執筆・監修
-
東海大学医学部
基盤診療学系病理診断学
教授中村 直哉 先生
-
愛媛大学大学院医学系研究科
血液・免疫・感染症内科学
教授竹中 克斗 先生
-
埼玉医科大学保健医療学部
臨床検査学科・医学部病理学
教授茅野 秀一 先生
-
日本赤十字社愛知医療センター
名古屋第一病院 病理部
顧問伊藤 雅文 先生
-
KDP病理診断科クリニック
谷岡 書彦 先生
-
静岡県立こども病院
病理診断科
科長岩淵 英人 先生
- 6名の骨髄病理のエキスパート(師範)が選ぶ24症例をもとに、骨髄増殖性腫瘍(MPN)および骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)の各病型をクイズ形式でご紹介します。
- 解説では、各症例に即した病型ごとの形態的特徴やエキスパートによる最終診断までのプロセスをご覧いただくことができます。
- 今回は次の3症例です。
- 白血球増多、脾腫を認める50代 男性
- 健診で多血症を指摘され、その後、幼若白血球が出現した50代 男性
- 微熱、倦怠感、食欲減少、腹部膨満を認める男児
Question 1
50代 男性。白血球増多、脾腫を認めています。患者PROFILEと病理所見を以下に示します。次のうち、本症例の病理診断として考えられるのはどの疾患でしょうか?
患者PROFILE
年齢・性別
50代 男性
現病歴
白血球増多、脾腫を指摘され受診。末梢血好中球FISHではBCR-ABL1 fusion signalが陽性であった。
血液検査
WBC 20,000/μL、Hb 13.1g/dL、Plt 78.5万/μL
-
病理所見(初発時)(HE染色)
-
病理所見(初発時)(CAE染色)
高度な過形成髄(cellularity 100%)で、顆粒球系が主体で好酸球も増加している。小型巨核球の増加を認める。線維化は目立たない。
-
1
慢性骨髄性白血病(CML)、BCR-ABL1陽性
-
2
慢性骨髄単球性白血病(CMML)
-
3
非定型的慢性骨髄性白血病(aCML)、BCR-ABL1陰性
-
4
慢性好中球性白血病(CNL)
正解は
1慢性骨髄性白血病(CML)、BCR-ABL1陽性
解 説
鑑別すべき疾患
- 慢性骨髄性白血病
- 慢性骨髄単球性白血病
- 非定型的慢性骨髄性白血病、BCR-ABL1陰性
- 慢性好中球性白血病
鑑別診断のポイント
〈 慢性骨髄性白血病(CML)、BCR-ABL1陽性 〉
慢性期の骨髄は著明な過形成で顆粒球系優勢である。赤芽球系は減少する。巨核球数の増減はさまざまで、小型で核の低分葉が目立ちdwarf megakaryocytesと呼ばれるが、骨髄異形成症候群(MDS)にみられる微小巨核球はみられない(前骨髄球程度の大きさ)。移行期、急性転化期と進行するにつれ芽球が増加するので経過中の検体にはCD34免疫染色が有用である。
〈 慢性骨髄単球性白血病(CMML) 〉
MDS/骨髄増殖性腫瘍(MPN)の最も多い病型で末梢血の単球増加(1,000/μL以上)と白血球の10%以上を単球が占めることが特徴である。骨髄は顆粒球の過形成が著明だが、まれに低形成のことがある。むしろ末梢血に比べて骨髄では単球系細胞が目立たないことがCMMLの特徴である(morphological dissociation)。低分葉核のみられる小型巨核球など巨核球系の異形成もみられる。成熟形質細胞様樹状細胞の結節性増殖が20%のCMMLでみられる。定義上BCR-ABL1陰性である。CMMLの90%でSRSF2、TET2、 ASXL1、NPM1変異のいずれかが検出される。
〈 非定型的慢性骨髄性白血病、BCR-ABL1陰性(aCML) 〉
MDS/MPNのまれな病型で末梢血の白血球増加(13,000/μL以上)と好中球の異形成が特徴である。骨髄は顆粒球の過形成が著明でM/E比は10を超える。好中球の異形成は必須だが赤芽球や巨核球の異形成は問わない。定義上BCR-ABL1陰性である。SETBP1やETNK1の変異はaCMLを示唆する。
〈 慢性好中球性白血病(CNL) 〉
まれなMPNで末梢血および骨髄における好中球増加と肝脾腫を特徴とする。各系統の異形成はみられない。定義上BCR-ABL1陰性でCSF3R変異が特徴的である。
-
病理所見(初発時)(HE染色)
高度な過形成髄(cellularity 100%)で、顆粒球系が主体で好酸球も増加している。小型巨核球の増加を認める。線維化は目立たない。
-
病理所見(初発時)(CAE染色)
顆粒球系細胞が陽性に染色されるCAE染色は、造血3系統の分布様式の認識に有用である。Giemsa染色との多重染色も試みる価値がある。
-
病理所見(治療後)(HE染色)
正形成髄(cellularity 約50%)である。造血3系統を認め、赤芽球島の形成も明瞭に認められる。造血細胞の異形成はみられない。線維化はない。
-
病理所見(治療後)(CAE染色)
細胞質の広い核の分葉傾向の不明瞭な小型巨核球の増加を認める。赤芽球島はほとんど認められない。
生検された骨髄および骨髄クロット標本は十分量の良好な検体で、cellularity 50%前後の正形成髄であり、造血3系統を認める。M/E=3-4、顆粒球系優位で分葉核球までの良好な分化を呈し、芽球の増加はみられない。好酸球や単球は目立たない。初発時には不分明であった赤芽球島形成は良好である。巨核球の数は保たれ、大型成熟細胞が主体で異型性は目立たない。軽度の集簇(loose cluster)をみるが、小型巨核球の増加はみられない。鍍銀染色では線維化はみられない。鉄沈着は減少している。塗抹標本では血球貪食像もみられた。
病理診断
慢性骨髄性白血病(CML)、BCR-ABL1陽性
骨髄増殖性腫瘍(MPN)における遺伝子検査
MPNでは遺伝子検査が重要である。まずBCR-ABL1陽性のCMLとBCR-ABL1陰性のMPNに大別するアプローチが実際的である。BCR-ABL1はCMLを定義する重要な遺伝子異常であるが、診断時に慢性期(chronic phase、CP)、移行期(accelerated phase、AP)、急性転化期(blastic phase、BP)のどの相にあるかで病理像が大きく異なるので注意を要する。
慢性骨髄性白血病の概要
慢性骨髄性白血病(CML)は、造血幹細胞の異常により、顆粒球系細胞の過剰増殖を呈する骨髄増殖性腫瘍である。BCR-ABL1の作用をブロックするチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が治療に用いられるようになり予後は改善し、現在では全生存率(OS)は一般人と変わらない。
Bower H et al. J Clin Oncol. 2016; 34: 2851-2857.
慢性骨髄性白血病治療後の細胞遺伝学的完全寛解と相関する骨髄所見
TKI治療後の骨髄像の変化にはsea blue histiocytesの出現、リンパ球浸潤巣の形成、赤芽球の過形成、骨髄低形成などがある。巨核球形態および細胞密度の正常化所見は細胞遺伝学的寛解と高く相関する。
Srinivas BH et al. Indian J Hematol Blood Transfus. 2012; 28: 162-169.
Question 2
50代 男性。健診で多血症を指摘され、その後、幼若白血球の出現を認めました。患者PROFILEと病理所見を以下に示します。また、JAK2変異を調べたところ、JAK2 V617F変異が確認できました。次のうち、本症例の病理診断として考えられるのはどの疾患でしょうか?
患者PROFILE
年齢・性別
50代 男性
現病歴
健診で以前から多血症を指摘されていた。本年末梢血に幼若白血球が出現、末梢血好中球FISHでBCR-ABL1 fusion signalが陽性となり当院に紹介された。
身体所見
肝脾腫なし
血液検査
Hb 17.6g/dL、RBC 569万/μL、Ht 51.1%、MCV 89.8fL、MCHC 34.4g/dL、WBC 6,500/μL、differential; My 1.0%、St 3.0%、Seg 64.0%、Eo 3.0%、Ba 3.0%、Mo 7.0%、Ly 19.0%、Plt 20万/μL
-
病理所見(CAE-Giemsa染色)
-
病理所見(CAE-Giemsa染色)
-
病理所見(CAE-Giemsa染色)
-
病理所見(CD42b免疫染色)
cellularityは50-60%の正形成髄、あるいは軽度の過形成髄。3系統造血細胞が認められる。赤芽球血島は小型であるが明瞭で、未熟から成熟赤芽球の集簇がある。顆粒球系細胞は分葉核球まで良好に分化が認められ、芽球の増加は認められない。好酸球増多がある。M/E=8と顆粒球系細胞過形成がある。巨核球は、大型成熟巨核球が認められるほか、CD42b免疫染色で、小型で低分葉核のみられる巨核球が存在しており、CMLに出現するとされるdwarf megakaryocytesのようにみえる。血小板凝集像は観察されない。sideroblast増加なし、線維化はみられない。骨髄組織では、明らかな異形成は認められない。
-
1
慢性骨髄性白血病(CML)
-
2
真性多血症(PV)
-
3
骨髄増殖性腫瘍(MPN)with BCR-ABL1 and JAK2 V617F mutation
正解は
3骨髄増殖性腫瘍(MPN)with BCR-ABL1 and JAK2 V617F mutation
解 説
鑑別すべき疾患
- CML
- PV
- MPN with BCR-ABL1 and JAK2 V617F mutation
鑑別診断のポイント
- 症例は当院初診時にBCR-ABL1 fusion signalをFISHで検出、核型でもt(9;22)(q32;q11.2)、フィラデルフィア染色体が確認されている。
- 臨床所見は3年以上にわたり多血症を指摘されている。末梢血にleukocytosisやthrombocytosisは認められていない。
- 骨髄組織所見に注目すると、顆粒球過形成、骨髄好酸球増多、「dwarf megakaryocytes」出現などCMLに矛盾のない所見が確認される一方で、赤芽球血島が認められ、通常、血島が消失する典型的なCMLの所見とは異なっている。臨床像は多血症の診断基準を満たしており、JAK2変異を調べたところ、JAK2 V617F変異が確認できた。
Soderquist CR et al. Mod Pathol. 2018; 31: 690-704.
-
病理所見(CAE-Giemsa染色)
正形成髄、あるいは軽度の過形成髄。cellularity 50-60%、3系統造血細胞を認める。
-
病理所見(CAE-Giemsa染色)
顆粒球系過形成がある。分葉核好中球の増加、好酸球増多が認められる。画像右には成熟赤芽球の集簇があり、赤芽球血島様の所見。
-
病理所見(CAE-Giemsa染色)
巨核球は軽度に増加している。成熟巨核球像であるが、やや小型、低分葉核の巨核球が散在性に出現している。赤芽球造血が島状に認められる。
-
病理所見(CD42b免疫染色)
大型成熟巨核球の他に小型の巨核球が散在している。巨核球過形成はみられない。
病理診断
MPN with a concurrent BCR-ABL1 translocation and JAK2 V617F mutation.
BCR-ABL1 translocationとJAK2 V617F mutationの2つの遺伝子異常が併存するMPN症例が報告されている。本例は、真性多血症の臨床像、CAE染色による骨髄病理所見から典型的なCMLと異なる特徴を示し、遺伝子検査で、最終診断に至った症例である。
CMLの遺伝子検査
CMLは、9番染色体長腕に座位するABL1遺伝子と、22番染色体長腕に座位するBCR遺伝子の相互転座t(9;22)(q34;q11.2)を特徴とする疾患で、BCR-ABL1融合遺伝子を伴ったフィラデルフィア(Ph)染色体が形成される1)。90-95%の症例で、この相互転座はPh染色体der(22)t(9;22)として、通常の染色体検査で検出される。残りの症例では、別の染色体異常が付加された複雑な異常となるため、通常の染色体検査での検出が困難になることがある。その場合、BCR-ABL1融合遺伝子が、FISHやRT-PCRで検出される2)。
BCR-ABL1融合遺伝子は、キメラタンパクBCR-ABL1をコードしており、このタンパクではABL1由来のチロシンキナーゼが恒常的に活性化している。マウスモデルでは、この融合遺伝子によりCML様の病態が引き起こされることが示されている3)-4)。BCR-ABL1キメラタンパクのチロシンキナーゼが、自己リン酸化により恒常的に活性化され、JAK/STAT、PI3K/AKT、RAS/MEK、mTOR、Src kinaseやBCL2/BCL-XLなどの下流シグナルが亢進する。その結果、細胞増殖の亢進、アポトーシスの抑制などが引き起こされ、慢性期のCMLが発症すると考えられている5)。
BCR-ABL1融合遺伝子は、BCR遺伝子の5’側と、ABL1遺伝子の3’側との融合により形成される5)。ABL1遺伝子の切断点は、エクソンa2上流でほぼ一定しているが、BCR切断点として、major breakpoint cluster region(M-BCR)、minor breakpoint cluster region(m-BCR)、mu breakpoint region(mu-BCR)の3つの領域が知られており6)、切断点により疾患の表現型が異なる2)。M-BCRは、エクソン12-16に存在し、p210キメラタンパクが産生される。このタンパクは、CMLの95%、Ph陽性(Ph+)ALLの25-30%で認められる。m-BCRは、エクソン1-2に存在し、p190キメラタンパクが産生される6)。このタンパクは、Ph+ALLにしばしばみられ、CMLでは稀である6)。mu-BCRは、エクソン17-20に存在し、最も大きなキメラタンパクp230が産生される。このタンパクをもつ症例では、好中球増加もしくは血小板増加がみられることがある7)。
Ph染色体は、診断時にしばしば単一の染色体異常として認められるが、移行期や急性転化期への進行に伴って、“major route”とされる染色体異常(extra Ph染色体、+8、+19、isochromosome 17q)が付加されることがある。これらの異常が診断時にみられた場合は病期の進行が考えられ、予後不良である8)。
また、疾患の進行に伴って、TP53、RB1、MYC、NRAS/KRAS、EVI1、RUNX1、ASXL1、TET2、CBL、CDKN2A、IDH1/2などの遺伝子変異がみられるようになるが、その詳しい役割については不明である9)-10)。
参考文献
1) Vardiman JW, Melo JV, Baccarani M, Radich JP, Kvasnicka HM. Chronic myeloid leukaemia,
BCR-ABL1―positive. In: Steven H. Swerdlow et al.(eds) WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Revised 4th Edition, Lyon, 2017, p.30-36.
2) Melo JV. Blood. 1996; 88: 2375-2384.
3) Kelliher MA, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 1990; 87: 6649-6653.
4) Daley GQ, et al. Science. 1990; 247: 824-830.
5) Chereda B, et al. Ann Hematol. 2015; 94 Suppl 2:S107-121.
6) Cea M, et al. Curr Cancer Drug Targets. 2013; 13: 711-723.
7) Pane F, et al. Blood. 1996; 88: 2410-2414.
8) Fabarius A, et al. Ann Hematol. 2015; 94: 2015-2024.
9) Makishima H, et al. Blood. 2011; 117: e198-206.
10) Soverini S, et al. Clin Lymphoma Myeloma Leuk. 2015; 15 Suppl: S120-128.
Question 3
微熱、倦怠感、食欲減少、腹部膨満を認める男児。患者PROFILEと病理所見を以下に示します。次のうち、本症例の病理診断として考えられるのはどの疾患でしょうか?
患者PROFILE
年齢・性別
男児
現病歴
1ヵ月前から家族が男児の腹部膨満に気づき、徐々に増強した。同時期より、微熱、倦怠感、食欲減少も認めた。既往歴、家族歴特になし。
身体所見
肝を右季肋下7横指、脾を左季肋下に6横指、また両側頚部リンパ節を数個触知した。
血液検査
WBC 235,000/μL、RBC 291万/μL、Hb 6.9g/dL、Ht 24.8%、Plt 37.4万/μL
末梢血にて幼若骨髄球がみられ、またmajor bcr-abl mRNAコピー数の上昇が認められた。骨髄染色体検査:分裂中期細胞20個中20個に、t(9;22)(q34;q11.2)が認められた。
-
病理所見(HE染色)
-
病理所見(HE染色)
-
病理所見(HE染色)
-
病理所見(CD42b免疫染色)
骨髄クロット標本は、cellularity>90%の高度な過形成髄である。M/E>5、巨核球は小型から成熟細胞まで認められる。著明な顆粒球の増加を認める。顆粒球は分化がみられ、好酸球も増加している。骨髄球レベルの幼若細胞が増生する箇所を認める。芽球の増生はみられない。赤芽球は著減しており、血島形成が不明瞭である。免疫染色では、CD42b陽性の単核、低分葉核の小型巨核球が増加している。
-
1
反応性好中球増多
-
2
慢性骨髄性白血病(CML)
-
3
若年性骨髄単球性白血病(JMML)
正解は
2慢性骨髄性白血病(CML)
解 説
鑑別すべき疾患
- 反応性好中球増多
- 慢性骨髄性白血病
(chronic myeloid leukemia, BCR-ABL1-positive: CML) - CML以外の骨髄増殖性腫瘍、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍
- 若年性骨髄単球性白血病
(juvenile myelomonocytic leukemia: JMML)
鑑別診断のポイント
反応性好中球増多は種々の原因により生じるが、末梢血白血球数は、50,000/μL以下であることが多い。重症感染症、悪性腫瘍の骨転移などに伴う、類白血病反応とよばれる状態では、この値を超えて白血球は増加する。CMLと異なり、末梢血で増えるのは成熟好中球が主体であり、また核は左方移動を示し、中毒性顆粒がみられる。芽球は通常みられない。
CMLの診断については、成人例と同様で、BCR-ABL1融合遺伝子の確認が必須である。
CML以外の骨髄増殖性腫瘍、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍との鑑別については、他章の記載に譲るが、小児の代表的な骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍であるJMMLとの鑑別が特に重要である。JMMLは、顆粒球、単球系細胞を主体として増殖する疾患で、小児の骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍の20-30%を占める。多くは3歳以下で発症するが、3歳を超える症例も存在する。85%の症例でRASpathwayに関与する遺伝子(PTPN11、NRAS、KRAS、CBL、NF1)の変異が認められる。
BCR-ABL1融合遺伝子はみられない。症状として、一般に著明な肝脾腫をみる。末梢血の所見が特徴的で、白血球の増加、とくに未熟細胞を含む好中球、単球が増加し、単球は、過分様、桿状様の核など形態異常を伴う。芽球は20%より少ない。血小板は減少することが多い。骨髄所見は、末梢血に比べ非特異的だが、顆粒球系細胞の増生を伴う過形成髄を示す。単球の増加は末梢血のように目立つことは少ない。巨核球が減少することが多く、異型をみることもあるが顕著な例は少ない。肝脾病変は多くみられるが、他部位(リンパ節、皮膚、肺、消化管)にもしばしば髄外病変が形成される。
-
病理所見(HE染色)
骨髄クロット標本は、cellularity 90%以上の高度過形成髄である。分化を伴った顆粒球の増生が主体であり、好酸球も増加している。赤芽球は著減し、血島形成が不明瞭である。
-
病理所見(HE染色)
骨髄球レベルの幼若細胞の増生する箇所が認められる。芽球の増生はみられない。
-
病理所見(HE染色)
巨核球は、小型~成熟細胞まで認められるが、単核で低分葉核の細胞(dwarf megakaryocyteと形容される)が増加している。
-
病理所見(CD42b免疫染色)
CD42bの免疫染色は巨核球の同定に有用である。単核で低分葉核の巨核球が増加している。
病理診断
慢性骨髄性白血病(慢性期)
小児CML
小児CMLはまれな疾患で、小児の全白血病の中で2-3%を占める。本邦での年間発症頻度は、約20例(18歳未満)である1)。診断は成人例と同様に行うが、症状や遺伝子学的所見などいくつか違いのあることが指摘されている。
慢性期では初期は無症状だが、成人例が健診で早期発見されることが多いのに比べ、小児では、発熱、倦怠感、腹部膨満などを主訴に発見されることが多く、進行期で診断される頻度が高い1)-4)。脾腫を来すことが多く、成人例と比べ相対的に脾臓サイズが大きい2)。白血球数は成人例より高い傾向にあり、25万/μL程度となる2)。急性転化時には、白血病と同様の症状、所見を示す1)。
成人CMLと同様、BCR-ABL1融合遺伝子がみられるが、BCRにおけるbreakpointの分布は異なっており、小児CMLでのBCR breakpointは、Alu配列内に多く、むしろ成人のBCR-ABL1-positiveALLに似ているとされる2)。また、成人CMLではb3a2融合遺伝子症例において血小板の増加傾向がみられるが、小児CMLではそのような傾向が明瞭ではない。その一方で成人CMLと同様、b3a2融合遺伝子症例では、イマチニブに対する反応が早いとする報告がある2)。遺伝子学的所見の意義については、今後の検討が必要とされる。
治療は成人と同様チロシンキナーゼ阻害薬を使用するが、その中止基準は定まっていない1)-2)。予後については、本邦の調査で、慢性期CMLで5年無増悪生存率92%、5年全生存率95%と報告されている1)。移行期・急性転化期の予後については明確なデータはない。
参考文献
1) 嶋田 博之. 慢性骨髄性白血病. 小児科. 2014; 55: 1751-1756.
2) Hijiya N et al. Blood. 2016; 127: 392-399.
3) AFIP atlas of tumor pathology. Tumors of the bone marrow 4th series
4) hiele J, Kvasnicka HM, Orazi A, Tefferi A, Birgegard G, Barbui T.
Polycythaemia vera. In: Steven H. Swerdlow et al.(eds) WHO
Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues.
Revised 4th Edition, Lyon, 2017, p.30-36.