執筆・監修
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東海大学医学部
基盤診療学系病理診断学
教授中村 直哉 先生
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愛媛大学大学院医学系研究科
血液・免疫・感染症内科学
教授竹中 克斗 先生
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埼玉医科大学保健医療学部
臨床検査学科・医学部病理学
教授茅野 秀一 先生
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日本赤十字社愛知医療センター
名古屋第一病院 病理部
顧問伊藤 雅文 先生
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KDP病理診断科クリニック
谷岡 書彦 先生
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静岡県立こども病院
病理診断科
科長岩淵 英人 先生
- 6名の骨髄病理のエキスパート(師範)が選ぶ24症例をもとに、骨髄増殖性腫瘍(MPN)および骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)の各病型をクイズ形式でご紹介します。
- 解説では、各症例に即した病型ごとの形態的特徴やエキスパートによる最終診断までのプロセスをご覧いただくことができます。
- 今回は次の3症例です。
- 関節リウマチ治療中に血小板増多を指摘された70代 女性
- 数年前より健診で赤血球増多、血小板増多を指摘されている40代 男性
- 健診で貧血、白血球増多を指摘された60代 男性
Question 1
70代 女性。関節リウマチ治療中に血小板増多を指摘されました。患者PROFILEと病理所見を以下に示します。次のうち、本症例の病理診断として考えられるのはどの疾患でしょうか?
患者PROFILE
年齢・性別
70代 女性
現病歴
関節リウマチの治療中に血小板増多を指摘された。特に自覚症状はない。
身体所見
脾腫なし
血液検査
WBC 7,600/μL、Hb 11.3g/dL、Plt 77.7万/μL、JAK2 mutation(+)
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病理所見(HE染色)
-
病理所見(HE染色)
-
病理所見(HE染色)
-
病理所見(CD42b免疫染色)
生検された骨髄および骨髄クロット標本は十分量の良好な検体で、cellularity 70-80%の過形成髄で3系統の細胞をみる(panmyelosis)。ただし、造血実質の分布はやや不均一である。血島の形成と顆粒球の増加、分化をみる。一方、巨核球は過分葉核を伴う大型成熟細胞の増加が観察される。血小板凝集を伴い、異型の軽度な成熟巨核球増多を認め、稠密な集簇(dense cluster)形成をみる。芽球の増加はみられない。好酸球や単球の増加はみられない。鍍銀染色で線維化はない。免疫染色では、CD42b陽性巨核球は単核小型細胞から過分葉を呈する大型成熟細胞まで連続性に増加を認める。CD42b陽性血小板の凝集を認め、巨核球の陽性所見は細胞辺縁により強くみられる。
-
1
本態性血小板血症(ET)
-
2
反応性巨核球増多症
-
3
骨髄線維症前線維化期(prePMF)
正解は
1本態性血小板血症(ET)
解 説
鑑別すべき疾患
- 本態性血小板血症(ET)
- 反応性巨核球増多症
- 骨髄線維症前線維化期(prePMF)
鑑別診断のポイント
〈 反応性巨核球増多症 VS 本態性血小板血症 〉
- 反応性は血球増多が一過性の場合が多く、持続的に血球増多を呈する場合は骨髄増殖性腫瘍をより考える。
- 反応性では巨核球増生の抑制がかかるため、幼若巨核球や小型細胞の増加はみられない。小型細胞から成熟細胞までの連続性のある巨核球増多は骨髄増殖性腫瘍をより考える。
〈 本態性血小板血症 VS 骨髄線維症前線維化期 〉
- ETは血小板単独増多であるが、prePMFでは白血球増多、貧血を伴う場合がある。
- 脾腫はETよりprePMFで頻度、程度が高い。
- 線維化(>MF-1)は、ETではほとんどみられない。
- ETの巨核球は核の分葉が明瞭で過分葉核が特徴である。
- prePMFの巨核球は、核異型の増加が目立ち、雲状核(cloud like)を呈する成熟細胞が特徴的である。
- 巨核球の稠密な集簇(dense cluster)は、prePMFに特徴的な所見である。
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病理所見(HE染色)
生検された骨髄は過形成髄(cellularity 70%)で、線維化はみられない。
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病理所見(HE染色)
造血実質は不均一に分布する。
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病理所見(HE染色)
3系統の細胞の増加を認め、panmyelosisをみる。赤芽球の血島形成を認め、顆粒球の分化を示す。集簇性に認められる巨核球は、核の過分葉を認め、異型がある。
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病理所見(CD42b免疫染色)
巨核芽球から血小板まで陽性に染色されるCD42bは、巨核球の同定に有用な染色である。細胞辺縁により強い陽性所見を呈する巨核球の増加を認める。小型細胞から分葉核を有する大型細胞までの増加を認める。
病理診断
本態性血小板血症(ET)
骨髄標本の見方
骨髄組織標本の見方といっても正常構築の知識を基礎に組織所見を解釈していく点は、ほかの組織と変わらない。
【低倍率(対物4倍):造血組織は確認できるか?観察に適した部位を探す】
- 有核細胞密度。造血組織と脂肪組織の面積の割合【%】で示すことが多い。目安は100-年齢【%】。有核細胞密度は年齢とともに減少するが、参考となる図のコピーが手元にあると便利である。30%が低形成の基準とされるが、70歳以上では20%が低形成の基準となる。
- 過形成髄では溶血性貧血、巨芽球性貧血に代表される反応性変化の可能性、非造血器腫瘍(癌の骨髄転移)、造血器腫瘍(白血病・リンパ腫、MDS、MPN)を考慮する。
- 低形成髄では再生不良性貧血、化学療法後、感染症、血球貪食症候群などを考えるが、AML、MDSでは脂肪細胞の間に芽球が隠れている場合もあるので、注意して観察を進める。
【中倍率(対物10倍):細胞系統が区別できるか? 標本の質をチェックする】
- 血液細胞は他系統の細胞と比べて小型のものが多いので、切片が厚いと観察が制限される。造血3系統の分布、成熟傾向をチェックする。
- 造血細胞のすみ分けを考える。顆粒球系細胞は骨梁に沿って分布し、成熟するにしたがって骨髄腔に分布する。赤芽球はマクロファージを中心とした集簇(赤芽球島)を形成して、骨髄腔に分布する(分離造血)。巨核球も骨髄腔の静脈洞周辺に分布する。巨核球が5個以上の集簇を作っていればMPNを疑う。
- 骨髄には通常みられない領域があるか?
- 青い領域➡細胞質の狭いリンパ球増加の可能性を考える。
- ピンク色の領域➡細胞質の広い組織球(鉄染色で陽性のことあり)や形質細胞増加はないか?
- 大きな細胞の集簇➡癌の転移・巨核球の増生
- 細胞が流れるように分布して➡線維化はないか?必要であれば鍍銀染色を行う。
【高倍率(対物20~40倍):個々の細胞形態の評価】
- 巨核球:細胞の大きさ、核の分葉状態・異型性(特に核濃染の有無)はあるか?
- 顆粒球系細胞:分葉核好中球は認められるか?芽球(核小体が明瞭)は増えているか?CAE染色やギムザ染色で好酸球や好塩基球、単球と区別する。
- 赤芽球:核は円形で周囲にhalo(明庭)がみられる。通常は島状に分布する。鉄染色でsideroblastはみられるか?
Question 2
40代 男性。数年前より健診で赤血球増多、血小板増多を指摘されています。患者PROFILEと病理所見を以下に示します。次のうち、本症例の病理診断として考えられるのはどの疾患でしょうか?
患者PROFILE
年齢・性別
40代 男性
現病歴
数年前から健診で血小板増多を指摘されていた。特に自覚症状はない。
身体所見
脾腫なし
血液検査
WBC 4,900/μL、Hb 21.2g/dL、Plt 48.6万/μL
-
病理所見(HE染色)
-
病理所見(HE染色)
-
病理所見(HE染色)
生検された骨髄標本は長さ20mm程度の素晴らしい組織で、十分量の良好な検体である(採取された標本の状態をフィードバックすることは大切)。高度な過形成髄(90%, Meg. 15/mm2,M:E=1:1)である。巨核球はやや過分葉核を伴う大型成熟細胞をみるが、小型巨核球はみられない。また、集簇傾向もない。赤芽球は血島形成をみる。顆粒球は分葉核球までの良好な分化を呈し、芽球の増加はみられない。好酸球や単球の増加はみられない。
-
1
慢性骨髄性白血病(CML)
-
2
真性多血症(PV)
-
3
本態性血小板血症(ET)
正解は
2真性多血症(PV)
解 説
鑑別すべき疾患
- 慢性骨髄性白血病(CML)
- 真性多血症(PV)
- 本態性血小板血症(ET)
鑑別診断のポイント
〈 慢性骨髄性白血病(CML) VS 真性多血症(PV) 〉
- CMLでは顆粒球の増加が著しく、血島の形成をみることは少なく、panmyelosisはnon-CMLを示唆する。
- CMLでは巨核球の増加を示すことがあるが、核の過分葉を示すことはない。
〈 真性多血症 VS 本態性血小板血症 〉
- Hb、Pltそれぞれの基準を超えている場合は、ETよりもPVのことが多い。
- 巨核球の集簇傾向はPVよりもETの所見である。
-
病理所見(HE染色)
生検された骨髄は高度な過形成髄(cellularity 90%)。
-
病理所見(HE染色)
3系統の増生を認める(panmyelosis)。血島の形成を散見する。
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病理所見(HE染色)
3系統いずれも増加を認める。芽球の増加はみられない。Abnormal megakaryocytesを示す。
-
病理所見(HE染色)
PVでは高度な細胞増生のほか、類洞の拡張を認めることがある(写真は本症例とは異なる例)。
病理診断
真性多血症(PV)
骨髄検体の処理方法
【固定】
固定液は、通常の組織診断と同様の10%中性緩衝ホルマリン液が用いられる。検体を電顕検索に用いる場合は、グルタールアルデハイド固定液での処理が必要である。
骨髄はホルマリン色素が出現しやすく、中心部が固定不良になりやすい。室温で長時間保管され、酸化した固定液、長時間固定はホルマリン色素を析出する。新鮮な固定液が望ましいが、冷蔵庫などで低温管理したホルマリン固定液は安定している。免疫染色、遺伝子解析では、良質な10%中性緩衝ホルマリン固定を凌ぐ結果は得られない。高い濃度のホルマリンでは、しばしば遺伝子検索が困難となる。固定時間は24時間以内で十分である。週末など包埋までに時間がかかる検体は、冷蔵庫で保管すると、ホルマリン色素の析出を予防できる。
【クロット標本作製】
穿刺吸引された骨髄液は、スライドグラスや時計皿に広げ、塗抹標本の作製や、フローサイトメーター用の細胞を採取し、残った検体が凝血した段階で、静かにホルマリン固定液に移す。
大きな検体の場合、提出された検体にカミソリで割面を入れて固定することにより、良好な固定と多くのサンプルを確保できる(画像)。末梢血の混入は、クロット標本観察では阻害要因とならないので、溶血などによる末梢血の除去は行わない。
【脱灰操作】
骨髄生検標本の脱灰は、蟻酸などの酸脱灰が迅速性に優れ、広く用いられてきた。脱灰程度の調整が難しく、しばしば過脱灰や、中和不良による染色性の低下が生じる。免疫染色は比較的染色可能であるが、DNAの変性が強く遺伝子検索には適さない。
骨髄生検では、EDTA脱灰が最も適切な脱灰方法である。酸脱灰に比べ時間がかかるが、免疫染色の染色性やDNAの回収率でも格段に優れ、組織FISH法での検討も可能である。骨髄生検検体は、市販の0.5M 2Na塩EDTA液(pH7.0)で、室温6時間以内にほぼ脱灰できるが、十分な脱灰には室温でオーバーナイトが適当である。長時間のEDTA脱灰で細胞が収縮する傾向があり、不必要に長い脱灰を行わないことが重要である。
Question 3
60代 男性。健診で貧血、白血球増多を指摘されました。患者PROFILEと病理所見を以下に示します。次のうち、本症例の病理診断として考えられるのはどの疾患でしょうか?
患者PROFILE
年齢・性別
60代 男性
現病歴
職場健診で貧血と白血球増多を指摘された。特に自覚症状はない。
身体所見
脾腫なし
血液検査
WBC 11,000/μL、Hb 9.0g/dL、Plt 26.1万/μL、JAK2 mutation(+)
-
病理所見(HE染色)
-
病理所見(鍍銀染色)
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病理所見(HE染色)
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病理所見(マッソントリクローム染色)
生検された骨髄および骨髄クロット標本は十分量の良好な検体で、cellularity 90%の高度な過形成髄である。膠原線維の増加(HE染色、マッソントリクローム染色)、好銀線維の増加(鍍銀染色)を認める。本症例では、巨核球の増加は目立たない。顆粒球は分葉核球までをみるが、芽球の増加はみられない。好酸球や単球の増加はみられない。
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1
本態性血小板血症(ET)
-
2
骨髄線維症前線維化期(prePMF)
-
3
原発性骨髄線維症(PMF)進行期
正解は
3原発性骨髄線維症(PMF)進行期
解 説
鑑別すべき疾患
- 本態性血小板血症(ET)
- 原発性骨髄線維症(PMF)進行期
鑑別診断のポイント
〈 本態性血小板血症 VS 骨髄線維症 〉
- ETは血小板単独増多であるが、PMFでは白血球増多、貧血を伴う場合がある。
- ETの巨核球は、核の分葉が明瞭で過分葉核が特徴である。
- 膠原線維の増生(Grade 2以上)、好銀線維の増加(Grade 1以上)を認めれば、PMFである。
- 骨髄線維症では、巨核球の変形や核不整をみることがあるが、ETのような鹿角状核(staghorn)、雲状核(cloud like)と言われるような核異型はない。
〈 骨髄線維症前線維化期 VS 骨髄線維症 〉
- 膠原線維の増生はGrade 2以上で、進行期PMFになる。
- prePMFの巨核球は核異型の増加が目立ち、cloud likeを呈する成熟細胞が特徴的である。
- 巨核球の稠密な集簇(dense cluster)は、prePMFに特徴的な所見である。
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病理所見(HE染色)
生検された骨髄は骨梁間を埋めるような増生を認め、高度な過形成髄(cellularity 90%)で、線維化を伴う。
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病理所見(鍍銀染色)
骨梁間に鍍銀染色で染色される好銀線維のびまん性増加をみる。
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病理所見(HE染色)
線維化と多様な細胞の増生をみる。
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病理所見(マッソントリクローム染色)
骨梁間に青色の線維成分の増加をみる。
病理診断
原発性骨髄線維症(PMF)進行期
骨髄穿刺の注意点
1)目的
骨髄穿刺は、末梢血の血球数に異常値がみられた場合、あるいは、末梢血の白血球分画で異常細胞が出現した場合の造血器疾患の診断や骨髄造血能の評価、悪性リンパ腫などの骨髄浸潤の有無の評価を目的に実施する。
2)患者への説明
皮膚の消毒から骨髄採取終了まで約10分を要すること、局所麻酔を行うが、骨髄の穿刺時の圧迫感や、骨髄を吸引する際には引っ張られるような疼痛を生じること、穿刺後は止血のために30分程度の安静が必要であることなどを説明しておく。
3)手技
- 成人の場合、穿刺部位としては胸骨や腸骨から行う。胸骨では、第2~3肋間の高さで胸骨の正中線上、腸骨では上後腸骨棘(図1)で皮膚から近い平坦な部分から穿刺を行うが、安全性の観点から腸骨からの穿刺が推奨されている。
- 腸骨からの採取の場合は、腹臥位で、楽な姿勢をとってもらう。皮膚表面から触診で骨の形状を探り、穿刺部位を決定する。
- 穿刺部皮膚を消毒後、穴あきの滅菌シーツをかける。
- 皮膚、皮下、骨膜表面に局所麻酔を十分に行う。骨膜は最も痛みが強いので、骨膜に対して針の向きを変えながら十分に麻酔を行う(図2)。
- 骨髄穿刺針にて穿刺を行い、皮下組織を貫いた後、針先端で骨表面を確認する。平坦で穿刺に適した部位か確認し、針を垂直に押し進める。
- 針先が骨皮質を貫通し、骨髄腔内に達すると抵抗が減弱する。
- 内針を抜き取り、外套針にシリンジを取り付け、骨髄内の血液を0.5mL程度、末梢血による希釈を避けるため、瞬時に吸引し、採取する。このときに独特の疼痛があるため、吸引時には患者に合図してから吸引するよう心がける。採取した骨髄液は、細胞数のカウント、塗抹標本に使用する。検体が凝固する前に素早くスライドガラスに塗抹することが必要である。
- 染色体分析や表面マーカー検査、遺伝子検査などを行う場合は、❼でやや多めに吸引するか、少量のヘパリンを吸引した別のシリンジで数mL採取する。ヘパリンを使用しない場合には、各検査用のスピッツに素早く検体を分注する。
- 採取が終了したら、穿刺針を抜き、ガーゼで圧迫止血を行う。その後、仰臥位とし、30分程度安静をとる。止血を確認後にガーゼの付け替えを行い終了する。
4)注意点
- 胸骨から穿刺を行う場合は、骨を貫通すると、大動脈損傷や心タンポナーデなどの重篤な合併症を生じる可能性があることから、十分な経験を有する専門医以外は穿刺部位としては避けることが望ましい。専門医が行う場合も、局所麻酔時に、皮膚表面から骨表面までの深さを注射針で確認し、穿刺針のストッパーの位置を調整して、針が深く入りすぎないように注意する。
- 凝固因子異常がある場合には、穿刺後の出血のリスクがあるため、原則避ける。
- 高齢者では、骨粗鬆症などがあると、穿刺時に過剰に力を加えると、針が大きく進むことがあるので、慎重に針を進めるように注意する。