
腫瘍増大傾向あり | d) に準ずる | |
d) 腫瘍経; 4cm以上/自覚症状あり |
腫瘍の塞栓療法(TAE) 外科的腫瘍摘出術、腎部分切除術など |
文献23)より引用
表4 腎部分切除術の利点と欠点
利点 | 欠点 | ||
---|---|---|---|
利点 | 腫瘍を除去することにより ・症状がなくなることに加え、合併症(出血、痛み、破裂や悪性転換の可能性)のおそれの除去 ・腎機能の保存 ・癌の存在の疑いが低下 |
欠点 | ・開腹手術に伴う合併症(出血、痛み、血液凝固、感染症、尿瘻)と回復 ・腎機能の損失および低下 ・腎AMLとともに正常組織を除去 ・麻酔下での治療 ・てんかんや腎機能障害を有する患者に対する危険性 ・認知機能障害患者に対する入院の問題 ・腎臓損失の可能性 ・透析の必要性 ・死亡のリスク |
参考文献
1) 金田眞理, 他. 日皮会誌 2018; 128: 1-16
2) Curatolo P, et al. Lancet 2008; 372: 657-668
3) Ewalt DH, et al. J Urol 1998; 160: 141-145
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5) Shepherd CW, et al. Mayo Clin Proc 1991; 66: 792-796
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22) 金田眞理, 他. 日皮会誌 2008; 118: 1667-1676
23) 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫診療ガイドライン 2016年版; 日本泌尿器科学会 日本結節性硬化症学会 編. 2016: p.39
24) Krueger DA and Northrup H. Pediatr Neurol 2013; 49: 255-265
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