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アフィニトール

結節性硬化症(TSC)

監修:大野耕策 先生(鳥取大学名誉教授)

疫学

有病率

日本における大規模な結節性硬化症の疫学調査として、1985年に厚生労働省(当時は厚生省)が行った神経皮膚症候群の調査1)があり、その結果、年間推定1,400~1,800人(1993年の調査では1,600~2,000人)の患者が医療機関で治療を受けていると報告されました(表1)。しかし、実際の患者数はその5~10倍と推定されることから、日本における結節性硬化症の有病率はおおよそ人口10,000人に1人の割合とされました1)-3)

本疾患の患者数は15,000人前後と推定されており、これは米国における発症頻度とほぼ同様です1) 3)。また、全世界での有病率は出生児の6,000人に1人の割合で生じ、患者数は100万人と推定されており、人種差・地域差はないと考えられています4) 5)

結節性硬化症は常染色体優性遺伝性の疾患ですが、その約3分の2が孤発例で、家族例が明らかな患者は約3分の1といわれています。中には検査を行っても遺伝子変異が確認できない患者も一定数存在します6)

表1 結節性硬化症発症時の年齢分布(1993年調査)

年齢 発症年齢
男性(%) 女性(%) 合計(%)
0~ 178(79.1) 195(84.8) 373(82.0)
5~ 17(7.6) 13(5.7) 30(6.6)
10~ 10(4.4) 17(7.4) 27(5.9)
15~ 10(4.4) 5(2.2) 15(3.3)
20~ 3(1.3) 0(0.0) 3(0.7)
25~ 4(1.8) 0(0.0) 4(0.9)
30~ 1(0.4) 0(0.0) 1(0.2)
35~ 1(0.4) 0(0.0) 1(0.2)
40~      
45~ 1(0.4) 0(0.0) 1(0.2)
合計 225(49.5) 230(50.5) 455(100.0)

Agata T. Gann Monograph on Cancer Research 1999; 46: 27-35

 

2013年の日本人結節性硬化症の疫学調査報告

日本人結節性硬化症患者166人において結節性硬化症の各症状の発現頻度を検討した結果が、2013年に報告されました(表27)。2001年1月から2011年3月までの間に大阪大学医学部附属病院 皮膚科を受診した結節性硬化症と確定診断がなされている方を対象とした疫学調査で、上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)*12%、てんかん*263%、難治性てんかん*120%、精神遅滞*142%、3つ以上の白斑*165%、TSC2変異*132%で、いずれも既報8)-11)にくらべ有意に頻度が低いことが示されました(*1:p<0.0001、*2:p=0.0005、χ2検定)。一方、顔面血管線維腫*393%、シャグリンパッチ*383%、遺伝子変異検出なし(NMI)*339%で、これらは既報にくらべ有意に頻度が高いことが示されました(*3:p<0.0001、χ2検定)。

表2 既存データと比較した各病変の発現頻度

結節性硬化症の病変 発現頻度(%) 95% CI 参照 p値 結果
神経学的病変
  上衣下結節(SEGAを含む) 77 70-84 50-100 1.00 ND
  SEGA  2 0-5 10-35 <0.0001 L
  てんかん  63 56-70 75-95 0.0005 L
   難治性てんかん  20 14-26 50 <0.0001 L
  精神遅滞  42 34-49 65-75 <0.0001 L
   Level 3 3.6 1-6      
   Level 2 21 15-27      
   Level 1 17 11-23      
  自閉症  21 15-27 25-50 0.24 ND
腎病変  71 64-78 64-78    
  腎血管筋脂肪腫  61 53-69 45-55 1.00 ND
  >4cm 29 22-36      
  腎嚢胞  28 21-35 15-32 0.65 ND
  腎細胞癌  2.6 0-5 2 0.59 ND
肺病変 79 71-87      
  肺LAM  39 29-49 2-40 0.92 ND
  MMPH 71 62-80      
皮膚病変 98.8 97-100      
  顔面血管線維腫  93 89-97 75-80 <0.0001 H
  前額部プラーク  46 38-54 12-40 0.13 ND
  白斑 (>3)  65 58-72 >90 <0.0001 L
  シャグリンパッチ  83 77-89 20-57 <0.0001 H
  爪囲線維腫  64 57-71 15-80 1.00 ND
心病変 49 39-59      
  心横紋筋腫  46 37-55 40-60 0.90 ND
婦人科系病変(>20歳の女性)          
  子宮病変(>20歳) 57 43-71      
  卵巣嚢胞 28 14-42      
内分泌腺病変           
  甲状腺 27 18-36      
遺伝子型           
  TSC1 28 18-38 20 0.08 ND
  TSC2 32 21-43 66 <0.0001 L
  変異検出なし(NMI) 39 30-52 20 <0.0001 H

SEN:上衣下結節
SEGA:上衣下巨細胞性星細胞腫
肺LAM:肺リンパ脈管筋腫症
MMPH:multifocal micronodular pneumocyte hyperplasia
CI:信頼区間
H:有意に高い
L:有意に低い
ND:有意差なし
χ2検定

Wataya-Kaneda M, et al. PLoS ONE 2013; 8: e63910

男女別・年齢期別の患者分布は、50歳未満が80%、20歳以上が52%を占めていました。また、孤発例130例(90%)に対し、家族例は36例(10%)と報告されています。年齢期別の患者分布のピークは男女間で異なっており、男性では10~19歳、女性では30~39歳でした(図1)。

図1 男女別・年齢期別の患者分布

結節性硬化症の死因

結節性硬化症の死因となる症状としては、腎不全等の腎病変、脳腫瘍等の脳病変、心病変などが報告されており、死因は年齢によって異なります。
年齢期ごとに起こり得る死因としては、10歳未満では心病変(心横紋筋腫)や気管支肺炎、10歳以上では腎病変(腎AMLなど)、10~40歳では脳腫瘍(SEGAなど)であるとされます。特に40歳以上の女性で肺LAM(肺リンパ脈管筋腫症)が死因となることが多くなります。また、てんかん発作による死亡は、40歳未満がほとんどです6) 12)図2)。患者の状態に応じて、各科専門医と連携することが重要です。

図2 結成性硬化症の年齢期ごとに起こり得る死因

参考文献
1) Agata T. Gann Monograph on Cancer Research 1999; 46: 27-35
2) Agata T, et al. Annual Report of the Research Committee of Neurocutaneous Syndrome, the Ministry of Health and Welfare 1994: 8-14
3) Ahlsén G, et al. Arch Neurol 1994; 51: 76-81
4) National Institute of Neurological Disorders and Stroke(NINDS).National Institute of Health(NIH).Tuberous Sclerosis Fact Sheet.2012.
5) Osborne JP, et al. Ann N Y Acad Sci 1991; 615: 125-127
6) Umeoka S, et al. Radiographics 2008; 28: e32
7) Wataya-Kaneda M, et al. PLoS ONE 2013; 8: e63910
8) Dabora SL, et al. Am J Hum Genet 2001; 68: 64-80
9) Sancak O, et al. Eur J Hum Genet 2005; 13: 731-741.
10) Chopra M, et al.J Paediatr Child Health 2011; 47: 711-716.
11) Hallett L, et al.Curr Med Res Opin 2011; 27: 1571-1583.
12)Shepherd CW, et al. Mayo Clin Proc 1991; 66: 792-796

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