執筆・監修
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東海大学医学部
基盤診療学系病理診断学
教授中村 直哉 先生
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愛媛大学大学院医学系研究科
血液・免疫・感染症内科学
教授竹中 克斗 先生
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埼玉医科大学保健医療学部
臨床検査学科・医学部病理学
教授茅野 秀一 先生
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日本赤十字社愛知医療センター
名古屋第一病院病理部
顧問伊藤 雅文 先生
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KDP病理診断科クリニック
谷岡 書彦 先生
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静岡県立こども病院
病理診断科
科長岩淵 英人 先生
- 6名の骨髄病理のエキスパート(師範)が選ぶ24症例をもとに、骨髄増殖性腫瘍(MPN)および骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)の各病型をクイズ形式でご紹介します。
- 解説では、各症例に即した病型ごとの形態的特徴やエキスパートによる最終診断までのプロセスをご覧いただくことができます。
- 今回は次の3症例です。
- 幼少期より頭痛があり、血小板増多を指摘されている10代 女性
- 数年前から健診で赤血球増多を指摘されている60代 女性
- 数年前から健診で血小板増多を指摘されており、その後、白血球増多と貧血を認めた70代 女性
Question 1
10代 女性。幼少期より頭痛があり、血小板増多を指摘されています。患者PROFILEと病理所見を以下に示します。次のうち、本症例の病理診断として考えられるのはどの疾患でしょうか?
患者PROFILE
年齢・性別
10代 女性
現病歴
幼児期から頭痛をしばしば訴えていた。11歳時に血小板増多を指摘。17歳時に急性心筋梗塞の既往がある。
身体所見
脾腫なし
血液検査
WBC 14,690/μL、Hb 15.7g/dL、Plt 127.3万/μL
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病理所見(HE染色)
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病理所見(HE染色)
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病理所見(CAE染色)
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病理所見(CD61免疫染色)
生検された骨髄および骨髄クロット標本は十分量の良好な検体で、cellularity60-80%であるが、10代の若者としては明らかな過形成とはいえない。M/E=3-4、巨核球はほぼ同大の成熟細胞が増加している。核の過分葉核を伴うものが多い。赤芽球は血島形成が良好である。顆粒球は分葉核球までの良好な分化を呈し、芽球の増加はみられない。好酸球や単球の増加はみられない。異型の軽度な成熟巨核球増多を認め、軽度の集簇(loose cluster)をみるが、稠密な集簇(dense cluster)形成はみられない。鍍銀染色では線維化はみられない。免疫染色では、CD61陽性巨核球は非分葉核の小型細胞から過分葉を呈する大型成熟細胞まで連続性に増加を認める。骨髄クロット標本では血小板凝集像が目立つ。
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1
本態性血小板血症(ET)
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2
反応性血小板増多症
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3
環状鉄芽球と血小板増加症を伴う骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)
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4
単独5番染色体長腕欠失を伴うMDS
正解は
1本態性血小板血症(ET)
解 説
鑑別すべき疾患
- 本態性血小板血症(ET)
- 反応性血小板増多症
- 環状鉄芽球と血小板増加症を伴う
骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN) - 単独5番染色体長腕欠失を伴うMDS
鑑別診断のポイント
〈 反応性血小板増多症 〉
感染症や炎症、あるいは薬剤性など多くの異なる原因で血小板が増加する。一過性の増加で終わる場合が多いので、経過を見守る必要がある。
〈 環状鉄芽球と血小板増加症を伴うMDS/MPN 〉
45万/μL以上の血小板増加と貧血を呈する。骨髄巨核球は増加し、形態はMPNに類似し組織学的鑑別は容易でない。赤芽球に形態異常(巨赤芽球変化)が認められ、環状鉄芽球が15%以上を占める。大半の症例でSF3B1遺伝子変異をみるがJAK2、CALR、MPLなどMPNに特徴的なドライバー変異も少なからず認められる。
〈 単独5番染色体長腕欠失を伴うMDS 〉
通常大球性貧血を呈し、1/3-1/2の症例では血小板が増加する。5番染色体長腕の単独欠失が特徴的であるが7番欠失あるいはde(l7q)があってもよい。骨髄は正形成から過形成で、小型で低分葉-非分葉核の小型巨核球が増加する。赤芽球も増加する。
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病理所見(HE染色)
生検された骨髄は年齢相応の正形成髄(cellularity70%)で、脂肪がよく保たれている。
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病理所見(HE染色)
核の過分葉や雲状核など大型細胞が目立つが、核の濃染などの異型は目立たない。
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病理所見(CAE染色)
陽性の顆粒球系は骨梁に沿うparatrabecularな分布を示す一方、ほぼ同じ大きさの成熟巨核球が密な集簇を作らずに分布している。
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病理所見(CD61免疫染色)
巨核芽球から血小板まで陽性に染色されるCD61でみると、比較的小型の巨核球も存在することがわかる。しかし、主体は大型で成熟した巨核球である。細胞辺縁により強い陽性所見を呈する巨核球を認める。
病理診断
本態性血小板血症(ET)
本態性血小板血症(ET)における遺伝子検査
- MPNでは遺伝子検索が重要である。BCR-ABL1異常を持つCMLの除外が必要で、JAK2、CALR、MPL変異のそれぞれがいわゆるドライバー変異と考えられ相互排他的である。
- BCR-ABL1陰性MPNは一般に成人に発生するが小児例も少数みられる。
- 興味深いことに若年発症のETではいずれの変異もみられないトリプルネガティブの症例が多いとされる。
Langabeer SE, et al. Blood Cancer. 2015; 62: 175-176.
Question 2
60代 女性。数年前から健診で赤血球増多を指摘されています。患者PROFILEと病理所見を以下に示します。次のうち、本症例の病理診断として考えられるのはどの疾患でしょうか?
患者PROFILE
年齢・性別
60代 女性
現病歴
数年前から健診で赤血球増多を指摘されていた。特に自覚症状はない。
身体所見
脾腫あり
血液検査
WBC 4,900/μL、Hb 16.2g/dL、Plt 113.3万/μL、JAK2 V617F変異陽性
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病理所見(HE染色)
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病理所見(CAE染色)
-
病理所見(鍍銀染色)
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病理所見(CD71 トランスフェリンレセプター免疫染色)
生検された骨髄および骨髄クロット標本は十分量の良好な検体で、cellularity約60%の軽度過形成髄である。M/E=3-4、造血3系統が認められる。赤芽球は血島形成が良好で異形成は明らかではない。顆粒球は分葉核球までの良好な分化を呈し、芽球の増加はみられない。好酸球や単球の増加はみられない。血小板凝集を伴い、異型の軽度な成熟巨核球増多を認め、軽度の集簇(loose cluster)をみるが、稠密な集簇(dense cluster)形成はみられない。鍍銀染色では線維化はみられない。免疫染色ではCD71陽性赤芽球が増加する。
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1
真性多血症(masked PV)
-
2
純粋赤血病
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3
骨髄異形成症候群(MDS)
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4
巨赤芽球性貧血
正解は
1真性多血症(masked PV)
解 説
鑑別すべき疾患
- 真性多血症(masked PV)
- 純粋赤血病
- 骨髄異形成症候群
- 巨赤芽球性貧血
鑑別診断のポイント
〈 赤芽球増殖を伴う疾患の鑑別 〉
- 真性多血症(masked PV):造血3系統とも増殖するpanmyelosisを呈する過形成骨髄で、巨核球の大小不同、多形が目立つが異型はみられない。赤芽球系細胞の増加が著明でしばしば島形成というよりはシート状に増殖する。
- 純粋赤血病:骨髄有核細胞の80%を超える赤芽球系細胞の増殖があり、30%以上が前赤芽球で占められ、かつ骨髄芽球が全骨髄細胞の20%を超えないものをいう。WHO分類4版(2008)までは骨髄中の赤芽球が50%を超える場合、骨髄芽球が非赤芽球系細胞の20%を超えた場合、赤白血病に分類していた。改訂4版(2016)ではこの規定が大きくかわり、赤芽球系細胞の割合によらず骨髄芽球は骨髄有核細胞に対する割合で判定することとなり、以前は赤白血病とされた多くがMDSに分類される。
- 骨髄異形成症候群(MDS):MDSでも骨髄中の有核細胞の50%以上を赤芽球が占めることがある。治療関連MDS、複雑核型を有する例で遭遇することが多い。末梢血所見で貧血を主体に血球減少がみられる。骨髄芽球の増加や環状鉄芽球の増加がある場合は、芽球増加を伴う骨髄異形成症候群(MDS-EB)1-2、多血球系異形成と環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群(MDS-RS-MLD)などを考慮する。
- 巨赤芽球性貧血:ビタミンB12や葉酸欠乏により大球性貧血と造血細胞の核/細胞質の成熟解離を示す。骨髄病理像は一見、急性白血病を思わせる幼若な赤芽球系細胞(前赤芽球)のびまん性単調な増殖が特徴的である。
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病理所見(HE染色)
生検された骨髄はcellularity約60%の軽度過形成髄である。
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病理所見(CAE染色)
造血3系統を認める、顆粒球系優位の過形成骨髄。陰性の赤芽球島も明瞭である。大型成熟巨核球も増加している。
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病理所見(鍍銀染色)
細網線維は脂肪細胞の周囲や血管の周囲に少量認められるが、造血巣における線維の増加はみられない。
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病理所見(CD71 トランスフェリンレセプター免疫染色)
赤芽球の細胞質に明瞭な陽性を示す。赤血球には陰性で赤芽球系細胞の把握に有用である。鉄は細胞分裂に必須で、増殖の盛んな細胞ではCD71が陽性となる。
病理診断
真性多血症(masked PV)
Masked PV
PVはJAK2変異による赤血球系を主とした造血3系統の腫瘍性増殖を来す。赤血球の増加の指標としてヘモグロビン値、ヘマトクリット値、内因性赤芽球コロニー形成(endogenous erythroid colony:EEC)があるが、これらは必ずしも病態を正確に反映せず、ヘモグロビン値、ヘマトクリット値が基準値を超えないmasked PVの概念が提唱された。さらに骨髄生検の診断への有用性が確認され、WHO分類改訂4版ではPVの診断基準にヘモグロビン値、ヘマトクリット値のカットオフ値が引き下げられ、骨髄生検の所見は大項目に格上げとなり、EECは削除された。
Post-PV MF
過去にWHO分類に準拠診断されたPV例に骨髄線維症を伴う場合がある。膠原線維の出現を伴うMF-2以上の線維化を認め、PMF様に巨核球の異型、集簇形成がみられるようになる。全体の細胞密度は低下し、overt PMFとの区別は病歴なしには困難である。
Question 3
70代 女性。数年前から健診で血小板増多を指摘され、その後白血球増多と貧血の進行を認めています。患者PROFILEと病理所見を以下に示します。次のうち、本症例の病理診断として考えられるのはどの疾患でしょうか?
患者PROFILE
年齢・性別
70代 女性
現病歴
3年前から健診で血小板増多を指摘され、本態性血小板血症(ET)と診断されヒドロキシカルバミドによる治療を受けた。特に自覚症状はないが白血球数の上昇と貧血が進行してきた。
身体所見
脾腫を認める
血液検査
WBC 19,210/μL、Hb 7.9g/dL、Plt 11.5万/μL、JAK2 V617F変異陽性
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病理所見(HE染色)
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病理所見(鍍銀染色)
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病理所見(CD61)
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病理所見(CD34免疫染色)
骨髄クロット標本はdry tapであった。生検された骨髄は12mm長の良好な検体でびまん性の線維化を認める。造血3系統とも認められるが、cellularity20%の低形成髄である。造血3系統を認め、巨核球は核濃染を伴う大型成熟細胞の軽度増加が観察される。赤芽球は血島形成が明らかである。顆粒球は分葉核球までの分化を認めるが、幼若な細胞が散見され、免疫染色では、CD34陽性芽球が3-4個集簇している部分が複数箇所で認められる。好酸球や単球の増加はみられない。巨核球の稠密な集簇(dense cluster)形成はみられない。鍍銀染色ではびまん性の線維化(MF-2/3)をみる。
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1
本態性血小板血症後骨髄線維症(Post-ET MF)
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2
本態性血小板血症(ET)
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3
原発性骨髄線維症線維化期
正解は
1本態性血小板血症後骨髄線維症(Post-ET MF)
解 説
鑑別すべき疾患
- 本態性血小板血症後骨髄線維症(Post-ET MF)
- 本態性血小板血症
- 原発性骨髄線維症線維化期
鑑別診断のポイント
- MPNは相互に移行する病態である。大まかにはET➡PV➡MFと進み、次第に芽球が増加しAMLに移行する。
- 本態性血小板血症(ET):ETを疑われたが、ETの診断が確定していない例に生じた骨髄線維症をPost-ET MFと呼ぶことはできない。
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病理所見(HE染色)
生検された骨髄は低形成髄(cellularity20%)だがびまん性の線維化がうかがえる。巨核球は増加しているが核の過分葉や雲状の所見はなく、dense clusterの形成もみられない。
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病理所見(鍍銀染色)
細網線維(黒)の増加を認め、一部粗い線維束も認められ、膠原線維(赤)も混在している。骨硬化はなく、MF-2/3とみなされる。
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病理所見(CD61)
大小の巨核球がみられる。小型で非分葉核の異型なものも散見される。しばしば集簇しているがdense clusterは認められない。
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病理所見(CD34免疫染色)
多様な細胞が陽性に染色されるCD34は、骨髄では幼若な造血細胞(芽球)と血管内皮に発現される。CD34の局在は細胞膜であるが芽球ではしばしば顆粒状の陽性像を呈する。CD34は巨核球に陽性となる場合があるが、細胞質に陽性となる。すべての芽球がCD34陽性となるとは限らないことに注意。
病理診断
本態性血小板血症後骨髄線維症
(Post-ET MF)
Disease progression on MPN
PMF・ET・PVなどのBCR-ABL1陰性古典的MPNではTP53、ASXL1、RUNX1、NRAS、SRSF2などの遺伝子の付加的異常の蓄積により病態が変化しうる。TP53の付加的異常は年齢、OSの短縮化、AML転化との関連が強い。
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骨髄線維化
MPNの病態変化としては最多でPMFのみならずET・PVにも生じる。
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白血病化
骨髄、末梢血に芽球の増加をみる。PMF、PV、ETの順に起きやすい。
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骨髄異形成/
骨髄増殖性腫瘍
(MDS/MPN)様変化経過中に単球系細胞の増加をみる場合(CMML-like)と好中球の増加する場合(aCML-like)がある。
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MDS様変化
MPNでも血球異形成をみることがあるが、骨髄不全(無効造血)が加わることがある。
Post-ET MFの診断基準
Thiele J, Tefferi A, Kvasnicka HM, Gisslinger H, Orazi A, Barbui T, Gianelli U. Essential
thrombocythaemia. In: Steven H. Swerdlow et al.(eds) WHO Classification of Tumours
of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Revised 4th Edition, Lyon, 2017, p.50-53.